第七帖 カフェ②

十八で初めてスマホを持つよりも忘れられないありふれたこと

 常盤は大学進学を機にスマホを持つようになった。それまではガラケーも持っていなかったし、自分のパソコンもなかった。それでなくても一人暮らしは初めてなのに、いっぺんに新しい物がやってきて。あれは情報革命とさえ呼べると思う。

 とはいえ、新鮮なことばかりだったはずの毎日も、慣れてくればそれが当たり前の日常となる。まあ、小宮からはいまだに「昭和」なんてからかわれることもあるが。それでも今は「革命的」とまで思うことは少なくなった。


 初恋というのもそうなのかもしれない。


 常盤の初恋は小学6年生のとき。

 その子とは仲のいい関係ではあったけれど、向こうがこちらをどう意識していたかは分からない。中学で別々の学校になって、それっきりだ。当時はスマホが普及し始めた時期だった気がするけど、常盤はケータイを持っていなかったし、別にほしいとも思わなかった。

 それもあって、小学校を卒業してからは、とくに連絡を取りあうようなこともなかった。ときどき思い出すことはあるし、会えばつもる話もあるだろうけれど。でも、それくらい。

 別れはつらかったはずだけど、わりとすぐに慣れてしまったようにも思う。

 初恋はそんなふうに過ぎていった。そんなもんじゃないのかな。終わってしまえば、あっけない。淡い思い出ではあるけれど。

 だれかに一途に恋をしたいとは思わないし、運命の相手に出会いたいとも思わない。常盤自身はそう思う。そう思うように、なっている。

 でも、小宮は……。


 ずーっと片想いし続けてるから忘れがちだったけど、小宮はこれが初恋なんだよな。

 出会いがあれば別れがある。だけど初恋のときは、その恋に終わりが訪れることを想像できなかったりする。そんなことを言っていたのは誰だったっけ。

 恋をしたり、失恋したり。そんなことは、どこでも聞くような話なのに。だけど小宮にとっては、これが初めてで、特別で、一直線の恋なんだよね。




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