宇宙時代の夜明け

第44話 無人探査機の発見

 2030年の4月になった。翔も20歳になり、成人を迎えたということでK大の技術研究所の理事になっている。


 この間、K大学関係では多くのノーベル賞の授賞者が出た。まず、名波教授、笠谷教授に翔が常温核融合の理論を確立したとして、ノーベル物理学賞を受賞した。またA型バッテリーの発明ということで、西村電気学科教授と西村准教授に冶金の城田教授、応用物理の島村教授に加えて翔が化学賞を受賞している。


 さらに、すでに現在従来の巻き線モーターを駆逐したI型モーターの発明で、安田電気学科教授と永田准教授に翔が次の年に化学賞を受賞している。


 翔の『宇宙均衡論』は現在学会で大議論を呼んでいて、賛否あるがすでに応用を生んでいることから、これもノーベル物理学賞間違いないとされている。だが、同一人物が同じ部門で2回の受賞は例がなく、暫く塩漬けになるだろうと言われる。


 さらにガン等のウイルスによる治療法の確立で、発案者の東大の藤井教授と、K大医学部の春日教授と水井准教授が受賞している。東大の藤井教授は、自分の成果は到底その段階でなかったものを完成して貰ったお陰の受賞と喜んでいた。


 これらの発明に基づく常温核融合による発電所(NFRG)、熱発生機(NFR-T)は、日本では他の方式を駆逐してすでに行き渡った。また先進国ではNFRGはほぼ行き渡り、NFR-Tについて盛んに転換が進んでいる段階である。


 二酸化炭素の圧倒的な世界一の排出国であった中国は、持ち前の昼夜問わずの突貫建設でほぼNFRGは予定数をこなし、現状では製鉄所等でNFR-Tへの転換を行っている。中国の過剰な製鉄所はこの転換を機に一気に整理するという。


 ちなみに、NFR-Tを用いた製鉄については、日本の製鉄所のエンジニアとK大が協力して、製鋼が必要ないシステムを組み上げた。これは、微妙な熱管理と混合材の投入を人工頭脳で厳密に管理することで、品質・コスト共に世界最高のものとなった。これも『開発セミナー』の成果である。


 A型バッテリー、I型モーターはあらゆる産業・民生用途に入り込み、日本ではほぼすべてのエンジンは駆逐された。その進展を睨んで、トラック、バイクを含め自動車については、日本では2年前にエンジン駆動車が禁止されている。

 世界においても、すでに自動車の80%はAタイプになったと言われ、今では世界のあらゆるところにセルの励起工場が建設されている。


 また、力場エンジン利用はますます広がりを見せており、ジェットエンジン・プロパラ機による離着陸を禁じる飛行場が増えているなかで、日本ではすでに全面禁止になっている。

 現在、旅客機は95%以上がすでにF形に代替されているが、60%の機体は従来のものを使って翼を無くしたものになっている。四菱重工のある日本では、従来の機体を使った機は殆どなく、大部分が鋼製の新造の機体になっている。


 この新造機体のF型のメリットは、簡単に成層圏に上がって航行できることであるが、このために航路が遠くても近くても、飛行時間1時間程度以下という点は変わらない。


 そうすると、セルの充電費用は、航空燃料に比べると微々たるものであるから、拘束時間に差が無ければ、機体の償却、人件費は大差ないので、コストにあまり差がないことになる。このため、日本の場合には国内便とニューヨークやロンドンへの長距離航空運賃が1:2程度になっている。


 このことで、経済的に余裕の出た日本人は、空前の旅行ブームを巻き起こし、人々は国内旅行のノリで世界に出かけるようになった。これに拍車をかけたのが、スマホの翻訳アプリであり、胸元に下げておけば全くその地の言葉には不自由しない。


 また、力場エンジンによって劇的に変わったのは貨物輸送である。力場エンジンは、重力をキャンセルできるので重量物の浮揚を苦にしない。だから機体を鋼製にしている訳であるが、船程度の大きさのものを駆動するのは問題ない。


 ただ、余り長大になると、機体にかかる応力が増大するので、今のところは大気中で運用する場合には長さ200mを限界としている。もっともこの応力は宇宙空間では問題にならない。


 従来長距離の貨物輸送は、コストの面から海洋を進む船舶によっていた。従って、海に繋がってない内陸部では、輸送がコスト高になって有用な資源があっても余り意味がなかった。しかし、現在ではF型貨物飛翔機がどんどん作られるようになってきた。


 これは、時速500㎞程度の速度で、目的地までほぼ直線で飛行できる。この速度は、通常の貨物船の速度30㎞/時の16倍である。しかも、荷下ろし場にその機体が入るスペースがあれば、直接積み下ろしができるので、港から工場までの運搬を必要としない。


 加えて力場エンジンは、100トンを超える重量物の持ち上げ移動する機能があるので、F型飛翔機には全て力場クレーンよる便利な積み下ろしの機能がある。F型飛翔機の機体の値段は、従来の船舶に比べ同じ積載量であれば2倍程度になる。


 だが、運搬に必要な時間が大幅に短いので、償却費と乗員の人件費が従来に比べ1/15~1/20になることになり、コスト的に大幅に低くなる。


 船舶に力場エンジンを積むことも航空機と同様に考えられたが、そもそも水に浮くように作られた船は空力的に向いていない。更に特に大型船は力学的に無理があって、そのまま力場エンジンを積むという形の転換は無理であった。その為に、少数の中小船を除き、この種の転換はされなかった。


 しかし、これだけのコスト差があれば、コストを重視する商用においてF型を採用するのは当然である。F型の機体は造船能力があれば当然製造できるので、日本政府は世界からの製造技術開示の強い要求に耐えかねた。


 最初に大型のF型貨物機の機体製造の技術を確立した四菱重工は、政府の要請を受け入れ、旅客機と同様に貨物機のノウハウを有償で公開した。設計ミスで、空を飛ぶ飛翔機が墜落したら洒落にならないので、やむを得ない選択であるが、四菱重工としても十分に利益があった。


 このように、化石燃料の燃焼は徹底的に減らされていく中で、昨年はっきりと世界の二酸化炭素濃度が減少に転じたことが発表された。しかし温暖化の悪化は食い止められたが、改善には時間を要するので、気候変動の収まりは5年後程度にみられるはずという報告であった。


 さらに、原子変換によるリンと窒素肥料の生成工場は、全世界でどんどん作られ、そのお陰で価格は20年以上前の価格で落ち着いている。このため、生産量の少ないリン、カリウムの鉱山は採算が取れずに閉鎖されつつある。


『地球を豊かに』の名の元に進めている国連の貧困撲滅キャンペーンの事業は、農業が中心になる場合が多いが、生産性を上げるには灌漑と肥料が必要になる。その意味でリンとカリウム肥料が大幅に安くなったことは、大いにこの事業に貢献している。


 ちなみに、世界にこれらの大変化をもたらした発明の権利は、基本的な部分は全てK大学技術研究所が持っており、その権利を使うものから特許料を徴収している。その額は得られる利益に比べ、極めて小さいのでクレームはない。


 その額は、一昨年ピークを迎えて年間8兆円を超えたが、今後漸減して5年後に6兆円になると予想されている。これは、NFRGなどの建設時に徴収するの特許料が減っていくからである。


 だが、NFRGを貧困地区に設置することが、その地域の経済の活性化に非常に有効であることが判ってきた。一方で、それは同時に電力消費量を急速に増やす結果になっている。

NFR機が無い状態であれば、電力消費量の急激な増加は憂うべき問題であったが、10万㎾のNFRGであれば、9億円の費用で1週間で建設でき、償却費を除いた運転費は2~3円/㎾hである現在、いくら増やしても人々に大きな負担はない。


 このこともあって、K大学技術研究所の特許料収入は、大きくは減らない見込みである。これらの巨額の収入の使い道は、国との取り決めで、一部は特許出願時の権利者への配当として毎月支払っているが、大部分は各大学の研究費として支出している。


 また、今後の宇宙時代をにらんで、宇宙科学アカデミーを設立して宇宙港を併設した。1㎞×2㎞、200haのこのキャンパスはシベリア共和国の国連軍基地の隣に建設した。このキャンパスとK大学は飛翔機の定期便が毎日1~2便運航しており、1時間で結んでいる。


 このような場所に建設した理由は、一つはセキュリティである。隣に国連軍基地があるというのは最高の警備隊が隣にあるということだ。もう一つは、これだけの纏まった土地を日本で得ようとすると、価格はさることながら地権者の交渉で長期間を要することは間違いない。


 その点では、話を持ち込まれたシベリア共和国政府は大喜びで、国有地だった土地を驚くほどの低価格で売ってくれて、その上に道路の建設を最優先で実施してくれた。これに、電力は10万㎾のNFRGを自前で設置し、上水は井戸を水源として自己水源を持ち、下水道も建設するなど内部のインフラは自分で整えた。


 宇宙学アカデミーは2030年4月開校し、天文宇宙科、航法科、機関科、開発科の4つの科を設置して各200人の学生を募集した。資格は高校卒業以上30歳以下で、学力、身体能力、心理的性向などの項目で選抜している。


 なお、F型飛翔機はすでに世界で1万機以上飛んでおり、基本的に飛行機のパイロットのパイロットだったものが操縦している。しかし、その飛行範囲は高度100㎞の空気抵抗がほとんどない成層圏のみで、それ以上の高度で跳ぶことは許されていない。


 宇宙空間を行動範囲とする宙航艦、宙航機の操縦は先進国と国連の軍のパイロットであるため、今後『民間の宇宙パイロット・機関士』などの養成必要とする話題はあがっていた。


 K大学はパイロット・機関士の養成は考えていなかったが、宇宙学部の設立は考えており、そのために宇宙港が欲しいと思っていた。そこに、国が声をかけて今の形になったもので、このアカデミーは国立大学の分校という扱いになっている。


 国立大学なので、受験生は日本国民に限っても良いのであるが、またも国際的な圧力があって、半数は日本人、半数は留学生ということになった。予想されたように入試においては、日本で45倍、世界では102倍の高い競争率になった。


 受験者は15歳から30歳まで、平均は23歳であり、男女比は7:3であった。これをネットによる学力テストで3倍まで落として、海外組は国ごとに人数を決めた上で、K大学で本入試を行って合格者を選定した。


   ー*-*-*-*-*-*-


 翔はシベリアの国連軍基地に来ている。国連は、宙航艦『UN-Space1』及び『UN-Space2』が、半径50光年の範囲の約3200の星系の調査を終了したので、その結果の発表を行うのだ。


 無論、今までの調査の結果の重要な事項は公表されている。現状のところ、地球型で人が住める可能性が高い惑星は25個が見つかっていて、それぞれにデータは公開されている。


 知的生物は、現状ではイセカ帝国の他に3種族見つかったが、2種族はまだ石器時代に近い発展段階であり、部族ごとに争っている様子に、メリットが少ないことから当面接触しないことになった。


 1種族は、地球の第1次世界大戦レベルであるが、3つに分かれて戦争中であった。また、その2つは別の種族を奴隷化している模様であり、係わるのが面倒なのでこれもパスしている。今まで見つかった内容からすると、宇宙旅行を達成している種族はなく、危険を覚える相手もいないようだから植民は問題ないように思われる。

 

 しかし、今日の発表では、48光年の距離に、問題のある惑星が見つかったとの報告があるとされる。だから、翔は宇宙科学アカデミーの視察のついでにやって来たのだ。翔は西川と一緒だ。斎藤は物理学科の准教授になって、翔と行動を共にするのを止められたのだ。

 それに、今年のノーベル賞に力場エンジンの開発が選ばれることが確実と言われていて、その開発に活躍した斎藤も選ばれると予想されているからである。


 その発表は、今までの無人調査機による調査の総まとめの後であった。

 発表したのは、星間調査の責任者のマーク・オコンネル博士であるから、彼のチームがそれを重視していることが判る。


「これは、太陽と同じG型恒星の3番惑星です。このように青と緑の惑星であり、直径1万4千㎞ですが、比重は少し地球より小さいため重力はほぼ地球と同じです」

 博士はスクリーンに惑星の半球を映して、映像をズームする。


「このように、明らかに都市があります。そして、飛行場らしきものがありますが、滑走路はありません。そして、飛行体が飛んでいますが、プロペラもなく噴射もしていません。つまり、力場エンジンを使っているものと思われます。

 US-space1は高度500㎞で撮影していたのですが、探知されたらしく戦闘機らしき機体が追いかけてきます。それに対しては、全加速で逃げました。その結果、戦闘機は加速が劣るらしく追いつけずに帰っていきました


そこで、プログラム通りに、Space1を惑星から100万㎞ほど離して惑星の周囲を探索させました。その結果、静止衛星の軌道に2隻の宇宙艦を見つけました。大きさは長さが200mほどもあって、葉巻型ですね。

 今度は、ステルス塗装をしたコメット2号で、撮影させながら地上を周回させました。どうもコメット2号はレーダーで探知はできないようで、戦闘機らしき機体は上がって来ませんでした。今からお見せするのは、その撮影の結果を編集したものです」


 博士はプロジェクターを操作して説明を続ける。

「これを見て下さい。明らかに2つのグループがあって、片方が大勢を追い立てているようです。遠くて服装は良く見えませんが、どうも奴隷と御主人と言った感じです。街並みも、きれいに別れていて、広々としたご主人の家と貧民の家という感じです。

 夜間に、コメットを地上に下ろして調べさせましたが、どうも奴隷種族は人間に近く、ご主人は巨体で牙があるようで人間とは姿が遠いようです。また、飛翔艇のような機材は主人の種族のみが扱っていて、奴隷は使っていないです。


 さらに、惑星にはカラーテレビ放送がされているので、AIで解析して言語を翻訳できました。その結果、ご主人種族がアーマラと自ら呼んでいる種族で、このような姿です。見かけはかなり凶暴そうに見えます。

 彼らは、50年ほど前に重力エンジンでこの惑星に到達したようです。転移の技術は持っていなくて、ひたすら加速してきたようです


 熱核反応の原子炉を持っているようで、1.5光年離れた母星まで、片道3年かけて移動しています。だから彼らは熱核爆弾を持っていて、元からいた住民、ナガラ族と呼んでいますが、彼らを打ち負かせて奴隷化したようです。

 ナガラ族の姿はこの通りで、姿は人間に極めて近いです。アーマラ族は、ナガラ族には主としてウラニウムや金銀の貴金属を掘らせているようです。これらは数年に一度母星に持って帰り、自分達はナガラ族を奴隷として働かせ、それを監督する貴族として暮らしている訳です。

 ナガラ族が地球人に似ていることもありますが、彼等に同情を感じますな」


 博士は聴衆を見渡し、最後に翔を期待するように見つめる。

「そうです。私も同感です。見た感じはどう見てもアーマラという連中は悪者ですな。是非、ナガラ族を救いましょう」

 

 翔は立ち上がって決然と言う。皆、良く云ったという顔はしているが、首をかしげている者も多い。

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