もうちょっと大人になってるはずだった 答え合わせができるくらいに

 それからのことは、この小説に記したとおりだ。

 これが常盤の物語。


 近づきたいと思いながら、二人の仲を取り持つためというエクスキューズをつけないと行動も起こせなかった。あえて嬉しいことを伝えるのにヘタな短歌を詠むふりをしたり、「遠くて近き」なんてわざと匂わせたり。ほんとは自分でも自覚していたのかもしれない。

 でも、常盤は自分の心をしまいこんだ。彼の元クラスメートに問い詰められたときも、彼が目標に向き直っていることを知ったときも、先輩から好意を告げられたときも、彼女の選択を聞かされたときも、常盤は自分のホンネを打ち明けなかった。


 自分自身の気持ちを知りたいなんて願ってるクセに、その気持ちに知ったかぶりするような。常盤はそういう、素直じゃない女なんだ。


 ペンネームは「知らばや」と「白河夜船」を掛け合わせて、白早しらばや夜船よふねとすることにした。同時に、「※この物語はフィクションです」の一文を付け加えるのを忘れなかった。




もうちょっと大人になってるはずだった 答え合わせができるくらいに

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