第十二帖 追想

中三の冬に涙は置いてきた ヒロイン役ではなかったからね

中三の冬に涙は置いてきた ヒロイン役ではなかったからね




 9月、国立社会保障・人口問題研究所の発表した「全国家庭動向調査」において、既婚女性の7割が同性婚を法律で認めることに賛成であることが明らかになった。同調査で同性カップルについて調査したのは今回が初めてのことだという。


 短歌手帖を見返せば、古本まつりに出かけた日以来、明らかに歌を詠む頻度が増えている。それだけ感情を動かされる機会が多かったということだ。

 57577の音で構成される短歌は、三十一文字みそひともじとも呼ばれる。日々を織りなす情景や心を合計31音の定型に収める。限られた字数で表現するからこそ、ひとつひとつの言の葉に気持ちが籠る。

 常盤にとっては日記やアルバムのようなものかもしれない。思い出の写真を1枚見るだけで、そのときの光景が頭の中に蘇ってくるように、短歌の手帖をひもとけば、当時の記憶が呼び起こされる。

 言えなかった後悔も、隠し続けた懊悩も、ぶつけられない無念さも、短歌でなら綴れることもある。


 それでも……。


 いつもなら短歌にしたためれば収まっていたはずの感情が、今は胸の内で煮えたぎったままとどろいている。

 心が落ち着かない。感情が鳴りやまない。

 短歌という形式では、あふれ出る想いをすくい取れないような気がした。

 常盤は例の小説投稿サイトにアクセスした。短歌がダメなら、小説という手立てに頼ろうと思った。

 フィクションという形でなら、人に言えないでいること、面と向かっては話しにくいことも、表現しやすい。フィクションだからこそ、他人の目を気にせずに綴ることができる。誰かに告げた言葉、誰かから告げられた言葉が反芻する。

 あのころとは違うペンネームで、常盤は新しく作品を書くことにした。

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