友人としていたように私ともしているだけのドリンクのシェア
近藤は静原から連絡を受けて、バス停で待ってくれていたようだ。つまり、常盤が電話したときの通話中の相手は静原だったのだ。
バス停の付近は人が多いので、少し離れたところで待っていたらしい。常盤は到着したバスから降りてくる客に注意が向かっていたために、そばにいたはずの近藤に気づかなかったのだった。
「どっかお店入るか?」
立ち話をするには人混みの多い場所だ。話すなら落ち着いた場所のほうがいい。
とはいえ、常盤は今しがた紅茶を飲んできたばかりだし、サイフの事情もあるからあんまり高いところも避けたい。結局近藤の提案で「なら、河川敷とかにするか?」と落ち着いた。
川まではバス停の位置から東へ歩いて10分とかからない。そういえば
夏の盛りの暑さがまだ残っている。
バイパスのような道を折れ、開けた遊歩道に出る。夕涼みにはまだ若干時間が早い時間帯。江戸時代の街道として浮世絵にも描かれた有名な橋を左手に眺めながら、常盤と近藤は河川敷に腰を下ろす。
「飲む?」
近藤がペットボトルのフタを開けて、常盤に差し出す。途中で買っていたスポーツドリンク。
「おいらに買ってくれたの?」
「ひとくち飲むかって意味」
「間接キスとか、気にしないんだ」
「なる、ほど。じゃあ飲まないか」
「待って。飲む飲む」
やや早口になりながら、常盤は近藤の手からペットボトルをかっさらう。
「常盤も間接キスとか気にするんだな」
「おいらもって、どういう意味?」
「小宮も気に掛けてたなぁ、と思って」
「飲み回しとかはしなかったってこと?」
「したよ。そんで、するたびに間接キスを気にしてた」
「ふうん。意識しながら間接キスをしまくってた、と」
「しまくってたは言い過ぎだけどな」
常盤はそのスポーツドリンクをひとくちゴクリと飲んだあと、その飲み口をしばらく見つめる。
キスというワードが頭に引っかかっているのは、直前に静原からキスの話を聞かされたせいだろうか。
今このペットボトルを近藤に返して、近藤がそれを口にしてしまえば、二人で間接キスをすることになる。小宮はそれを気にするだろうか。嫌がるだろうか。
「俺にもちょうだい」
けれど近藤は、常盤の手に持っていたペットボトルをいともたやすく取って、そのまま躊躇なく飲んでしまう。
「間接キスはキスのうちに入らないんだとよ」
「……って、小宮が言ってたの?」
「ああ。間接キスするたびにな」
ファミレスでフェアしながら食べたりするのも、友人同士なら普通にするよ、と。仲のいい相手となら、食べ回し・飲み回しは気にしない。
近藤と小宮は恋人同士ではない。けれど友人同士なんだから、間接キスくらい気にしなくていい。
どうやらそういう理屈らしかった。
でも、「間接キスはキスじゃない」「だから気にしなくていい」などと毎度のように口にするのは、明らかに意識している証拠ではあるけれど。
友人としていたように私ともしているだけのドリンクのシェア
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