第9話 乗らなくていいの?

 広間に移動して、ユーサーとヤーは向かい合う。


「では……先日決まったことをおさらいしましょう」ユーサーは黒板の前に立って、「コンセプトは『実戦的』かつ『勇者の知名度』を活かせる動画投稿」

「そのコンセプトで考えた結果……今のところ『トレーニング動画』を投稿することになったんだよね。筋トレとか柔軟とか……護身術とか」

「はい。『勇者はやはり強い』というやはりに応えられ、さらに実戦的。強さを求める者、安全を求める者にとっては必要な情報になります。その人たちが動画を再生してくれる」


 ということで投稿動画の方向性は固まってきた。


 そこで、ヤーから質問。


「1つ聞いてもいいかな?」

「ご遠慮なく。何でも聞いてください」

「ありがとう。それで……その、『流行りには乗らなくていいの?』」

「……」ユーサーにとっても難しい質問のようだった。「……最終的には流行を利用することも必要でしょう。しかし、ただ流行だけを追いかけ回しても意味がない」

「……ふむ……」

「流行物に、自分の特技を乗せられる場合は流行を追いましょう」

「たとえば?」

「そうですね……たとえばレースゲームが流行して……仮に元レーサーという肩書のone-tuberワン・チューバーがいれば『元レーサーがゲームでもレースをした』という動画が投稿できます。どう転んでも『やはり』と『まさか』を満たせる」

「なるほどね……やはり元レーサーはゲームのレースもうまい……あるいは『まさか元レーサーがここまでレースゲームができないとは』というまさかも満たせるんだ」


 『まさかを見せる』についてはまだユーサーに教えてもらっていないが。でも、なんとなく想像はできる。おそらくギャップの話なのだ。


「そうですね。あなたのチャンネルが流行とかぶることがあるのか……それはわかりませんが……まぁ、狙えるときは狙っっていきましょう」

「わかった」ヤーはさらに手を上げて、「もう1つ質問」

「どうぞ」

「なんで黒板を使うの? パソコンがあるのに」

「逆に質問です。ヤーさんは文書を共有して編集したり、高速でのタイピングができますか?」

「……ごめん……野暮な質問だった……」

「野暮ではありませんよ。機器を使うのは効率的ですからね。時間があれば、ヤーさんも勉強して使えるようになってください」

「……わかりました……」


 今のヤーは、概要欄の文章すら打ち込むのに時間がかかっている。そんな状態でリアルタイムでのコミュニケーションは難しいだろう。ならば、手書きでやっておいたほうが効率が良い。


「さて……それではこの調子で、どんどん動画のアイデアを出していきましょう」

「え……まだ出すの?」

「当然です。目標は毎日投稿……副業としての動画投稿ならともかく、本業ならもっとやりなさい」

「はい……」


 もう頭が上がらないヤーだった。


「とくに護身術……これは技を分けていけば動画数を稼げます。難易度別に分けても良いでしょう。女性向け……は、昨今の情勢を考えると記載すべきではありませんね。筋トレの素振りの方法も――」


 それから、ユーサーの動画投稿講座は続いた。ヤーはメモを取りながら話を聞いていた。ヤーは今まで我流で動画投稿をしていたので、こうやって教えてくれる人間がいるのはありがたい。


「さて……」一通り会議を終えて、「では……そろそろ昼食休憩にしましょう。準備をしますので、少々お待ちを」

「ありがとう」

「昼食を食べ終わって、少し休憩したら……いよいよ動画撮影開始です」

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