第34話 異星文明の発見!

 2027年10月、国連の恒星間探査船はついに異星文明を発見した。探査船Sercher2号が探索を途中で切り上げて帰ってきて、明らかに文明を築いている存在の報告をしたのだ。現在では国連はSercher1号から4号の4機を星間探査に送り出している。


 最後の1機はまだアメリカで建造中であり、まだ完成まで半年は必要とされている。日本の分担の4機はすでに国連に納入されて、3ヵ月前から探査に送り出されている。これらは、すでに120の星系を探査して8つの生命を持ち、酸素と水が存在する地球型惑星を見つけている。


 アメリカは、やはり工業生産にいては、嘗ての能力を失っており、日本に比べ大きく能力が劣ることが探査船の建造期間の差を見ても明らかになっている。もっとも、セミナーの効果もあって、日々改良が続けられている日本は、自動化・プレハブ化の効果で日々その工場製作の能力を高めていることも差のついた原因である。


 現時点では、例えば船の建造速度とコストを、最近まで世界一と言われた韓国や中国と争っても、日本が大差で勝つと言われている。しかも日本は、探査船と同種の艦をすでに数多く建設している。だから、その差のみを見てアメリカの能力が低いとは必ずしも言えない。


 Sercher2号の持ち帰った映像や、様々な測定結果は国連軍基地内に集められた、20人の解析チームによって熱狂的に解析された。そして、すでに世界で騒ぎになっていることから、2日後には一次報告としてそれまでの解析結果が公表された。


 解析チーム長の、アメリカ人であるマイク・リッチャー博士は、テレビカメラの正面の長机の前でチーム員である他の2人と座っている。そのわきの長机に座った2人の一人であるケニア人の国連広報部長のサリア・ヴィドミ女史から、記者会見の開始の挨拶がある。


 さらに彼女から国連総裁のジョン・マッカーシーが紹介され、総裁がその間違いなく歴史的な発見の意義を滔々と述べる。

「……。このように、我が国連が送り出したSercher2号が期待通り、文明を持つ惑星を発見しました。この文明は、地球で言えば、20世紀の始め辺りの水準にあると見られます。

 一部の地域ですが、整然とした農場があり、動力を使った車や船が走り回り、ビルが建ち並ぶ都市には電灯が使われています。一方で、大部分の地域の夜は灯りはまばらであり、相当に原始的な生活を送っているものと見られます。


 48時間に渡る調査の結果として、航空機は見られず、空から観測する限りにおいてこの文明は我々に危険性は無いと考えられます。また、戦争の跡や実際に行われている戦争行為は見られていませんが、武装した船舶、陸軍部隊、さらに戦車も見られています。

 その意味で、文明の発達した民族が原始的生活を送っている民族を迫害している兆候は見られています。


 いずれにせよ、僅か18光年先に、まだ途上ではあっても、地球人の過去に当たる文明を築いている生物がいるのです。このことから類推すると、我々地球人以上に進んだ、あるいは賢い異星人が他にいると想定する方が自然であると考えます。

 この例から、我々は地球に住む人類として、『地球人』と自らを捉えるべきであると、私は皆さんに訴えます。まあしかし、この場は私の演説の場でなく、マイク・リッチャー博士達のSercher2号が持ち帰ったデータの解析結果を公表する場です。皆さんも私の話よりそちらをお聞きになりたいと思います。ではリッチャー博士お願いします」


 リッチャー博士は「ハハハ」と笑って話を引き継ぐ。

「いやいや、総裁の言われることは正しい。我々は地球人として自覚を持って、下らない人類どうしの争いは止めなきゃなりません。そして、貧困に苦しむ地域を救う必要があります。

 まあしかし、ここは私の意見を開陳する場でなく、事実を報告する場です。……、ではサーチャー2が持って帰ったデータについて、報告しましょう」


 小柄で禿げ頭のリッチャー博士は、手元のメモを取り上げて、横の部下に合図をす る。博士の頭上のスクリーンに、恒星系のモデル図が現れる。


「これが、当該知的生物が住む惑星のある、てんびん座η星の惑星の配置図です。恒星のてんびん座ηは太陽に近い大きさと光度であり、8個の惑星を持っています。

 その第2惑星が当該の惑星であり、地球より少し小さく直径1万1500㎞、重力は0.95と計算されています。これを仮にプラネット2としてP2と呼びます。


 次の写真を、……。P2はこのように、海の青と両極の白、陸の緑と砂漠である薄い茶の構成であり、色合いは地球と似ています。陸が35%、海が65%なので、陸そのものの面積は地球より少し多い程度です。

 文明が栄えているのは、この最も大きい大陸、これをC1と呼びますが、C1ではこの写真の上を北とすると東側の温帯地方にそれなりの文明の存在があります。なお、大陸と呼べるものは他に5つあって、それぞれに原始的な文明の存在が見られます。


 C1で最も大きな国と考えられる地域には、人口が10万を超えると思われる都市が12あり、中小都市、農村、漁村も多くみられます。最大の都市は100万人を超えていると計算されています。

 国境線は無論わかりませんが、一定のこうした構造物、村などの存在から推測すると、この線のようになって、多分面積は1千万㎢を超えるものと考えられますので、5千万㎢の面積のあるC1の1/5に相当します。


 また、地域ごとに街並みなどにかなり差があります。ですから、この文明の国は、多分いくつかの文明が合体した、あるいは侵略した帝国という存在であろうと推測できます。人口は8千万から1億人の間であろうと考えています。

 この帝国の名をC1A帝国とすると、このC1A帝国には自動車,汽船、列車が走っていますし、建築のレベルも20世紀初めのヨーロッパに相当します。


 また、C1には他に生物が構築した人工物が多くある地区が5つあり、それぞれにそれなりの文明を築いていますが、動力を使った乗り物はありません。

 またCIA帝国には、明らかに砲を積んだ動力船が多数あり、陸軍の駐屯地、騎馬隊、戦車の存在が確認されています。さらに陸軍の軍事練習も観測されていて、大規模な軍を持っており、それは臨戦状態であるということです。それから、これらの生物の映像を撮っていますので、ご覧ください」


 そして、出てきた最初の映像に、記者たち30人余りがどよめいた。それはドローンを地上に下ろして、街道脇に隠れさせ、通りを通行している20名ほどを撮った動画であった。リッチャー博士は一通り通行した生物を撮影した動画を見せたあと、映像を都度止めながら説明する。


 2足歩行している生物の身長は150~170㎝の間位で、顔の目の状態、顔にうっすらと鱗が浮いている所から爬虫類から進化したものと考えられる。男女の差はあるのだろうが、頭の辺りにあるとさかの形が丸みかかっている者と尖っている者2種類がいるので、それが男女の差かもしれない。


 明らかに会話しながら歩いているが、シュシュッという擦過音にしか聞こえない。途中で一人がぴょんという感じで跳んだが、1.5mほども跳んでおり、身体能力は随分高そうだ。会話の情景、お互いのしぐさ、さらに目の光と動きをみると、それなりの知能があるのは明らかだった。


「このように、彼らは爬虫類から進化したと考えられますが、明らかに知的生物です。科学技術の発達は我々に比べて遅れています。とは言え、知能において劣っているかどうかは解りませんが、少なくとも機械文明の段階には達しています。

 あと、どうもこのテクノロジーの差、さらに軍備を考えると、C1A帝国がC1大陸を征服するに足る力はあるようです。さらに、場合によっては他大陸も征服する可能性も高いと考えられます。

 この点は、他の大陸にはやり同様な知的生物がいますが、C1より大幅に技術レベルは低いために、C1A国がその気になれば可能でしょう」


「博士、というと、そのC1A帝国が惑星全体を征服して、他民族を奴隷化するということですか?」

 記者の一人が発言を求めて立ち上がって言う。


「征服というか併合というか、そのために武力を使うことは確かだと思います。その時点で少なからぬ犠牲がでることはあるでしょうね。ただ、奴隷化するかどうかは、どうでしょうね。

 その帝国の併合または征服された地域が、首都付近と比べて歴然と生活水準が低いとは見えなかったところから見るとそういう文明ではないのでは、と思っています。


 それに、そうした国が征服されて帝国の一部になった場合には、旧支配層の人々はともかく、一般人はむしろより進んだ国の一部になることで、より幸せになるかもしれません。まあその辺りは実際の調べて見ないと判りません。

 マッカーシー総裁、知的生物が見つかって、我々に危険が無い場合には互いの交流を前提に調査をするのですよね?」


 総裁は頷いて答える。

「そういうことです。対象の住民が宇宙飛行の能力を持たない場合には、交流前提の調査を実施します。ただ、相手が攻撃をしてきた時には、こちらが引くということです。しかし、その場合でも、その攻撃してきた相手に対抗勢力があった場合にはまた別です」


    ―*-*-*-*-*-*-


 その記者会見の様子は、世界に同時放送されていたので、翔は自分の研究室でその放送を見ていた。国連軍基地のあるハバロフスクとの時差はない。


「シベリア共和国は、こうしてあちらの放送を見るには、時差が無いところがいいな。広い場所がいる時は、シベリア共和国に作るか。F型の飛翔機を使えば1時間だから、移動もどうってことはないものね」


 その放送を見ながら翔が軽口を言うが、部屋の斎藤に西川それに5人の女性は真剣に視聴している。彼らは、知的な異星人の発見ということに興奮している。

「カケルさん、国連は今後どうするんでしょうね」

 美女達の一人シンディ・ローバーが問いかける。目がきらきらしている。


「うん、さっき総裁が言った通りだ。まあ、やり方としては、最初はC1A帝国の首都にドローンを下ろして、地球からの使者が訪問するという映像を見せる。そして、最初は宙航機で2~3人で降りて、身振り手振りをやっている内に、翻訳AIが大体通じる程度の語彙を集めるだろう。

 まあ、相手がそこまで付き合ってくれれば、交流はできるだろうよ。先ほどの説明から、C1A帝国は惑星の中では圧倒的に文明も技術も進んでいるようだから、彼らを後押しして惑星を統一させる手だな」


「ええ!帝国の征服の手助けをするの?」

 茂田カンナが翔を非難するように言う。


「ああ、生活レベル、文化レベルが地方によって大きな差がある場合には、出来れば、統一して平準化した方がいいんだ。ただ、地球の植民地獲得における原住民の収奪、奴隷化などは困るよね。

 だけど、その時点で我々が彼らと交流を持っていれば、あんなことをさせない様に導くことが出来るよ。テクノロジーに大差があるから強制だってできる。

 なにより、武力による征服などしなくても、豊かに暮らせることを教えれば、征服戦争などバカバカしいのは判るはずさ。地球において起きた戦争の多くは、貧しさから逃れて豊かになろうとしてのことだからね」


 翔の言葉にカンナは不服そうだ。

「でも、征服というか吸収合併でもそうだけど、必ず差別が生じるでしょう?」

「ああ、もちろん生じるさ。だけど、野蛮かつ強欲な自分達の指導者に収奪されて食うや食わずで暮らすのと、技術に優れて豊かになる術を知っている他の種族に従属して暮らすのとどっちがいいかな?

 前者は技術と知識がないので生産性が低いために、指導者が収奪しなくても、豊かには暮らせない。


 そもそも、この地球で、ある国は年間の一人当たりのGDPが10万ドルを超え、ある国は300ドルだ。こんなバカな貧富の差があるのは、『民族自立』という言葉と概念が理由だよ。

 そういう貧しい地域では、間違いなく互いに奪い合う収奪が起きていて、無数の悲劇があるはずだ。本当は異星の事に係わるより、地球のこの差を無くすことに集中すべきなんだ。


 この異星の知的生物の発見は最初の1歩だ。間違いなく続々と別の種族を発見、あるいは遭遇するはずだ。そうした時に自己紹介する必要があるよね。その内容が、『このように自分達は宇宙旅行をしているけれど、飢えていて、家とも呼べない場所に住んでいる仲間もたくさん居ます』と言えるかい?

 まあ、新生国連には差をなくすための仕掛けがあるけどね。しかし、それは人々が自分達は日本人、イギリス人、アメリカ人、フランス人でなく『地球人』と思うことが必要だ。貧しい国や地域を経済的に引き上げるには、投資が欠かせない。


 これは最終的には戻ってくるのだけどね。でもその投資をするには、投資の能力がある国々の人々が、その投資に納得できなきゃあダメだ。まあ、このように異星の知的種族が続々と見つかれば、いやがおうにもそう思うようになると思う」

 翔は皆の顔を見ながら言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る