第2章 地球の変革、宇宙へ

第27話 国連の改革

 国連は、2022年以来実質的に機能していなかった。何しろ、拒否権を持つ常任理事国ロシアが他国ウクライナに侵略したが、国連としては何の対処も出来なかったのだ。それを受けて、国連改革は当然強く各国から話題に上がっていた。


 しかし、核をちらつかすロシアの必死の抵抗で何もできなかったし、中国もそれに同調した。2024年のロシアの核兵器無効化によって、ロシアは国際社会で全く力が無くなり、常任理事国のはく奪のチャンスだった。


 しかし中国が頑強に反対して、常任理事国の権限を制限するか、またはロシアを外すことの両方とも何ともならなかった。ここで、2026年5月、尖閣事変によって、中国は日本に完敗して、空と海の両方でその戦力の多くを失い、しかも政変というより革命が起きた。


 新中国は当面暫定憲法を策定することで、共産党の権限を否定してはっきり西側諸国との協調を求めると宣言した。また、革命後半年後に、実際のGDPが今までの公表値の半分であることを発表した。


 ロシアが、民主化後にGDPが半分であることを発表せざるを得なかったのと同様である。こうした変化は、国際社会とりわけ先進国からは歓迎されたが、当然中国の援助に頼っていた一部の国の指導者からは約束が違うと非難を受けた。


 だが、中国はそれらの指導者に個人的につぎ込んだ金の詳細を発表した。さらに、自国の旧政権幹部を拘束してその財産はく奪に走った。その際に、主としてアメリカやスイスなどの銀行に、すでに犯罪者になっている彼らの預金の政府への引き渡しを要求した。


 これは、主としてアメリカ政府が音頭を取って協力したために、そうして回収した海外からの資金は1兆ドルに近かったという。アメリカとしては、新生中国政府が再度反抗的な国家にならないように、貸しの一つである。


 さらに、新たな政権を資金の無い状態に置くとろくな事をしないという判断もある。何れにせよ、アメリカにとって軍事的にはすでに中国はすでに敵ではない。だが、10億人の比較的質の高い国民と、すでに相当に整っているインフラは、工業国家としては手強い相手である。


 ただ、アメリカは技術の根幹を締めることによって、中国はコントロールできると考えている。一方で、その中国にとって、日本との国交を回復して、核融合機やA形バッテリーの技術の供与を公式に受けることは急務であった。


 その中で、なんとしても国際的な包囲網を解いて、前のように投資を受け実態のない不動産のマイナスを補う必要がある。臨時大統領の楊とその仲間は、当面は経済的混乱を克服して、強くすることに注力するつもりであるが、その結果が出ても、国際社会と反目するようなことをするつもりはなかった。


 中国民族の優秀さは、歴史的に長く世界一の豊かな国を作ってきたこと、近世において短期間で途上国から抜けでたことですでに示されている。今ここで、この事をことさらに言い立てることはないのだ。


 そして、今世界は急速に変わろうとしている。日本からあふれ出している技術は、いやがおうでも、産業の在りかた、交通、生活スタイルから社会を変えていく。それに、わが国も何としても追随していく必要がある。


 そして、その技術があれば、公害で荒廃しつつある大気、水環境も回復させることが可能になる。つまり、代替なしに豊かになれるはずなのだ。そのために、少なくとも日本とは争ってはならない。


 日本とはごく最近戦った相手であるが、ある意味幸いに完全に負けた。その意味で、今後徹底して下出に出れば侮りはあっても、悪意は持たないだろう。彼らから必要な技術を取り込むためには国連の改革に彼らの意に添うように行動するのにやぶさかでない。


 ロシアは、敗戦後1年の2025年になって、ウクライナとの賠償の道が明らかになって漸く国際的な包囲網を解かれている。しかし、去っていった外資企業は、簡単には帰ってこないし、途切れた海外からの仕入れルートの復活は容易なことではない。


 ロシアは半導体を始め、様々な産業に不可欠な部品・製品を生産できない国になっている。そのため、近年は全てが中国製にものになっていて、それでカバーできないものは、完成品を買ってくるしかない。


 この様態はまさに途上国であり、様々な分野で世界の先端技術を持ち、月ロケットを飛ばした国がまさに惨めなことになっている。これは閉鎖的なお国柄と、基礎的な部分を長く疎かにしてきた政策的な弱点も原因だが、他に特有の上意下達の文化がある。


 その上に、核兵器の無効化は、ロシア人のよってたつプライドの根源を打ち砕いた。世界1ではなくとも米に次ぐ、絶対的な兵器である核兵器の保有国であるという誇りが、日本や韓国の1/3に過ぎない一人当たりのGDPの貧しさの中でも人々を支えてきた。


 それが失われてしまったことで、人々の勤労意欲も削いでしまった。とは言え、すでに彼らにとっての悲劇から2年を過ぎて今は回復して来ているし、ヨーロッパ等への石油・天然ガスの輸出が復帰して収入そのものは増えている。


 しかし、欧州ではNFRGが急ピッチで建設に着手され、同時にA型バッテリーの励起工場が建設されて、すでに300万台を超えるAタイプ車が走っている。今の予測では5年後には、欧州向けの天然ガスは80%、石油は70%減少するという。

 ロシア政府は、この事態に議論するばかりでなにも手を打てていない。まさに、国連や国際関係どころじゃないのだ。


 国連改革については、G7にブラジル、インドでたたき台が作られ、さらにその後EU、ASEAN、AU、UNASUR等の国家連合で話し合われた。実際的なたたき台は、日本が相当に詰めたものを用意して、それが大部分使われた結果になった。


 その準備において、国連改革のたたき台を作るプロジェクトが立ち上げられ、K大技術研究所から30億円の資金を提供している。何事も金がないと何も進まないのだ。このたたき台はK大学の研究者も入って、100人以上の内外の専門家によって綿密な調査とシミュレーションを根拠としている。


 この出資とプロジェクトの立ち上げは、翔の示唆もあって笠松教授が決断したものである。外務省に任せておくと、欧米ペースで全てが決まるのを懸念したもので、森田議員の紹介で、外務省のOBをリーダーに据えて行ったプロジェクトだ。


 その改革案は極めて大胆なもので、まず、国連軍を軍隊として実力の伴うものとして、将来的には各国軍隊の代替とするというものである。つまり、構想としては将来的に国連軍のみが軍として残る訳だ。


 その時点では、国連軍は全加盟国の兵から構成されるわけで、当然構成国相互の戦争はあり得ないということになる。しかし、それは然るべき状況が構成される時としており、当面の国連軍は各国軍に比べても規模が大きいものではない。


 さて、2025年には98%の国と地域が核禁止条約を批准した。中国と、意地になったロシア等数か国は批准していないが、核無効化装置の使用に伴って核保有国も核兵器が不要になったことを認めて批准したものである。


 その条約に従って、締結国たるアメリカなどの核保有国は、順次核兵器の解体にかかっている。この作業は、核無効化装置があるために比較的簡単なので、さくさくと進んでいる。


 問題は、公式に核を持っていると発表していない、イスラエル・北朝鮮などの核をどう廃棄させるかである。この点は、アメリカがロシアの大量の核兵器を無効化した方法があるので強制的にやるのは簡単である。


 国連軍は核禁止条約を、担保する役割も与えられることになる。つまり、国連の安全保障会議の決議によって国連軍が強制的に無効化の措置を取る訳だ。同様に、国境紛争やロシアのウクライナ侵略の例にも、実力で介入することができる。


 しかし、その戦力と機動力をどうやって確保するかであるが、日本が宙航艦と宙航機の当面必要な数を提供するとしている。最初は、計画の夢のような国連軍が実現する訳はないという態度だった諸国は、その日本の提言で案に賛同に回ったと言う。


 日本が提供するとしたのはレールガンで武装した『そら』型の宙航艦が5艦と『流星』型宙航機が50機である。この戦力があれば、最大の数のジェット軍用機を運用しているアメリカ軍でさえ対抗は難しいと自身が認めたものだ。

 

 いずれも1時間あれば世界のどこにでも飛んで行ける。さらに、力場エンジンの特性から対空ミサイルなどの射程外に自由に滞空して、地上を掃射できる。まさに現時点において、無敵の軍隊になる。


 各国の賛成した本音のところは、この兵器を日本とアメリカのみが持つくらいだったら、国連として持つ方が良いということだ。

 さらに問題は、これらの兵器が、高価な部材を使った従来の最新の軍用機に比べ大幅にコストが低く、1/3程度の予算で納まるということだ。金だけの面で言えばどこの国でも調達できる訳だが、もし放置すればカオスになる。


 多くの国で、人々がその国連軍の構想を知った時、『もはや軍は不要』という歓声が上がったという。その国連軍がちゃんと機能すれば、他国の侵略を恐れることはないし、アフガン駐留のように、自国に関係無いように思える軍の派遣も必要ない。


 とは言え、大量の人員を抱え多額の予算を消化する軍は、多くの若者の就職先であり、GDPの大きな構成要素でもあるので、一朝一夕には解散はできない。だから、5年~10年の時間をかけて解消していくことになると想定されている。


 新生国連軍の構想は、最初はとんでもない夢物語と言われたが、その内容が知れ渡るにつれて実現可能なものとして高い評価を受けるようになった。ただ、問題はその力をどういう根拠で如何にして振るうかである。


 例えば、ロシア・ウクライナ戦争の時点では、国連軍があってもその拒否権を持つロシアが当事者である以上は、出動はできない。その出動の可否を決める場が、安全保障会議であるのは良いが、特定の国々の拒否権の保持は有りえないことはすぐに決まった。


 アメリカは自ら拒否権を多用しているため、拒否権を無くすことにぐずったが彼らも拒否権はまずいことは判っている。ただ、国としての重み付けにはこだわった。確かに安全保障会議の有効票数を、単純に国に1票割り付けることも適当でないことは自明である。


 結局、GDPの代替である国連への分担金、人口、就学率、犯罪率などからなる方程式が案出されて1点から10点に重み付けをすることになった。その計算でアメリカは最高の10点であり、日本は9点、ドイツ・イギリスは8点であった。


 中国は計算上では10点であるが、尖閣事変での侵略行為未遂のペナルティで半分、他にインドが7点などである。なお、ロシアは、一般市民の多数の死者を出した侵略行為のペナルティで10年間は1点である。


 ぼっ発した緊急事案に対する対応の決議は、多数決で決まるが、その国の状況への強制的な介入は2/3の決議が必要になる。後者にはミャンマーの軍政に対する措置や、アフガニスタンのタリバン政権、北朝鮮の軍事独裁政府などが挙げられていて、政府の解体が議論されるだろう。


 もう一つの大きな目玉は、地域開発局の改変である。これは10年以内の全加盟国のGDP1万ドル以上を必達目標を掲げ、世銀にADBやAfDBなどの地域開発銀行の資本を大幅に増強して、効率的な開発を掲げている。


 この種の開発の大きなネックは、対象国の政府の非効率性とその職員の腐敗体質である。ある予算を持ってプロジェクトを始めたら、半分も進まない内に予算が残っていなかったなどは、途上国の開発案件ではよくある話である。


 そこで、2年以内に国連主導で大々的に国・地域ごとに総合的な開発計画を策定することにしている。この開発計画の策定と実行に当たっては、政府の権限を制限できる仕掛けを含んでいる。


 これは、開発のための調査において、その政府・地方政府の評価が含まれていて、その評価点が一定以下であると、安全保障会議の決議において査察チームが送り込まれ、改善を強制できる。


 この場合の決議が2/3であるが、なにしろその背後には国連軍という戦力が控えているだから、武力での抵抗はできない。また、こうした場合には現地の人々には調査の結果はリアルタイムで知らされて、自分の政府の状況を知ることが出来る。


 一方で、住民にはその評価に抗議するルートも整えられている。この開発計画の目玉は、核融合によるNFRGによる電力供給、または熱供給の設備、及びA型バッテリーの励起工場を優先的に建設されるという特典である。現在、世界中で核融合機の設置は最優先で行われている。


 発電コストが1/10以下になるのだから、当然のことである。日本では2~3年以内には代替が終わると見られているが、米・欧で10年以内、世界中となるといつになるか判らないという状況である。


 例えば、NFRGについては中核になる連鎖反応を起こす励起部はユニットにして日本が独占して生産し輸出している。これは、不足すると技術公開の要求が高まるので、政府主導で必死に生産体制を整えてきた。


 これについては、日本はどうにか世界の需要に合わせているが、残りの95%の装置は各国で生産している。これは先進国でないと、生産は難しく、必要な品質が保てないので、工業レベルが一定以下の国では、概ね全て輸入するしかない。


 ところが、輸入したい相手が自分の需要を満たすことも出来ないという状況なのだ。これを、国内需要に対して余裕が出てきた日本が、国連の開発プログラムに載っているものはには優先的に供給しましょうということだ。


 このことによって、対象国は圧倒的に安い電気と、燃料の要らない車に乗れて、燃料油の輸入が不要になる。これがインセンティブとなって、どの国も積極的に全体開発計画の策定に協力して、これら待ち望んでいる設備の導入を早めようとする。


 このような設備は、ローンではあるが有償なので、日本もこのようにNFRGや励起工場などが爆発的に売れることで潤うし、Aタイプの車が売れることになる。また、こうした国で車は壊れるまで徹底的に使うので、既存の車体を使うためにエンジンとA型バッテリー式駆動装置との交換ユニットが大量に売れている。


 ところで、韓国であるが、日本の意見が大きく受けいれられた形になった国連改革には、日本との関係が近年冷え切った状態にあるこの国は余り関与できなかった。 これは、韓国政府は、徴用工の事案で、徴用工で強制労働に従事されたと称する人々を後押しする国民の声に逆らえなかったことが原因である。


 その結果、日本が賠償と謝罪をしない限り国として対応が出来ないとして、日本企業の資産現金化を座視してしまった。日本政府は、公言した通り対抗措置を実施した。これは、まずは、現金化に相当する韓国政府の資金を日本政府が没収し、当該企業に支払った。


 さらに、銀行に対して、慣例的に韓国企業に対して発行していた輸出の信用状の発行を停止するように勧告した。

 また、釜山の領事館の閉鎖、ソウルの大使館の人員の半減と、加えて日本政府機関融資の世界中の事業から、韓国企業を排除した。公的な措置はこの程度であったが、民間の方の影響が大きかったであろう。


 戦犯企業と名指しされた企業は、関連企業を含めて現金化の前から韓国から引き始めていた。銀行はすでに韓国企業への融資は止めているが、これは一つにはA型バッテリーの実用に伴う自動車の買い替え、生産設備の改造、NFRGなどの建設により国内で融資案件があふれるようになっていることもある。


 この結果、韓国にとって様々な手数料、金利の上昇ということでコストに響いてきた。だが、さらに大きかったのが、韓国の保証人のような立場にあると見られていた日本が、むしろ敵対国の立場になったと国際的に認知されたことである。


 それだけではない。今や、世界の革新技術の発信源になった日本の準敵対国になった訳である。韓国に入る技術情報は世界の最後に近くなっている。2026年時点ではNFRGの基本設計情報は与えられ、心臓部の励起部の輸出を許容はされているが指導員の派遣が許されず、設備の製造、建設に未だに手間取っている。


 さらに、それはA型バッテリーとI型モーターの実用化に加えて、安い電力で生まれた様々な派生製品の洪水から通り残されることである。韓国の輸出は歴然と落ち込み始め、先行きがはっきり暗いことが判ってきた。


 その原因が『現金化』であることは歴然としている。しかし、それはそれを停止しようとした政府を押しとどめた国民の選択である。それを忘れた国民は政府を、国際法違反の判決を下した裁判官を、なにより原告と弁護士を責めた。


 そして、その中で原告が、日韓基本条約に基づいてすでに国からある程度の保証を受けていることなどが、クローズアップされて余計に世論は激高した。もっともそのような情報は公開されていて、知ろうと思えばいつでも知れたのだが。


 その状況を日本のマスコミは面白可笑しく書き立てたが、世論は無関心であった。街角でのインタビューにおける一市民の答えがその考えを代表している。


「だって、あれだけはっきり現金化したら報復するというのを、国民自身がごり押しして実行したのだもの。結局舐めていたんだよね。結果は自分で受けなきゃあ。約束を守らない相手とは付き合えないよね」

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