第48話 ごはんできたよ


 サチュロスワークスの襲来。そしてユーサーが魔王の娘であることがライブ配信で世界中に知らされてしまった。


 それから、しばらくの時間が経過した。ユーサーは自室にこもりっきりで、話しかけられる雰囲気ではなかった。ヤーとしてはユーサーが自分から出てきてくれるのを待つのが最善に思えた。

 

 その間に、いろいろとネット上で情報を収集していく。


「……」まずはSNSのトレンドランキングを調べていく。「……なるほど……世間を騒がせてるみたいだね」


 ランキングには『ララ・ラララ』『ララ』『魔王』『魔王の娘』『ララちゃん』『勇者と魔王』というような言葉がズラリと並んでいた。サチュロスワークスとやらの知名度と拡散力は本物らしく、すでに多くの人がユーサーの……ララ・ラララの正体に釘付けであるようだった。


『俺……魔王に両親殺されてんだよな……ララちゃんが悪いとは限らないけど……できれば最初から教えてほしかった』

『魔物なんて全員悪なんだから殺しちゃえよ』

『魔王の娘とか、生きてるだけで極刑だろ』

『なんで勇者と一緒にいるの?』

『勇者と組んで魔王軍再建? だとしたら、勇者と魔王はグルだったの? 一度英雄になってからの逆襲?』


 どうやらいろいろな意見があるらしい。ユーサーやヤーを養護する声もたまにあるが、世論の流れは『魔王の娘は悪』というもの。

 そりゃそうだろう。親の存在というのは大きいのだ。好きな人の子供なら、子供自体も好きになる。逆に嫌いなやつの子供なら、子供まで嫌いになる。そして世界を征服しようとして人間を殺していた魔王は、多くの人に嫌われていた。

 だから……その子供であるユーサーも……


 ……どうすればいいのだろう。ヤーとしてはユーサーが何者であろうが関係がない。ユーサーはユーサーだ。魔王の娘だろうが、なんでもいい。ユーサー本人がどんな人なのかが重要なのである。


 しかし……ユーサーはどうだろう。自分のせいで、ヤーに迷惑をかけたと思っているだろう。そんなことはないのだけれど、気に病んでしまうだろう。真面目で優しいユーサーだからこそ、気にしてしまうだろう。


 実際に、ララ・ラララのチャンネル登録者数は目に見えて減っていっている。そしてそれは勇者のチャンネルも同じだ。コメント欄にも誹謗中傷が書き込まれ……俗に言う炎上ってやつだ。


 ……どうしたものか……火消しも大事だけれど、今はユーサーのことが心配だ。


 考えながら昼食を作っていく。今日はユーサーの好物である野菜炒め。ユーサーが作っていたのを真似して作ってみる。メニューをしっかり見ながら作ったつもりだったが、なんだか味が濃い気がする。いろいろと調整しているうちに、よくわからない味になってしまった。


 とはいえ、一応完成した。そして、


「ユーサーさん」扉をノックして、「ごはんできたよ。一緒に食べよう」


 返事はない。しばらく待ってもう一度声をかけるが、やはり返答はなかった。気配的に室内にいるのはわかるのだが……やはりまだ落ち着いていないらしい。そんなに気にすることじゃないのに。


 完成した野菜炒めをテーブルに用意して、しばらく待つ。何度も声をかけるのは無粋な気がした。まぁ食事くらい冷めてもいいだろう。ユーサーの心を回復させることが先決だ。


 背もたれに体重を預けて考える。


 ……今日の動画投稿はどうしようか。このまま視聴者になんの説明もなしでは、さすがに納得してもらえないだろう。今回のことについては早いところ説明動画をあげなければ。


 ……


 ……いっそこのまま動画投稿を引退してもいいな。どこか人が立ち入れないような場所にユーサーと一緒に行ってもいい。自給自足とかすれば、なんとか生きていけるだろう。いや無理か? しかし、このままユーサーが塞ぎ込んでいるよりはよっぽどいい。


 どうしようかなぁ……今のユーサーになんて声をかければいいのだろうか。その答えがヤーにはわからない。

 

 思えば、勇者時代に仲間なんていなかった。1人で戦って1人で旅をして、1人で魔王を討伐した。こう言っては悪いが、勇者の強さについて来れたものは存在しなかった。だから1人で戦っていた。


 そんな勇者にはじめてできた仲間……それがユーサーだ。一緒に考えて、一緒に行動して、一緒に食事をして……ここ最近のヤーの生活には、常にユーサーがいた。そこまで長い付き合いだったわけじゃないけれど、同じ目的を持った仲間だった。

 そんな大切な仲間が、傷ついてしまった。そんなときにどうすればいいのか……ヤーにはわからない。


 わからないが、行動しなければならない。この仲間を見捨てるという選択肢は存在しない。


 なんとかしなければならない。ユーサーの心が傷ついたままではいけない。

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