新品のヘアピン留める君の手と短くなった後ろの髪と

 入学直後に再会したときはセミショートだった小宮だが、それから少し髪が伸びて、今日はお団子に小さくってアップヘアにしている。

 中学時代、ロングヘアだったころの小宮は、いろんなヘアアレンジを頻繁に行っていた。ハーフアップのスタイルが一番多かったっけ。制服をコーデするよりも、髪形のほうにずっとこだわっていて。ヘアアクセもいろいろ持っていた。

 ちなみに小宮には一つ違いの妹がいて、同じ中学だからときどき姿を見かけた。その子の場合はいつもさっぱりとしたボブのショートカット。姉妹なのに髪形へのこだわりがずいぶん違うんだなと感じたものだ。


 ラインで会う約束をして、常盤と小宮の二人は買い物に来ていた。京徳市の中心部にある商店街。繁華街の目抜き通りに接続し、歩行者天国になっているそこは、流行のお店から伝統ある老舗まで、じっくりと探訪したくなるようなお店が連なっている。


「小宮のそういうところは、素直にすごいって思うよ」


 この辺りには観光客もすごく多い。道に迷っていた観光客を案内してあげてから、常盤はそう声をかけた。


「そういうところって? 地図アプリの使い方がときちゃんより上手いこと?」

「そうじゃなくて……いや、それもだけど。ほら、“ちょうど近くまで行くので一緒に行きましょう”って言って案内してたじゃん」


 小宮は懇切丁寧に道案内をしてあげていた。それだけならまだ分かるが、“ちょうど近くまで行くので”というのは方便の嘘だった。近くに行く予定があったわけではない。

 もっとも、今日はテキトーにあちこち歩こうと言って集まっただけだから、多少道案内が長くなるくらい構わなかったけれど。


「ごめんね。直接案内したほうが手っ取り早いかなって思っちゃって。向こうもそのほうが気が楽かなって思ったし」

「別に謝んなくっていいってば。そうやってさっと人助けできるのを、素直にすごいって思ったって話で。当たり前にできることじゃないと思うから」

「へー、褒めてくれるんだ? 嬉しいなぁ」


 そう言って小宮は上機嫌だった。

 そのあとは、はしゃぎ気味の小宮に付き合って――あるいは引っ張りまわされて、いろいろとお店を見てまわった。古着屋だとか、ブティックだとか、かんざし専門店なるものもあった。


「こういうお店は、おいらなんかじゃなく、オシャレに明るい子と行くべきだよね」


 常盤がそう漏らすと、小宮はくすくす笑う。


「そうかなぁ。ときちゃんも心のうちでは、もっとオシャレしたいとか考えてたりするんじゃないの? フェミニンなワンピースとかだって、似合うと思うけどなー」

「そうやって口車に乗せようなんて手には引っかからないからね」

「そんな露骨な警戒しなくても……」


 ヘアアクセサリーのお店に入ったときは、カチューシャ、バレッタ、シュシュ、マジェステを次々に手にとっては似合うかと尋ねられ、常盤は答えていくのが大変だった。常盤はアクセサリー類などロクに気を遣っていないから、細かい感想を求められても戸惑った。

 だが小宮は、どうもそんな常盤の反応を楽しんでいるようだった。エメラルドグリーン色のかんざしを小宮に試着させられそうになり、常盤はそれを回避したりする。そんなことしつつ小宮は好みの品に出会えたようで、購入したばかりのアメピンはさっそく装着していた。2つのピンをクロスさせて、あげた前髪からおでこをのぞかせている。

 今日小宮からされたは、古着屋で試着してるところを覗かれたのと、いつのまにか帽子に緑の羽根をくっつけられたことくらい。

 平和な日常の部類と言える。

 少なくとも、色恋沙汰に悩んでいる女の子には見えなかった。




新品のヘアピン留める君の手と短くなった後ろの髪と

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