第42話 翔の青春2
翔は、今日はアン・マークレンとデートである。せっかく5人もの美人が同じ研究室にいるのだ。その立場を楽しむべきであると、焚きつけられたのだ。焚きつけたのは30歳代に見える石原真理恵という妙齢の美人であり、総務省のしかるべき立場にある人らしい。
翔は、石原に呼び出されて夕食を共にした。場所は、最近ではK市でも何軒か出来ている今までになかった高級レストランの個室である。緩やかなBGMの中で、赤ワインを飲む真理恵が翔に話しかける。
色の白い顔と赤いルージュ、足を組んだそのポーズは翔が見ても色っぽい。ちなみに、翔はまだ17歳であり、酒は禁じられている年齢なのでソフトドリンクだ。彼女が話しかける。
「カケル君のところに、イセカ帝国の第3皇子ミーベル・カザラ・ドラ・イセカ様がこられたでしょう?どうでした、イセカ人と会った印象は?」
「うん、最初は容貌の違い、特にあの目の当たりと髪のある位置のトサカなんかに違和感があったけど、少し話をすると感じなくなりましたよ。話していて感じたのですが、どうも基本的にはイセカ人の方が少し知能ベースは高いようですね。
もっとも、皇子と随員と言えばイセカ人でも最高レベルだろうけど。イセカ人が『処方』を受けるとどうなるか、そこの辺りの調査も必要かな。
それと、うーん皇子自身はなかなかの好奇心の強い人ですね。それに、ちゃんと国民のこと更に帝国の将来のことを考えているようです。話の内容からすれは、素質だけものではないですから、よほど皇室の人たちは鍛えられていますね」
「ええ、少なくとも今回のイセカの訪問団のレベルは、地球が送った調査団に劣りません。家柄だけの馬鹿は混じっていないようですし、平均的には地球人より上かもですね」
「それにしても、イセカの訪問団の半分ほどはさらに学ぶために、残っているとか。これは、現場で決めたようですし動きが早いですね。さらに、金が地球で値打ちが高いと知ると早速持ってきて、換金して様々な物を買って持って帰ったとか。そら型宙航艦を日本政府から、2隻買ったんでしょう、よく政府がO.Kしましたね?」
「ええ、どのみち、潜水艦改造のそら型は少々中途半端なのです。性能は十分なのですから、相手をだますことにはなりません。それに、乗組員の訓練がありますから、イセカ帝国と友好関係を築くには良いということです。
それにしても、彼らの買って帰ったものは総額で5億ドルです。まさに大人買いというやつですね。100トンの金を持ってきたようですから、50億ドルの金があると言っても中々のものです。それにしても、彼らが大使館の一つを日本のK市に持って来たのは、感心しました」
「ええ、僕も驚いたのですがミーベル皇子の提言だったようですね。また、すぐに留学生を送ってくるとか。彼らもすぐに『処方』を手に入れますね」
「え、処方を?政府もどうするか決めかねているのに」
「彼らが地球に入り込んでいて、国連がウェルカムである以上、止めるのは難しいでしょう。処方は、地球ではオープンにしましたからね」
「日本だけ処方をやって、後で世界に知れたら、大変な悪意に晒されることになります。それに、世界に開かれているK大学発の技術は隠せません。結局、他世界が地球に入って来た以上、地球人という感覚が必要です。今の世界での国益は考え直す時が来ているという議論が閣議でも出ています」
「ふーん、政府も変わりつつあるんだ。まあ、地球上における国単位の軍事的脅威というものはもはやなくなったよね。ロシアが事実上軍事小国になって、さらに中国が変わったのが大きいね。
それに、今の国連軍は完全に最先端の兵器を持って、地球全体をカバーできる実戦部隊だ。1線を超えたミャンマーの軍事政権、カザフスタンのタリバンを実際に排除したものね。並行して北朝鮮も崩壊したからね。でも、北の再建を隣の韓国は渋っているらしいですね」
段々言葉がざっくばらんになって来る翔であるが、気にせず真理恵は応じる。
「ええ、そう。相変わらず日本の責任だからやれと勝手なことを言っていますが、実際に余裕がないのは確かでしょう。裁判所の日本の資産没収を放置して以来、日本から技術的に干し揚げられました。
さらにアメリカの怒りも買って、世界の半導体の生産チェーンから外され、年々経済的地位は下がっています。いまや、徴用工の裁判をやった連中は外も歩けない状態です。
まあ、額が安くても前に韓国政府から補償金を取っていますので、皆2重取りですからね。しかし、引き金を自分達で引いたのですが、彼らの凋落の原因は日本のリアクションが原因であることは事実です。
ですから、日本憎しという世論は変わっていません。それもあって日本人も心底うんざりしていて、民間は付き合おうとはしていません。でも、向うは付き合って貰わないと困る訳です。最近の世界を変えつつある開発は全部日本発ですからね。
まあ、政府が仲を取り持つ形で、最低限のことはしていますけどね。まあ、地球が一つになっても隣国とのこうした関係というのは、日本と韓国だけでなく沢山あります。でも、そうしたことは横に置いといて………」
彼女は、翔に向きなおり、その目を覗き込んで、ワインを大きく飲んで口を開く。
「カケル君、研究室に送った5人の美人はどうなの。折角君の要望に応じて、貴方に合う美人を探して送ってやったのに、何もやっていないじゃないのよ?」
翔は『この人酔ったかな』と思いつつ、迫力にのけ反りながら応じる。
「な、なにもやってないって?ちゃんと教えているよ、主に斎藤さんと西川さんがね」
「そういうことじゃないの。彼女らは皆処女だから、自分じゃっ誘えないのよ。あなたは天才よ、歴史に残る中では最高の天才よ。だから、貴方の遺伝子は残しておいて貰わないと世界が困るのよ。あなたは、女の子が好きでしょう?
研究室の子には何もしていないけどに、城北高校に通う吉野美紀ちゃん、無理やり唇を奪ったでしょう?」
「な、なんでそれを?」
「ふふ、知っているのよ。あなたがスケベなことは知っているよ。そして、相手は待っているのよ。あなたはもう17歳、年としては十分よ。そして経済力も十分以上」
そう言った彼女は、立ち上がり机を回ってきて、横の椅子に座り、呆然と見ている翔を抱き寄せ唇を合わせる。最初は柔らかいその感触だけだったが、ちょろちょろ動くものが翔の唇をこじ開けて口の中を柔らかく動く。
翔は呻き、思わず相手を抱き返して夢中で自分の舌を相手にからめる。それからは夢中だった、抱き合って舌を絡め合う中に痛いほどの自分のものを触る指、やがて彼女は顔を放して言う。
「仕方がないわね。私が教えてあげるわ。今晩いい?」
その夜、翔は市内一の高級ホテルでめくるめく夜を過ごし、様々なことを教わった。知らなきゃ我慢ができるが、知ってしまうと我慢するのは難しい。5人の内、最初がアン・マークレンになったのは、その日、カリウム肥料生成プラントを視察した時の事である。
化学工学専門の彼女が、真剣にプラントの機器について翔に聞いている表情が可愛くなって、思わず翌日の休日にデートを申し込んだ。最初驚いた彼女は、にっこり笑って答えた。茶色の顔に茶色の髪と白い歯が鮮やかだ。
「喜んで。永遠に誘ってくれないかと思ったわ」
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ちなみに、石原真理恵は総務省の上司の木川統括官の部屋で報告している。
「どうかね、カケル君は?」
「ええ、可愛いわね。それに、若いだけに元気よ」
「可愛い?元気?」
「ええ……」
「ええ!さては、石原君!」
「まあ、あのままだと埒が明かないようだったし、本音を知りたかったのもあったし。なかなかいい夜を過ごせたわ。なにせ私は、彼のそっちの方まで担当させられていますからね。業務の一環よ」
「うーん。まあそうだな。君がいいなら私はいいが。で、翔君のその本音のところはどうなんだ?」
「結局、やっちゃうと結婚しなくちゃならないと思っていたのよ」
「うーん。まあ、普通の子だったらそうかもな。普通に考えたら最優良のターゲットだけど、妙な相手は我々も困るしね。その点では、研究室に送り込んだ5人だったら問題はないが、彼女らは結婚は無しと納得しているのだよね?」
「ええ、彼らは。自分を遥かに超える頭脳と過ごす怖さを理解する頭がありますからね。ただ妊娠したら変わる可能性なしとは言えませんが。その場合はちゃんと圧力をかけられますから大丈夫でしょう」
「うん、我々の理想は、結婚はするにしても少なくとも10人位は子供を作ってからにしてほしいというものだ。アメリカ人、イギリス、フランス人の子は子供を連れて帰ってくれてもいいというのはそれぞれの政府と合意している……。ところで、君が致したということだが、君の可能性はないのかね?」
「うーん。あるかもです。月のころは丁度いいところだったんです。出来たら嬉しいな。天才の子供、きっと、賢くて可愛いわ。まあ、それはそれで、翔君にはゴムは要らないと言っています。私の場合を含めてね。ただ、高校生の同級生の場合はしなさいってね」
「ふむ、まあ我々の役割からすれば、君はよくやったというべきだが、あくまで君が自主的にやったことだからね。その点は誤解のないように」
そう言いながら『石原は40歳か、まだ妊娠はできるな。彼女も優秀ではあるから、子供が出来れば好都合ではある。養育費は年間500万か、育てるには問題ないだろう。制度上は未婚の母を差別は出来ないから、職も問題はないな』そのように考える木川統括官であった。
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その日現れた、アンは身長162㎝ですらりとした茶色の8頭身だ。くるりとした目と小さくプクリとした唇、茶色の肌の明るい表情が魅力的な少女であり、翔より1歳上である。派手な色のキャロットスカートとブラウスだが彼女に似合っている。
翔は、濃紺のシャツとスラックスにスニーカーである。彼の伸びのほぼ止まった身長は178㎝であり、すらりとしていながら体重は68㎏であるから、それなりに筋肉がついて締まっている。長くやって来た合気道のお陰である。
あらかじめ、彼女にデートの希望する行先の聞いたところ、『軌道上から地表を見たい』という要望である。翔なら可能かもと思っての希望であるが、実際に可能であった。正式にはK大技術研究所のものであるが、翔が半分権利を持っている飛翔機がある。
これは、K市飛行場の隅に置いてあって、操縦には自衛隊のK型飛翔機のパイロットを借りることができる。このパイロットの貸し出しは有料であって、時間10万円である。実のところK市飛行場は、それほど飛翔機の発着は多くなく、それなりに自由にプライベート飛翔機の運用は可能である。
大学の車寄せで待ち合わせた翔とアンは護衛付きの車で空港に行く。アンも、翔に常に護衛が付いているのは承知していて、同行することもあるので気にしない。
「綺麗だね、アン」
横に座ったアンの手をとって、細い指先をなでる。これは、『褒めなさい、スキンシップを取りなさい』という石原の教えに従っているところだ。
「有難う、カケルも素敵よ」
取られた手をそのまま預けてアンも応じる。
「でも楽しみだわ。まだ軌道から地表を見るというのは中々難しいのよ。これはステイツにF型飛翔機は少なくて、2時間の地球1周ツアーがあるけど、まだ2万ドルするから、ちょっとね」
彼女は高校3年の年齢で、飛び級して大学3年で学んでいる天才であるが、父親は高校教師で母親は美容師だからそれほど裕福ではない。勿論、K大学に来て学んでいるのは国が費用を出していて、給料まで貰っている。
でもそれも、彼女の翔の研究室への配備のお陰で、リンとカリウムの原子変換による肥料製造の技術の即時のアメリカへの導入ができた。アメリカは世界最大の肥料消費国であるので、十分国として彼女への投資はペイしている。
無論彼女も、強制ではないが国からは翔との関係を進めるようにという要請は受けていた。理系の彼女にとって、母国が翔の遺伝子を欲することには納得できる思いがあった。それを受けるのが自分と云う点については、前向きの気持ちだった。
だって史上最高の天才との子供を持てるのだ。そしてそれに対する十分な養育費など褒章も魅力だった。とは言え、選択の自由は与えられたので、実際のところは本人に会っての印象次第だと思っていた。
実際に会ってみると、翔には十分な魅力があった。桁が違う知性持ちながら合わせてくれる思いやりにあこがれと好意はあった。しかし、けた違いの知性の持ち主と一緒に住んで合わせられる自信はない。でも、子供を持つのは有りだと思う。
だから、関係を詰めようとはしてきた。だが、勉強主体に過ごしてきてその面ではうとい彼女に、5人でけん制し合う状況は聊か重かった。そこに翔からの誘いがあったのだから、喜んで乗るのは当然である。
そこで、どうせならと軌道へのツアーをお願いしてみたのだ。だから、それが実現して実際に嬉しい。そうした嬉しさと、甘えもあって彼女は隣り合っている翔にしな垂れかかった。
甘えすぎかと相手の表情を伺ったが、喜んでいるようだ。それに安心して、彼女も彼の手に自分の手を重ねる。護衛として前部助手席にいる白井は、いままでそのような様子を見せなかった翔とアンの甘い態度に少々戸惑った。
しかし、同僚から政府からのお偉いさんの女性と翔が、レストランからホテルに行ったという話は聞いていたので、なるほどと思った。27歳の彼は『俺も翔の年齢ではやりたい盛りだったからなあ。あいつの立場だったら我慢したほうか』そう思ったのだ。そして、今後はこのような場面が増えるだろうなと予感した。
飛翔機では折角の軌道上の飛行であったが、後部のシートはパイロット席から見えないことをいいことに、まだ不慣れな2人は、地上の風景は横目にいちゃつくのが忙しかった。1時間半の飛行の後、彼らは2人で先日のホテルに乗りつけて、夕刻までの時間を過ごした。
石原は、ホテルと交渉して、翔がいつでも同伴で使えるようにしていたのだ。そして、白井達護衛隊のメンバーは、同様なことが今後もあるだろうことを告げられ、白井は自分の考えが正しかったことを知った。
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