第四帖 図書館

〈じゃあ明日、附属図書館3階で待ち合わせしよ。午後2時でどう?〉

 京徳大学の附属図書館の3階、自習スペース。

 小宮は自習するとき、たいていここを使っている。常盤が今日、ぶらりと訪れたときにも、はたして小宮はここにいた。ただし、うたた寝をして、気持ちよさそうに机に伏せている。

 そんな様子を見かけて、常盤はのどやかな気分になる。

 昼過ぎのもっとも睡魔に襲われる時間帯だ。

 机の上には広げられたままの本とノートがあった。図書館情報学のテキストのようだ。司書の資格を取ると言っていたから、その勉強だろう。

 常盤は隣にそっと座ると、手枕で眠る小宮を眺めた。薄黄色のバレッタで、カジュアルなハーフアップの髪形にしている。

 なかなか目を覚ます気配がないので、常盤はこっそりスマホを取り出して、小宮の横顔のそばに構えてみた。そして気づかれないようにカメラのアプリを起動する。

 そのとき館内放送のチャイムが鳴った。


〈置き引き被害が多発しています。席を立つ際は荷物を置いたままにしないよう注意してください〉


 注意喚起のアナウンスだったけれど、放送の声はのんびりとして緊迫感を欠いていた。

 とはいえ、そんな放送でも目覚ましになったらしい。小宮が寝ぼけまなこに身体を起こした。

 常盤は細めた声で呼びかける。


「おはよう、小宮」

「あ、おはよ…………ときちゃん!?」


 小宮はピクッと目を覚ました。大きな声を張り上げたわけではなかったが、静かな図書館の館内ではそれなりに目立つ。常盤は口に人差し指を当てて「しーっ」と合図した。


「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけど」


 小宮は目をこすりながら、状況確認する。


「そっか、寝落ちしちゃってたんだ。……え、顔に変な跡とか付いてないよね?」


 周りに迷惑をかけないよう小声。常盤は後れ毛を手でさすりながら答える。


「大丈夫だよ。寝起きでも十分じゅうぶんかわいい顔してるから」

「こらこら。……っていうか、その手にあるスマホは何?」


 常盤はスマホのカメラを小宮に向けたままにしていた。「えーっと、なんだろう?」ととぼける常盤の頬を、小宮は右手でぎゅっとつねる。


「にゃんもやってにゃいってば」

「そ。てっきり人の寝顔でも盗撮してるのかと思っちゃった」


 小宮はつまんでいた手を放す。


「本当に撮ってないからね。確認する?」


 撮ろうとはしたけれど撮ってはいなかった。納得してもらおうと、常盤は自分のスマホを小宮に見せようとする。しかし小宮は「別にいいよ」と言って、もう気にかけてないようだった。ノートとテキストをトントンと整え、机の上を片付け始めている。

 筆記用具をしまった小宮は、ぐっと身を寄せてきて、声をいっそう潜めた。


「そんなことより、この前のこと、説明してくれるんだよね?」

「うん」


 小宮から〈今度、ちゃんと説明しろよ!〉とラインが来たあと、常盤は直接ちゃんと説明すると返信していたのだった。





〈すみません さっきのことはまた今度直接ちゃんと説明します〉


〈じゃあ明日、附属図書館3階で待ち合わせしよ。午後2時でどう?〉

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