第47話 ナガラ帝国の解放2

 強行調査隊の隊長の仁科大佐が、国連軍本部で調査の概要を報告している。

「……アーマラ軍の惑星イールズでの配置は、その冊子にありますが今述べた通りです。恒星船は戦力としてはさほど問題にならないでしょう。しかし、わが方のコメットに当たるマグラは素早いので強敵と思い、挑発してその能力を調べましたが、思ったより低い能力でした」


「ほう、コメットに当たる機の能力が低い?」

 アベル・バドウェル司令官、国連軍大将が聞き返す。


「はい、単に当たったパイロットの能力が低い可能性もありますが、そもそも力場エンジン機は分析・判断して調整すべき事項が多すぎて、人が判断して操るのは無理でしょう。

 まして、機体の軸に据わっている機載銃の射撃となると、機体の操縦が絡むだけに優秀な人工頭脳による分析と判断がどうしても必要です。

 その意味で、マグラ機は機体の反転にも苦労していたようですから、制御する人工頭脳の能力が相当我々のものより劣っているようです。また、2㎞足らずの距離の射撃に照準を合わせるのに5分もかけて、しかも外しています。

 さらに、加速度は2.1Gで我が方の3.2Gに比べ大幅に劣っています。200機という数は脅威ですが、うまく戦えばパーフェクトゲームがやれるでしょう。


 そのことから、当初の予定通り、日本とアメリカからの増援を含んでギャラクシー級4隻にUNスペース級6隻に加えてその艦載機コメット62機があれば、アーマラを撃破してナガラ帝国の開放はできるでしょう。

 彼らが最強の兵器と考えている核兵器を、こちらは無効化できますからね。ただ、その場合は彼らの恒星船にマグラ機、それから大気圏内用の力場エンジン戦闘機を全滅させる必要があります。陸軍も1万人と数は少ないですが、無力化には陸戦隊が必要です。


 それが、うまくいったとしても、ナガラ帝国にいる100万人のアーマラ人をどうするかという問題があります。そのまま放っておくと、ナガラ人がアーマラ人に報復するという可能性があります。

 ナガラ人は数十万の人々が核で殺されたのを忘れていないでしょうし、占領後はずいぶん迫害されていますからね。そこに我々が介入するとしても、難しい問題になりますよ」


「うーむ。まあそうだな。そういう問題には関わりたくはないな。ではニシナ、君はどうしたらよいと思う?」

 バドウェル司令官が応じる。


「結局、アーマラが1.5光年の距離を渡ってまで惑星イールズまでやってきたのは、核燃料を求めてです。彼らが常温核融合の技術を持っていたら、そんな必要はなかったでしょう。だから、NFRGを渡してやったらいいのではないですか?本国と交渉するのですよ」

 仁科の答えに、マーク・オコンネル博士が口を挟む。


「いや、ニシナ、それは違うよ。それはあまりに危険な判断だ。君が言うように、私も彼らが恒星船を作って航行してきたのは、核燃料を求めてという動機が大きかったのは認める。しかし、その目的のみであれば、自分たちで採掘してもよいわけだ。

 なにも現地住民を武力で従わせる必要はない。まして、核兵器で都市を滅ぼす必要はないし、その後どんどん人を送り込む必要はない。


 確かに、やっていることは、地球人のご先祖が過去やっていたことと変わらない。僕にはスペイン人の血が混じっているから、綺麗ごとを言っている自覚はあるよ。でも、僕らは豊かになって過去を振り返って反省して変わった。

 アーマラ人は10万年の歴史を持つという。そして、技術レベルから言えば十分に豊かであるはずだ。にもかかわらず、彼らは、征服した民をためらいなく虐殺し、無造作に暴力をふるうような行為をしている。


 僕は、今後彼らは変わって平和的になるとはいかないと思うな。そういう彼らにうかつに技術を渡すのは危険だし、その場合には徹底した監視が必要だ。それを監視するような根気と能力は我々にはないよ。

 だけど、いずれにせよ超空間無線機によって我々のことを知っているアーマラ帝国の本体と交渉は必要だ。そして、彼らには我々に勝てないと教えておく必要がある。


 ああ、そうそう。彼らが空間転移を発明するのは時間の問題ということを、例の翔君が言ったというね。今回我々のイールズの行動で、彼らが空間転移の存在に気が付く可能性が高いね。そうしたら、翔君の言う通りになると思うな。

 その意味では、やはり見張っていく必要があるけれど、今回の件で我々が彼らにどう対応するかで、今後が大きく変わってくるような気がするよ」


 それを受けてバドウェル司令官が言う。

「うむ、私も博士の意見に賛成だ。厄介なのは彼らが超空間無線機をもっており、母星に連絡できることだ。だから、我々の宣言はすでに母星に届いているはずだ。とはいえ、母星で今アクションを起こしても2年後ではあるがね。

 ただ、今現在もイールズに向かっている艦もいるはずだから、それらを計算に入れる必要がある。しかし、基本的にはイールズに居るアーマラの戦力を無力化すれば、彼らからのナガラ人の開放は可能ということだ。


 さらに、今わかっていることから考えれば、彼我の個々の戦闘機の能力は相当上回っているようだから戦力的にはこちらが有利だ。それで、首尾よく彼らを武装解除ないし無力化した後どうするかだ。意見はあるかね?」


 それに対してオコンネル博士が自分のタブレットで地図を見せながらいう。

「皆殺しというわけにはいかない以上、隔離するしかないでしょう。ただナガラ人と同じ大陸はまずいでしょうから、大きめの島ですね。ここはどうでしょうか、無人島とはいきませんが、千人足らずのはずです」


「ふーむ、どのようにして100万人移すかなど難しい問題はあるが、どのみち多数の移民がいる以上は難しいことは確かだ。多少強引で手間がかかるが、仕方がないということだな。ナガラ帝国には主体的に動いてもらわんとな。ニシナ大佐こんなところでいいかな?」


「はい、了解いたしました。私が甘かったようですね」

「よし、以上で、強行偵察隊の報告と、ブリーフィングは終わる。

さて、作戦名『ナガラの夜明け』の司令官は、国連軍の副司令官である、リチャード・カーン中将だ。では、カーン中将、後は頼む」


「リチャード・カーン中将だ。惑星イールズ遠征隊の司令官を務めることになった。構成は戦闘艦として国連軍のギャラクシー級2隻、UN-Space級2隻、これに米軍からギャラクシー級1隻とSpace級3隻、さらに日本国自衛軍からギンガ級1隻に、そら級3隻が加わる。

 これらの艦にはコメット級の宙航機が定数配備されるので、合計62機がそろうことになる。乗員は、ギャラクシー級の艦でコメットの乗員を含めて各艦70名、Space級で60名となっている。


 さらに,転移装置を設置したスワンがビートルを20機さらに陸戦隊を1個戦隊2000名乗せて1隻加わる。唯、これらの出発は1週間遅れる。これは、相手の航空勢力を撃滅してからと考えているからだ。超空間無線機が早くほしいな。

 すでにニシナ君から、アーマラの総督府には警告は出しており、その後我々のコメットが攻撃を受けているので交戦は可能だ。まずは、相手のマグラ機及び地上の戦闘機を撃滅する。


 軌道上の恒星船は原子力船なので、地上に落とすと惨事になるので、早めに無力化をするが、地上に落下しないようにする必要がある。ではこの場を借りて、米軍と日本自衛軍の指揮官に一言お願いしようか、マーク・ジョナサン准将、貴隊の紹介をお願いしたい」


 その声に、米軍宇宙軍の制服を着た40歳代に見える茶髪のたくましい将官が進みでる。

「マーク・ジョナサン准将。米宇宙軍、第3哨戒軍指揮官である。合衆国大統領の命により国連軍への臨時参加することになった。よろしく頼む。

 我が部隊は、司令官からも紹介があったように、ギャラクシー級1隻に、Space級3隻を主幹として、コメット機を18機積んでいる。Space級は配備されたのが2年以上前なので操縦及び武器の取り扱いには十分に完熟している。


 だが、ギャラクシー級はまだ配備され9か月であるため、完熟訓練が終わったばかりだ。しかし、コメットの乗員ともども、宇宙軍ではベテランなので乗員の練度について問題はない。

 ここにいる人々はご存じのように、今の力場エンジン機に比べると、以前のロケットによる宇宙空間への行き来、その滞在ははるかに難しかったからね」


 ジョナサンがそう言って、ウィンクをすると笑いがでたが、それは米軍と国連軍の少数にとどまる。以前のロケット式の宇宙飛行をしたものは少ないためだ。米軍関係者以外は、日本自衛軍などロケットによる宇宙空間での活動は経験していない。


 ジョークのつもりが滑ってしまった准将は気を取り直して続ける。

「ああー、いずれにせよ、今回のミッションは地球外の人々を、征服された帝国からの圧制から救うという、まさに宇宙時代にふさわしいミッションである。私と私の同僚諸氏は、この国連軍の存在によって、地球上から『戦争』はなくなっていくと考えている。

 しかしながら、宇宙にはアーマラ帝国のように突然他の星を征服しようという存在がある。そうである以上、今後地球としての防衛軍は必要であることは自明である。

 そのテストケースとしての本『ナガラの夜明け』作戦がいかになされたかは、今後の歴史に残っていくことになる。その意味で、本作戦における我々の振る舞いは、ナガラの人々、また地球の人々に厳しく見られて言うことを肝に銘じたい」


 拳を握って力説する准将に大きな喝采の声と、拍手の音が響く。

「ジョナサン准将ありがとう。では次に日本国自衛軍のミワ宙将補にお願いしよう」

カーン司令官の言葉に、日本人としては長身細マッチョの将官が立ち上がる。


「日本国の宇宙自衛軍の三輪達夫宙将補です。わが日本は、日本は長く『軍』を持ってきませんでした。それは結局第2次世界大戦、日本でいう太平洋戦争の悲惨な結果を受けて、二度と戦争はしないという決意からです。

 しかし、皆さんもご存じの尖閣沖事変で、中国から領土への侵略を受けました。まあ、黙って受け入れれば、無人島がとられ、たぶん隣の島も取られていたという話です。それに対して日本政府は武力で反撃する決定をして、実際に戦って勝つことができました。


 そして、日本の人々はそれを支持し、自衛隊の保持を明記した憲法を再度変えて、侵略戦争は禁止しながらも軍を持つ決意をしました。しかも今回の改正には国際貢献も可としています。

 私どものこの『ナガラの夜明け』作戦への参加は、この憲法改正を受けて国連軍への参加を可能にする立法化に基づくものです。まあ、『引き籠りの日本がようやく穴から首を出した』といわれていますが。


 国民の皆さんからもがんばれと言われて出てきました。幸い、宙航艦ギャラクシー、日本名『ギンガ』の原型の『そら』型および宙航機は日本で開発されたものであるため、我々はそれを使って長く訓練をしてきました。

 そして、力場エンジン機の特徴はいくら訓練をしても、ジェットエンジン機と違って経費がうんと安いですから、財務省から文句を言われずにすみます」


 三輪がにやりというと、米軍のジョナサン准将も同意して言う。

「そうだ。俺らも会計係から整備費と燃料代の使い過ぎを言われずに済んでいるぞ!」


「我々は、お宅(米軍)と違って予算が少ないからね。まあ、我々はそういう意味では力場エンジン機の実戦も一応やっていますし、練度では高いと思っています。

 また、ジョナサン准将の先ほど言われた、なんと歴史上初めての、宇宙のかなたの惑星での活動という点は大いに士気が上がっております。

 そして良くも悪くも我々が地球を代表しているということも胸に刻んで活動することを申しておきます」三輪のあいさつで締めくくりとなった。


 12隻の艦隊は、惑星イールズから1千万㎞の位置に遊弋している。国連軍本部での協議から4日後のことであった。艦隊は、その自由空間から、テレビ放送を行った。これは、アーマラ人にも、ナガラ人にも受信可能なものである。


 映像には、主として宣言を述べるリチャード・カーン司令官のほかに、地球人のサンプルとして見せるために、10人の制服を着た兵を映している。


「我々は、地球の国際連合という多国間の連合から送り出されたされた派遣軍である。私はその司令官であるリチャード・カーンだ。

 まず、惑星イールズの住民である、ナガラ国の人々に申し上げたい。我々は、ナガラの人々をアーマラ総督府の支配下から解き放ち、自分たちの土地と自由を取り戻す手助けするために来た。これは、君らの代表の一つ『ナガラ独立戦線』の要請によるものだ。


 なお、我々は君らの開放に協力はするが、その代価を求めることはしない。望むのは、アーマラを排除した後に我々と交易を始めてほしいということのみである。

 さて、アーマラ総督府及びアーマラの人々に告ぐ。君らは惑星イールズ及びサイラス大陸を占領して支配者のごとくふるまっているが、君らは単により進んだ軍事力を持っているに過ぎない。


 一方で我々地球は、君らより軍事力で勝る。だから強者として君らに命令する。

『直ちに、違法に占領した地を返し、君らのために働いている人々を開放することを宣言せよ。同時に君らの軍は武装解除せよ。恒星船はすべての武器を封鎖し、ナグラ等の宙航機や地上戦闘機は地上に駐機せよ。陸上部隊は武装を解除せよ』


 1日以内のこの命に従う行動を起こさない場合には、まず恒星船、宙航機及び地上戦闘機をすべて破壊する。その後、我々の地上軍を送り込んで、地上軍をせん滅する。その際に戦闘に参加するアーマラ人は軍人と同じ扱いをする。


 我々は軍人以外の君らを、君らのように迫害する気はない。しかし、ナガラ人の土地と建物を勝手に奪った今の家は帰してもらう。それから徐々に母星に帰ってほしいが、その間は島に隔離するので、自分で働いて暮らしてほしい。無論定着までの援助は行う」


 33秒遅れて、イールズの静止軌道上を回っているステルス無人機は、艦隊からの電波を受け取り、地上のテレビ放送に入り込んで上書きする。


「総督閣下、大変です。このテレビの録画を見て下さい」

 秘書が止めようとするのも聞かず、総督府に詰めている総督軍副司令官が映像の入ったカードを持って総督室に走り込む。


 総督のワイズラは一瞬怒りを覚えたが、事態を確認するのが先と、とりあえずカードを部屋のテレビ再生機のスリットに差し込む。その内容に一緒に居た秘書が無礼な言い分に大いに騒ぐが、ワイズラは怒りを抑えて冷静に見ている。


「ふむ、あの映像であればいたずらであろうはずはないな。これは、前の放送と同じ者たちの仕業だ。その後、軍のマグラ機が追ったがあしらわれたという話だったな」

「あ、あしらわれたとは!単に相手が逃げただけです」


「ふん。逃げた割にしゃれた捨てセリフを吐いてな。さて、いずれにせよ。彼らの言うとおりにはできん。我々には100万の人々の命運がかかっておる。

 ということは、軍がその地球という惑星から来たもの達を追い払うか、撃滅するしかないわけだ。そういうことで、司令官にはわしからも連絡するが、君らも知恵を絞って彼らに対抗せよ。よいな」

「は!かしこまりました。総督閣下」


 同じころ、ナガラ帝国皇帝、イスミール・カライ・セザン・ナガラは急ぎやってきた皇太子レータイス、宰相ミーガランほか2名と同じシーンを視聴していた。画面の下にはナガラ語とアーマラ語の訳文が示されているので内容は理解できる。


「ふーむ、なるほど先日のアーマラを追い払ってくれという要請の書類は、無駄ではなかったということであるな」


「はい、陛下。予告するとはよほど自信があるようですな。我々が全く敵わなかったアーマラという存在がある以上、アーマラが敵わない相手がさらにあることは論理的に頷ける話ではあります」

 宰相が応じ次いで皇太子が言う。


「私も会いましたが、地球人という存在は我々によく似た人々のようであるし、少なくともアーマラ人よりは好感が持てます。彼らも過去は互いに侵略し侵略され、激しく相争ってきたと言います。

 それが、力の強いもの達は豊かになって争って他から奪う必要がなくなり、互いに尊重しあって暮らすようになったと言います。それは、わが帝国がアーマラに侵略される前の状態なのでよく解る話でした。

 わが帝国を侵略するのではないと聞いた答えは、彼らは無人の豊かな惑星をいくつも見つけているそうで、わが帝国を侵略する必要はないと言っておりました」


「うむ、なんにせよ。地球人はアーマラよりはずっとましだと余も思った。人々もこの放送を視聴しているだろうが、彼らがどう思うかな。まあ、地球人は帝国政府の名は出さず、『ナガラ独立戦線』の名を使ったようだが、今は出されると困るので良い判断だ。 

……うまくいくと良いがな。何もできんということは辛いものだ」


 皇帝が言ったが、彼らにとっては今は待つことしかできない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る