第六帖 繁華街

エアコンの調子が悪い そんな日も夏の空気は攻め入ってくる

 帰宅して部屋に入ると、むわっとした空気が漂っていて、常盤はげんなりする。夏が暑いのは知ってるつもりだったが、それでも「暑い」と口にしてしまう。今夜も熱帯夜になりそうだ。

 近藤からは〈さっき変な空気にしてゴメン。今日はいろいろ案内してくれてありがとう〉というラインが来ていた。

 変な空気というか、たしかに重めの空気になりはしたが、それを近藤のせいにするのは酷というものだ。なのにこうしてマメにラインを送ってくる近藤の律義さを思う。

 ……と常盤は思ったけれど、マメだと感じるのは常盤がこなれていないせいなのだろうか。小宮からはラインでもっと連絡してほしいと言われもする。大学に入ってからようやっとラインを始めた常盤には、その辺はまだよく分かっていない。


 近藤が小宮を振る。けしてありえない出来事ではない。それなのにその可能性には言われるまで思い当たらなかった事実が、常盤に後悔の念を抱かせる。嫉妬心と意地とが気を張り合ってしまっただけで、会って落ち着いて話せば丸く収まるくらいに考えていた。

 常盤はラインを開き、小宮とのトーク画面を見ながら考える。さりげない風を装って、それとなく触れてみようか。いや、このタイミングでその話題に触れれば、近藤から一部始終を聞いたことがモロに分かってしまいそうだ。だとしたら、小宮にはこれまでどおりに接して……。けれど、後になってから実は近藤から話を聞いてましたとなってしまうのはどうなんだろう。

 小宮と近藤の仲がうまく行ってほしいとの気持ちは揺らがず胸にある。でもそれは常盤の身勝手な願望とも言える。


〈こんど買い物にでも行かない?〉


 結局ラインで送ったのはそんな文章だった。




エアコンの調子が悪い そんな日も夏の空気は攻め入ってくる

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