伝説の勇者チャンネル2、改め……

第8話 じゃあ8?

 時代の進化に取り残された勇者ヤー。その勇者の前に現れた謎の少女ユーサー。ユーサーは勇者ヤーの動画投稿にアドバイスをしてくれるらしい。


 ユーサーが押しかけてきて、翌日。勇者ヤーは自室で目を覚ます。いつものように朝は早い。日が出る頃にはとっくに起きているヤーである。


 自室であくびをして、それからキッチンに行くと、


「おはようございます、ヤーさん」


 そこにはすでにユーサーの姿があった。しかもエプロン姿である。相変わらずローブはかぶっているけれど。


「おはよう。早いね」

「住まわせてもらう身ですからね。朝食くらいはご用意します。前日にキッチンと食材の使用許可はいただきましたから」

「そうだね。ありがとう」ヤーはつい朝食を抜いてしまうことが多々あるので、こうして用意してくれるとありがたい。「それで……今日はどうするの?」

「はい。明確な一日のスケジュールを決めていきます。といってもアバウトに……午前中は企画。午後に撮影、という感じです」

「なるほど。わかった」


 それからしばらくして、ユーサー手作りの朝食が完成する。パンとコーヒーと目玉焼き。オーソドックスな朝食だった。


 ユーサーはそれを配膳しながら、


「ありきたりで申し訳ないです」

「用意されるだけでありがたいんだけど……そんな食にこだわりもないし」

「冷蔵庫を見ればわかりますよ。今度、買い出しに行ってきますね」

「……なにからなにまでありがとう……なんか悪いね……」

「いえ……もしも動画投稿による収入が確立されれば、私もおこぼれを貰う予定ですから」それからユーサーは思い出したように、「そうだ……動画投稿による収益が得られた場合……分配はどういたしますか?」

「え……?」ヤーがコーヒーを飲んでから、「半分じゃないの?」

「え……?」ユーサーがパンを食べる手を止めて、「……それはさすがに……許されないでしょう」

「……じゃあ7対3くらい? ユーサーさんが7で」

「なんでですか」

「じゃあ8?」

「そうではなくて……」ユーサーは自分を落ち着けるようにコーヒーを一口飲んで、「……なんで私のほうが多いんですか?」

「……それは……だって、キミのアドバイスで動画で収入が得られたら……それはユーサーさんのおかげでしょ。俺は再生回数100回とかだったし……まだ収益化できてないからね。もしも収益化できたら、それはキミのおかげ」


 ユーサーはヤーの主張を意外そうに聞いていたが、やがて、


「……さすがにヤーさんのほうが多くもらうべきですよ」

「え……そうなの?」

「……家も貸してもらっていますし……家賃だと思ってヤーさんが多く受け取ってください」

「それは……なんだかなぁ……この家も、魔王討伐の褒美としてタダでもらったものだし……」

「命がけで手に入れてるじゃないですか」


 魔王討伐の褒美なら、命をかけて戦った褒美ということである。それをタダというのは無理がある。ユーサーに気を遣わせないための発言だったが、どうやら逆効果だったらしい。


「……本来なら1割でももらえたらありがたい、という立場なのですよ。私は」

「そうかなぁ……面倒だし半分で良くない?」

「……」このままだと水掛け論だと思ったのだろう。ユーサーが、「では……私の取り分から動画の撮影費用は出すということで……それなら、半分の報酬を受け取りましょう」

「……うーん……」できればユーサーにも同じだけの対価を受け取って欲しいのだけれど。「……まぁ、それでいいや。でも、俺も欲しい物があったら自分で買うけれど」

「……ありがとうございます」


 ということで、取り分は半分ずつ。50%50%だ。そのほうが後腐れなくていい。ヤーとしてはもともと動画投稿によって収入は得られていなかったのだから、少しでももらえたら御の字である。


「お金で思い出しましたが……現在の貯蓄はどれほどありますか?」

「……正直少ないね。すごく節約して、1年?」

「……なるほど……動画投稿で稼ぐまでの猶予としては、短いですね。短期間でうまく行けば問題ありませんが……」

「ちなみに……動画投稿ってどれくらいお金がもらえるの?」

「チャンネル登録者1000人くらいで……1万前後に届けばありがたい、という感じでしょうかね。1万人を超えれば、なんとか仕事として成り立つでしょうか」

「じゃあ……とりあえずの目標は1万人か……」

「そうですね。今の登録者数が5人ですから……」

「長い道のりだね」

「そうですね」


 そんな世間話を終えて、2人は朝食を食べ終わる。ユーサー手作りの朝食は基本に忠実で食べやすく、とてもありがたい食事だった。


「さて……」ユーサーは朝食を片付け終わって、「では……さらに動画の内容について突き詰めましょうか」

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