第48話 ナガラ帝国の解放3

 タイムリミットとした24時間はすぐに過ぎた。その間、アーマラ総督府軍は地球艦隊を探知し、それなりの準備を整えた。それは、母船機能を持たせた恒星船に、マグラ機を乗せて地球側を迎え撃つ準備をしている。


 さらに、恒星船に積んでいる力場砲を整備しつつ、核ミサイル各8発をいつでも撃てるように準備をしている。アーマラ側は核兵器を無効化する方法があるとは思っていないから、彼らとしては恒星船の核ミサイルが最強の武器だと思っている。


 なお、恒星船の力場砲については、大型であり機敏な動きは出来ないため、対艦艇ではほぼ使いものにならない。これは基本的には地上へ向けて砲撃するためのものであって、地球側の大型艦に命中させることはまず不可能である。


 一方で、核ミサイルも誘導式ではあるが、ギャラクシー級などの機敏な動きの可能な宇宙艦に命中は難しいのだが、アーマラ側は地球側の艦船の動きを知らない。ただ命中しなくても、効力範囲内に入ったら核弾頭を爆発させることが出来るから、相手を確実に破壊することができるとアーマラ側は判断している。


 アーマラ側は軌道に6隻の恒星船を巡らせており、周辺に50機のマグラ機を浮かべて臨戦態勢である。6隻のアーマラの大型艦は、流石に固まっておらず分散している。だから、地球の遠征艦隊は、各敵船についてコメット機が6機づつ、秒速30㎞の超高速で10㎞ほどの距離を擦過しつつマグラ機をレールガンで射撃することを選んだ。


 アーマラの恒星船については、各艦にマグラ機が8~9機が張り付いているが、これらは基本的に等速運動をしている。コメット機の武器は、ミサイルもあるが実質的には口径25㎜のレールガン2基であると考えている。


 空気によるかく乱のない宇宙空間では、人工頭脳が照準をつける10㎞の距離は、必中距離である。だが、機体ごと照準を相手に向けなくてはならないコメットでは、別の的を狙う場合には連射はできない。だから、36機のコメットでは1回のすれ違いで撃破できる相手は100%の命中であっても36機になる。


 アーマラ側も地球側の機体の探知はしているようで、マグラ機が慌ただしく動き始めているが統制された動きではない。地球の戦闘機と同様に、機体の軸方向に力場銃は固定されているので、射撃するには撃つ相手に正しく機体を向ける必要がある。


 これには、正確な相手の探知と瞬間的に極めて正確な力場操作が必要であり、コメット(日本名『流星』)開発時に人間が操作することは不可能として、新たな人工頭脳が必要として開発された経緯がある。無論、この開発の際にはいくつもの新たな開発が必要であったので、翔もその開発セミナーには何度も参加している。


 その結果、地球側のコメットは、人工頭脳が相手をレーダーで的確に捉えながら、レールガンが当たるように力場エンジンを細かく制御している。だから、今回のように秒速30㎞の速度で相手に迫りながら、正確に相手を撃つことができる。


 射撃した砲弾は、真空中では射撃の後に、相手が加速方向を変えない限り100%命中する。今回のように、相対速度30㎞/秒で接近している時は10㎞の距離では、命中までわずか0.3秒であるため、射撃の後のこのような加速度の変更は偶然以外ありえない。


 一方で、ステルス性能も高いコメットであるが、それでもマグラ機は流石にレーダーで探知して迎撃しようとはしている。だが、その姿勢制御性がコメット機に遥かに劣るため、到底最大与えられた1~2分では射撃の体制に入れない。


 従って、狙われたアーマラ側の36機のマグラ機は、偶然加速をかけた1機を除いて、径25㎜のレールガンの砲弾が命中した。撃ったのが宇宙空間であるので摩擦熱は生じないため、常温の銃弾がマグラ機の機体に当たると、脆く作ってある砲弾は砕ける。


 しかし、その速度はレールガンの弾速5㎞/秒でなく、機速30㎞/秒にその速度が加わった数値である。径が25㎜×長さ15㎝×重量1.2㎏の均一の金属砲弾は、砕けた瞬間にその運動量を熱に変える。つまり灼熱の超高速の火砕流が、僅か3mに満たない機体をぶち抜き、宇宙空間に長さ数百mの火炎を吐き出す。


 弾丸が入り込んだ孔は5㎝ほどにしかならないが、反対側に射出口は50㎝ほどの径である。従って、機体の内部が大きく破壊されることはなかったが、問題は局部的にではあるが瞬間的に1万度近くに上がった熱である。


 機体内部が千℃を超えて、内部の電子機器はダウンし生物は瞬間的に焼死している。また、各コメットのレールガンは砲弾が重ならない様に、人工頭脳で的が割り当てられているので、特定の機に砲弾が重なることはない。


 35機のマグラ機の見かけの破損は部分的ではあるが、1秒以内に乗員の2人は死に機能は完全に失われている。残りの15機は慌てて機動を行っているが、パニック状態でばらばらの動きである。


 そこに第2編隊のコメット20機が同じく秒速30㎞/秒で突っ込んでくる。ちなみに、第1編隊の36機は秒速30㎞における最小半径の1000㎞で反転しているので、4分で帰ってくることになる。


 迎撃の体制が出来ていないと見た第2編隊の15機は、不規則な運動で狙い難くなったため、距離2㎞でマグラ機に射撃をして13機の命中を得た。流石にこの時には敵の5機が力場銃で反撃したが、アーマラの射撃システムでは、超高速で行われる銃撃には対応できず、全弾外れている。


 撃っていない残りのコメット5機は射撃を遅らせ、2機が撃破されていないマグラ機に射撃してこれを全滅させた。そこに、第1編隊が帰ってきた。彼らは、すでに発射した砲に砲弾を充填して恒星船を狙う。


 さらに、彼らのうち12機は核無効化装置を積んだミサイルを装備しており、まずは敵恒星船に2発ずつ発射した。ミサイルは秒速2㎞と宇宙の戦いにおいては遅いが、秒速30㎞の機速が加わる。


 これらは、いずれも敵船の100m以内に集まって、十分装置の機能を発揮したが、2発は敵艦に命中した。そのいずれも、超高速で200㎏のミサイルがマグラ機に、1発は艦首近く命中しもう一発は舷側に斜めに命中したが、いずれも砕けて灼熱の塊になって互いを爆砕した。


 一方で、接近するコメット編隊に向けて、恒星船からミサイルが発射され、さらに力場砲が発射された。これらは互いの相対速度30㎞/秒が乗っているため危険ではあるが、各機の人工頭脳が的確に探知して力場を操って避けている。


 各コメットは、敵の攻撃を避けつつ。各機2基のレールガンを恒星船に向けて発射する。敵恒星船は板厚60㎜の特殊鋼板で覆われていた。だが、その表面で砕けた秒速35㎞の砲弾の莫大な運動エネルギーによって生じた高熱に、鋼板は瞬間的に蒸発して半ば蒸気になった鋼鈑を含む高速・高熱の塊が船内を吹き抜けた。


 その結果として、次々に船内の隔壁、機器あるいは人体を破壊して反対側から大穴を開けて吹き出す。これが各恒星船につき12発命中したのだ。艦内はずたずたになり、気密は応急修理を不可能なほど破れ、人員の1/5ほどは飛んできた灼熱の流れに当たって即死した。


 アーマラは宇宙における戦争を経験していなかったので、宇宙空間における宇宙服の着用などの危機管理をほとんどやっていなかった。このために、恒星船の乗員の多くの死因は窒息死であった。

 結果的に6隻の恒星船の乗員、各艦200名以上、マグラ機の乗員各機2名の合計1300人の大部分はこの小口径のレールガンの命中によって死んでいった。


 彼らは、アーマラ人としても最も高度に訓練を受けたエリートであったが、全くなすすべもなく失われたのだ。しかし、実際にはこの時点では恒星船には、気密区間に残ったものや宇宙服を着ていた者の合計数十人が生き残っていた。


「カーン司令官、コメット機の砲弾で恒星船も無力化できたようです。これで、軌道上の敵は事実上無力化できたと言えるでしょう。しかし、恒星船内にはある程度生き残っている者がいるでしょうね」


 旗艦ギャラクシー1号の艦橋で、艦長の山崎大佐が言う。

「ああ、生き残っているだろうね。そして、時間があればある程度の機能は取り戻すだろう。それに、艦内にマグラ機が残っている可能性もあるな。さて、呼びかけて降伏を促すか、あるいは見張りを置いておくかだな。さあ、どうするか」


「ええ、難しいところですね。だけど、接触を試みないということは、船体内の空気あるは水か食料が切れるのを待つことになる。つまり死ぬのを待つことになります」


「ああ、そうなんだよな。まあ、仕方がない。降伏を呼びかけよう。ただSpace級2艦と艦載機で十分だろう。国連軍のUN-Spece2号と日本のそら型1艦を使おう。

 他は、残る警戒すべき敵であるマグラ機150機と地上の戦闘機200機余りの掃討に向かおう。そして、これらを無力化したらナガラ帝国と交渉を始めよう」


 この方針に従って、国連軍メアリ・シンプソン大佐が恒星船の残った乗員へ降伏勧告をし、聞かない場合には完全に破壊することになった。乗員が残った敵船をそのままにはしておけないのだ。


 大佐は、まずそのため6隻の恒星船の生き残りの調査のため、ドローンを敵船に接触させ、聴音を始めた。そして、その結果を聞いている。

「シンプソン大佐、敵a~敵fの内cとeについては船体の損傷もひどく作業音が聞こえません。だから、この2艦の乗員は残っているとしても機能回復は諦めているようです。作業している音の聞こえるa、b、d、fの4艦については乗員が何らかの作業をしています」


「よし、解った。まず、UN-Space2号は敵aとb艦を担当する。大口径レールガンは敵aを狙え。何らかの動きがあるか時間になったら撃つぞ。さらに小口径ガンは敵a、b両方を狙え。そらA-2艦は敵dとf艦を担当する。

 大口径レールガンは敵dを狙い、小口径レールガンはd、f両方に狙いをつけよ。さらに、コメットはその4艦を見張り、マグラ機を射出又は力場砲を撃つ様子を見せたら報告と同時にレールガンを撃ちこめ。宙航艦のレールガン発射はこちらで指示する」


「UN-Spece2了解」

「そらA-2了解」

「コメット2-1了解」

「コメット2-2了解」

「コメット2-5了解」

「コメット2-6了解」

「リュウセイ3-5了解」

「リュウセイ5-2了解」


 大佐は2隻の宙航艦とコメット機の応答を確認の上で、敵に向かって放送する。

「こちら地球国連軍、惑星イールズ派遣軍である。恒星船の6隻に告げる。直ちに降伏せよ。降伏した場合には我々が救出して地上に送り届ける。

 0.8時間(彼らの単位の1時間)以内に応諾の回答がなければ、再度攻撃する。今度は徹底的に破壊するので、艦内で生き残るのは無理だと承知せよ」


 しかし、アーマラ側はそこで降伏するようなメンタリティではない。必死で電源を回復し、力場砲を使えるようにし、また管内にあるマグラ機を射出しようとする。シンプソン大佐は敵艦にドローンを密着させて聴音を続けている。


 この1時間の猶予の間に、ようやく部分的に機能を回復させて、マグラ機を射出するために、扉を開けた艦もあった。しかし、地球側はすぐに気が付き、その艦は集まってきたコメットの集中砲撃を浴びた。この場合は互いの速度差はないので、完全にレールガンの弾丸の速度5㎞/秒による破壊力に頼ることになる。


 しかし、恒星船の船腹の60㎜余の鋼板の守りを抜くことは十分に可能であり、弾が破砕して船内に入り込み、超高速の火砕流になった火柱は十分な破壊力を持っていた。このようにして、扉を開けようとした一隻は10発の弾を食らった。その結果、船内では瞬間的にすさまじい騒音を発生して、その後は完全に沈黙した。


 旗艦であるUN-Spece2号の、艦長兼恒星船対応班の班長であるシンプソン大佐が言う。

「ふん、どうも降伏するようなメンタリティではないようね」

 それに副長のシーザス少佐が応じる。

「ええ、彼らの放送を分析した結果からはそのようです。まあ1隻くらいは降伏してくる可能性もあると思っていましたが、音沙汰はありませんね」


「まあ、かれらも異星人を信じる気にはならないでしょう。さてもうすぐ時間のようね。今度は、手筈通り大口径のレールガンを打ち込むよ。大口径砲弾の運動量で惑星から遠ざけるように打つ。うんあと1分だな」


 彼女の乗った艦は、すでに射撃位置について2基の径150㎜の大口径レールガンを敵の1隻に向けている。10数㎏の秒速10㎞のレールガンの弾丸は、その運動量で軌道上の2千から3千トンあると思われる恒星船を軌道からそらすことができる。

 この重量の船が地上に落ちると大変なことになるので、惑星から遠ざかる方向に撃つ必要がある。


 射撃位置についているのは、UN-Spece2号のみではなく、日本の自衛軍からの応援艦である“そら”型A-2艦もその主砲を恒星船に向けている。いずれの艦の2基のレールガンとも同じ艦を狙い、順次次の艦を狙うことになっている。


 日本で開発されたこのレールガンは、10万㎾級のNFRGを積んでいる場合には3分に1発撃てる。無論、その間10秒に1発撃てる8基の小型レールガンは他の艦を狙って打ち込んでいくし、コメットも同様である。


 シンプソン大佐達の班が、このような作業を行っているうちに、本隊は軌道上から地表の様子を探っていた。それらは、大部分がアーマラ総督府の作った5か所の飛行場に駐機していたが、軌道上の戦いにより救援の要請を受けて、100機ほどが軌道上に上がってきた。


 もともと、加速はコメットよりも大幅に劣るマグラ機が、重力に逆らって上昇するのは自力では無理であった。これは、高効率ではあるが、A型バッテリーの半分ほどの能力しかない電池では電力が足りず、このため軌道上に上がるためにロケットを装備する必要がある。


 ただ大きな問題は、母艦機能があって電池の供給もしていた恒星船が、すでに機能をほとんど失っていることであった。しかし、恒星船に生き残りがいて地上に連絡してきている以上見捨てるという選択はなかったのだ。


 しかし、このようなのろのろした動きでは、数こそ多くても、到底コメットの敵ではなかった。軌道を目指した100機ものマグラ機は、コメットとギャラクシーなどの小口径レールガンの的になって全滅した。


 そしてその頃には、シンプソン大佐の班はすでに、軌道上の恒星船をすべて破壊しつくしていた。その後、シンプソン大佐の班は本隊に合流して、地上の残ったマグラ機と、大気圏内戦闘機を狩りはじめ、5日の内に殆ど全滅させた。


 その間に、地球に迎えにいったSpace型艦に案内されて、兵員輸送艦のスワンがやってきた。そして乗っていた陸戦隊が地上軍を抑え、同乗してきた外交官がナガラ帝国政府と戦後処理の交渉を始めた。

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