第45話 宇宙開発の開始

 当初定めた半径50光年ギリギリの距離で、問題のある惑星が見つかったが、敵対的と思われる種族が転移または超高速の技術を持っていないと判った。そのことから、半径50光年の範囲で地球の安全に危険が及ぶような種族はいないと判断された。


 それに並行して、全世界の国単位で貧困撲滅のための経済成長政策を策定した。だが、目標の一人年間1万ドルはほぼ不可能な国・地域が多数あり、人口にして16億人にのぼることが判明している。


 それはやはり、これらの人々が住んでいる場所の地理・資源的条件が悪すぎることが主たる原因である。これらは、砂漠あるいは砂漠に近くやせて乾いた土地、人口過密、市場に余りに遠く不便、寒冷などの条件である。


 このような場合には、人々を移住させない限りはまず目標達成は不可能である。単純に投資を増やしても持続性がないために、投資効果が無いのだ。そこで、現在では宇宙で見つかっている豊かな惑星に移すべきであるという判断になっていて、無人探査の結果を待っていたのだ。


 概ね、これらの惑星への移住人数は10億人と見積もられており、すでに希望者の絞り込み、候補地の詳細調査など下準備は始まっている。

 最終的な候補地は、最初に見つかった惑星の一つで、12光年離れたクジラ座τ星の第3惑星であり、同様に地球型の惑星であり、直径は地球とほぼ同等、重力、大気組成も同等であり、海洋70%に陸地30%である。


 また、地軸の傾きは11度程度であるため、季節の変化少なく、気象の変動も小さい。資源探査も行われていて、陸地の1/3を覆う森林、1/4の草原、1/4の砂漠、1/5の湖沼となっている。


 動物も草食獣、肉食獣共に豊富で、恐竜と呼べる体長5mを超える爬虫類も生息している。海洋にも生物が豊富で、クジラ類、海生恐竜も少数ではあるがいる。

 鉱物資源も、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロム、アルミニウムなどの金属資源、さらに石油・石炭もすでに発見されていて豊かな惑星と言えるだろう。


 先の貧困撲滅の調査によれば、10億人を移住させれば目標年は2~3年ずれるが数値の達成は可能としている。つまり、計画の達成のためには産業を興し、人口の最適化、が必要で、その場合に地球内で移住するよりむしろ、地球外への移住を考えたほうがよいという判断になったのだ。


 そして、その前提で対象地区の調査を行ったところ、少なくとも40歳代以下については移住の希望が高かった。しかしながら、対象地区の平均的な人々は現在的な生産活動を行う上での基本的なスキルが不足している。


 だから、このようなスキルを持った人々を対象に調査をしたところ、先進国・中進国からも多数の希望が出ている。また、先進国には国あるいは企業が、参加者を募って独自に開発を行うという計画が出ている。


 国連の主導する計画は、資金を国連が調達して、長い期間をかけて移住した人々から回収することになっているが、膨大な作業になる。その意味では、自分でやってくれるなら有難いことであるし、そこに作業者を送り込む交渉もできる。


 そういうことで、移住計画の参加者は国連と希望国ということになった。希望国には当面転移の機能を持った移住船を準備できると称する、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、インド、韓国が名乗りを挙げた。


 問題はどこを割り当てるかであるが、これは国連が第1優先権を持つとして最初に場所を決めた。しかし、国ごとの割あては揉めた。うんざりした日本は、独自に調査していた、21光年離れたみずかめ座ε星の第2惑星に植民することを宣言した。


 これも地球型の惑星であり、直径は地球の0.9倍、重力は0.95、大気組成は同等であり、海洋75%に陸地25%である。だから陸地面積は地球の65%である。また、地軸の傾きは21度程度であるため、地球並みに気象の変化もあり。また陸地の1/3を森林、1/4の草原、1/5の砂漠、1/4の湖沼の構成となっている。


 資源探査の結果はまだ途中であるが、衛星による探査の結果から見ても地球並みに資源はあると考えている。また、日本としてはその中の面積150万㎢の亜大陸が、主として気候の面から理想的と考えていた。


 他国からは勝手な行動と非難されたが、アメリカとイギリスが同様な宣言をしたこともあって、空間転移装置の唯一の生産国である、日本と深刻に対立できる訳もなく、認めるしかなかった。


 空間転移装置については、K大学技術研究所としてトップシークレットと位置づけ、最終組み立ては全てロボットが行っている。その、構成機器は信用できる日本の企業12社が行っているが、各機器の役割や最終的な組み立て方など全容を知る者は5人とはいない。


 これは、力場エンジンに加え転移装置の技術が拡散すれば、必ず野放図に宇宙に遠出していく者がでるだろう。彼等が危険な種族に地球の存在を知らせる可能性がある。また、他種族に転移装置の技術を伝えることで危険を招く恐れがある等の理由である。


 その意味では、空間転移装置の供給先はK大学と日本政府の承認が必要であり、名乗りを挙げた諸国の内、中国と韓国は供給の可否はまだ決まっていない。

 国連は、クジラ座τ星の第3惑星を『ニューアース』と命名したが、日本はみずかめ座ε星の第2惑星を新ヤマトと命名した。


 また、日本は新ヤマトの開発を日本の資本・労力で行うが、移住する日本人の割合を50%以下にして国連の計画に貢献すると宣言している。


 移民船の建造が始まった。基本ベースは国連軍の兵員輸送船のスワンである。これは全長が200m、最大幅が50m、最大高さ18mの3階構造であるが、概ね1日で到着することを考えてリクライニングシートの座席である。定員は5千人で、それぞれ大型バッグ2つを持ち込めることになっている。


 乗客以外の機材や貨物も多量になるが、同じ船体の貨物宙航船が建造されている。船体は全世界の造船所で作られているが、似たような気体にF型の飛翔機がある。これは、鋼製の機体であるから、造船と同じようなものと考えられがちである。


 だが、力場エンジンを積んだ時の応力計算や、陸地に着地する必要がある点、内部の構造、力場エンジン、大容量のA型バッテリーなど船の建造と内装とまるっきり異なる。だから、最初に建造したのは四菱重工であるが、この会社は造船所を持って護衛艦を作っている。また挫折はしたが、航空機を作った経験もある。


 だから、力場エンジンを積んだ鋼製航空機を短期間に開発できたのだ。その開発に、F4F戦闘機に無理やり力場エンジンを積んで、尖閣沖事変で決定的な働きをした『海燕』とした経験も有利に働いただろう。


 さらに、翔も含むK大学からの協力もあるが、『開発セミナー』が有効に働いている。その結果、製缶、機械機器、電子機器、人工頭脳他多くの分野の専門が集まって作り上げる、多種のF型飛翔機を驚くほど短期間に作り上げたのだ。


 海外からの要求に応えて、四菱重工は製作・組み立ての設計図を公開した。このため、基本的には全てのF型飛翔機は、四菱重工の作り上げたプロトタイプの延長である。これは、膨大な数の機体の製造まで、日本で独占する訳にはいかなかったのだ。


 そして、潜水艦改造型でないオリジナルの宙航艦ギャラクシー、自衛隊では『ギンガ』も防衛施設庁と四菱重工の共同設計であり、最初の艦は四菱重工で製造した。さらに、国連軍へ納入したスワンは四菱重工の設計・製造である。


 かくして、現在四菱重工は世界最大の航空宇宙産業部門を持つ会社になっている。そして、移民船ということで、多数の乗客を乗せて宇宙に乗り出し、転移を行う船を設計できるのは、四菱重工しかないということである。


 とは言え、必要な様々な製品については、日本の30社を超える会社がそれぞれにノウハウを持って製造している。そして多くのものが、製造技術が秘匿されて日本でしか作れないものになっている。


 移民船の場合には、船体は比較的高度な造船技術があれば作れるが、肝心なのは内蔵するNFRGと力場エンジン、それに空間転移装置、さらに高度な人工頭脳である。これらはパッケージ化されていて、所定の位置に据え付けて配管と電気配線、光ケーブルで繋げば形はできる。


 しかし、運転可能にするまでの調整を行えるのは、数体のロボットと3人の専門家であって、このサービスは、今のところ日本にしかできない。移民船の場合、船体の価格は30%足らずで、他の機器が70%を占める。ちなみに旅客用の移民船の価格は200億円余である。


 造船所で作られる移民船であるが、従来造船業は中国・韓国がトップであった。しかし、現在では造船所で作られる海を航行する船舶は殆どゼロであり、大部分はF型の飛翔機であり、それに移民船が加わっている。


 飛翔機は運搬に要する時間が非常に短いので、船舶より必要船腹量は大幅に少ない。従って、世界の造船所のトンベースの建造量は、飛翔機の建造が盛んに行われている今でさえ従来の2/3程度に落ちている。

 その中で却って増えているのは、日本であり、特に移民船については世界需要の全体の6割以上を日本で作っている。


 移民に当たっては、最初に都市または基地建設部隊が乗り込んで、人々が最小限住める環境を作ってから人々が住むようになる。その着手に一番乗りしたのは、すでに旅客機を2機、貨物機を3機所有している日本であった。


 実のところ、新ヤマトでは、そら型ですでに半年以上に渡って調査が行われている。惑星開発が国連のみで実施するものでないことは、すでに国際的に公知のものとなっていた。日本政府としては、国連が開発のターゲットにしているニューアースを、各国に分配する会議は揉めるのは必須と見ていた。


 であれば、独自に調査が可能な日本は、それを実施すればよいのだ。その件は、アメリカ、イギリスと合意して、それぞれに調査をしたが、アメリカは11光年離れたエリダヌスε星、この第4惑星として、イギリスは18光年離れたカシオペア座η星の第3惑星である。


 現状のところ、自前で調査が出来る国はこの3ヵ国であった。日本はそら型宙航艦3隻を使って1年をかけて新ヤマトを調べている。その結果が、面積150万㎢ある亜大陸を『蓬莱』の植民する地としての選定である。


 ホウライは、まず温帯に位置して四季があり気候的に日本に似ている。雨量が豊富でいたるところに川と湖があり、全土が緑に覆われている。形は、東西に細長い地形で、中央が地峡の形で細くなっている。中央部に山岳地帯があるが、全体に地形はなだらかで平野部が多い。


 資源は、鉄、マンガン、ニッケル、クロム、石炭、石油はすでに見つかっている。林業資源は勿論、可食性の果物も多く発見されており、水産資源も豊富である。当面の移住人口と位置づけられている、5千万人では広すぎる位である。


 政府は、ホウライの紹介ビオを多数作り、人々に移住を呼びかけた。これは、その地の情景を様々な角度から撮ったもので、大森林、大草原、ゆったりと流れる大河、中央山嶺の絶景と標高6千mの雪を頂いた最高峰の姿は素晴らしいものであった。


 さらに、ビデオはホウライにおける国土計画を示している。国土を東西に貫く延長1800㎞の高速鉄道に、その沿線に並ぶ首都と10個の中核都市を示されている。

 その中核都市の周辺には大規模な農園が配され、1戸20haを耕作する計画になっている。また、林業、魚業集落も計画されてこれらの経験者を募っている。産業的には、まず鉱業、水産加工、木材加工、石油化学などの業種が工場を建てる計画になっている。


 人々は、広大さとその自然の美しさに魅せられ、またフロンティアの響きに魅せられ、さらに豊かな生活基盤を築けるその可能性に納得した。その結果、申し込みが殺到し、たちまち200万人を上回った。


 しかし、まずは生活基盤作りである。これは多数の重機をもちこんで整地して、道路を作って街路を形成して街の形を作ると同時に、農地の整形をして灌漑水路を作る。また、水産業界からの要望が強いことから、漁業集落も最初から建設される。


 都市は、第1期計画は首都で20万人、その他5万人から始め、順次首都100万人、中核都市50万人まで増やしていく。都市のインフラは道路・公園などの他、電力・通信、上下水道が必要である。


 電力は10万㎾のNFRGを町の中央に設置して、配電網を最小としているが、電線は地下埋設にしている。日本では電線の地下埋設が話題になっているが、すでに空中架線になっているものを地下埋設にすると莫大な費用を要する。

 その点で、新たな都市は上水管、下水管は地下埋設であるので、一緒に埋設すれば、むしろ空中架線より安く施工できる。


 上水は、ホウライが人口の割に面積が広く、雨量も豊富で、かつ地下に砂層や砂利層が豊富のあることから、少なくも当初は井戸水によることになっている。下水は最初から計画に入っていて、家庭や事業所からの排水を集めて、膜活性汚泥法で処理して放流するが、その処理水は一見飲めるほどの清澄さになる。


 農業集落は基本的に5㎞四方毎、つまり概略農家250戸ごとに形成することになっている。つまり、農業者は毎日数㎞を通って自分の畑を耕作することになる。また、同規模の農地を企業が買収してその従業員の集落を建設する場合もある。


 漁業集落は、調査によってホウライ周辺に極めて魚影が濃いことが判っているので、水産業界からの期待が大きい。基本的には、力場エンジンで飛行もできる漁船を水産会社が準備して、サラリーマンの漁民を雇用して操業することになっている。

 従って、3ヵ所に最初は大規模な水産基地を設置した集落、後には漁業都市とする計画になっている。


 このような多種多様な要求に応える建設部隊は、ゼネコンが中心になって当初は3千人の部隊でまず建設部隊の基地を建設して、その後建設部隊の規模を大きくしていく。計画では最盛期には1万人以上の建設従業員が集まることになっている。

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