第五帖 大学
だってほらそういう距離感だからこそ確かめたくても確かめられない
京徳大学を案内してほしいという近藤の要望を受けて、時計台の前を待ち合わせ場所にした。近藤はクスノキの下のベンチで文庫本を読みながら待っていた。
常盤は挨拶代わりに「早いね」と声をかける。近藤は「ああ」と答えて本を閉じた。カバーをしているから表紙は見えない。
「なに読んでたの?」
「『カンガルー日和』」
「あ、知ってる。カンガルー出てくるやつだよね」
「おう、そうだな」
近藤はちらちらと周りを見わたした。
「小宮なら来ないよ。バイトだってさ」
「別に小宮を探してたわけじゃねーよ」
「じゃあ、誰を探してたの?」
「誰も探してない。ただ、もしかしたら小宮とかがひょっこり現れたりするかもしれないなって思っただけで」
「それ、小宮を探してたってことじゃん。まあ、でも、今日はこの前みたいなことはないよ。バイトだって言ってたから」
「待て。それって小宮を誘ってたってことか?」
「いちおう声かけたよ。マズかった?」
近藤はくぐもってから答える。
「小宮から聞いてるんだろ? 俺がどういうことしたか?」
「そうやってズルズル引きずらずに、さっさと会って仲直りしたらいいって思ってるよ」
「別に仲は悪くなってねーよ。連絡は取ってるほうだし」
近藤は捨て吐くような言い方をした。
矛盾してるな、と常盤は思った。
仲は悪くなってないと言いつつ、しばらく顔を合わせていない。連絡を取ってるというなら、常盤ではなく小宮にキャンパス見学の案内を頼めばいい。会うと気まずいというわりに、京徳大学まで来て、小宮がいないかキョロキョロ探している。
けど、その矛盾をいちいち指摘しまうのは違う気がして、口に出すことはしなかった。
だってほらそういう
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