第28話 国連軍創設、力場エンジン機の利用の広がり

 2027年4月1日、新生国際連合が設立された。

 総裁はイギリスの元首相、ジョン・マッカーシー氏である。今般トップの名称を総裁と変更して、途上国から選ばれる慣習は適性を見てということにしている。


 なにしろ、強力な国連軍を率いるトップであるから、万が一にでも金で転ぶような人材は困るのである。最重要な国連軍の司令官は、アベル・バドウェル、米軍中将、元米宇宙軍司令官である。


 兵員は、当初は4800人、機材は『そら型』宙航艦2艦、宙航機は30機である。今後、宙航艦は日本から1艦、アメリカから2艦、さらに加えて日本からは宙航機は残り20機が供給されることになっている。


 これは、アメリカからの供給は、2隻の退役潜水艦の船体を使ったもので製造に慣れるためである。ちなみに、日本から遅れて供給される1艦は、最初から宙航艦として製造された艦体を使っており、名付けてギャラクシー1型1番艦である。


 ギャラクシーは、概ね『そら』型とほぼ同じ大きさであるが、宙航機『流星』改め『コメット』を6機搭載できる。この艦は今後国連軍の主力艦になることになっており、今後予算を取って4艦体制になる予定である。


 ただ、国連軍は暫定体制であるが、2年後の第1期の配備では兵力1万人の体制を取ることにしている。その兵力を移動する手段が必要であり、そのために今度は有償で日本が軍用輸送艦を3艦供給することになっている。


 この輸送艦は、スワンと名付けられた全長が200m、最大幅が50m、最大高さ18mの3階構造のものであり。これには、2500人の兵とその装備、及び戦車代わりのビートルが10機積める。これを国連軍は30機調達したので、全兵力をビートルに収容できる。


 ビートルは、無論力場エンジン機であり、キャタピラや車輪はない。レールガンがコメット1号と同じ口径が25㎜であるが、初速が7.5㎞/秒であるため、より強力である。装甲は25㎜であるが、力場スクリーンがついているので、戦車砲レベルの弾は受け止めることが出来る。


 レールガンの弾は命中した戦車の装甲で砕けるので、多分50㎝ほどの大破孔を開けるだろう。ビートルの運動能力は、コメットに比べ大幅に落ちる。気密性を考慮していないので高度数千mまでの飛行しか考えておらず、潜水能力もない。だが、既存の戦車などよりずっと使い勝手がよく戦力も高いが、値段は同じ程度である。


 ところで、力場エンジンは防衛省関係者に最初に披露されたこともあり、当初は軍用としての利用が考えられた。それは、普通の乗用車に使うに少々サイズが大きい。だが、軍用として最初は航空機のジェット機関の代替、さらに戦車の代替、潜水艦さらに船舶に至るまで、力場エンジンを使用すること方が有利となった。


 ちなみに、力場エンジン駆動の場合はF型を付けて呼ばれるようになっている。そして、千トンクラス以上の船舶などは、原則としてNFRGを設置して電源としており、それ以下はA型バッテリーを電源としている。


 まず陸においての兵器は、戦車がまず頭に浮かぶが、宙航機『流星』で十分以上にその役割を果たせるということになった。しかし、それほどの運動性能は不要であり、気密性はむしろ邪魔になると判断された。


 そのため、気密性や計装類の簡易化によってコストを大幅に下げ、少々主砲たるレールガンの威力を高めたF型25式戦機となった。これは陸上自衛隊の戦車の後継機になり、国連軍に引き渡す時にビートルとなった。


 陸軍の華の一つは野戦砲であるが、レールガンの弾は放物線を描くものの、極めて高速度のために重力による落下が小さい。従って、目視できるものは精度よく撃てるが丘を越えて見えない目標を打つなどの事はできない。


 しかし、10式戦車並みのコストである25式戦機があれば、空中も含めて好きに射撃位置を選択できるので野戦砲など要らないということになった。また、小口径レールガンを車両に積んで高射砲にするなどの案も出たが、それも人口頭脳による精密な制御が可能な25式戦機で十分であることになった。


 また、国土のミサイル防衛のために、レールガンを使った陸上イージスの案が出たが、亜宇宙に定点の防衛ステーションを設置する方が確実ということになって、現在『さきもり』と名付けられたそれが建造中である。


 また、自衛隊の潜水艦は、すべてエンジンとバッテリーに燃料タンクを力場エンジンとNFRGに積み替え、F型として大口径レールガン2基と小口径6基、空対地ミサイル8発を装備することになった。


 そして、亜宇宙に昇れば1時間で地球を1周できるその運動能力からして、日本防衛のために何隻体制が適切か検討中である。だが、当面8艦が改装されて2艦が国連軍に、4艦がアメリカ軍に供出され2艦が自衛隊に残された。


 海上艦であるが、これも順次改装して、エンジンと燃料タンクを力場エンジンとNFRGに積み替えこれも暫定的にF型とすることになった。しかし、船体の形状による制約から空中における最大速度を200㎞/時としている。また、海上においてはどの艦も35ノット以上を達成している。


 自衛隊へのF型の浸透は、民間にもすぐに伝わった。まず考えられたのは、スピード時代に乗って現在全盛の飛行機への利用である。それは、ジェット旅客機の開発に結局失敗した四菱重工がすぐさま名乗りを挙げた。


 彼等は、開発に失敗して残っていた旅客機の機体から翼を外し、力場エンジンとA型バッテリー電源ユニットを積んで、マスコミを呼んですぐさま試験飛行を行った。 そして、それで話題を攫っている内に、新規の気密構造の鋼製機体を設計していた。


 全長80m幅40m高さ8mで2階建てのその機体は、滑らかな曲線を描いた円盤型の機体である。内部には、600席の座席、中央にラウンジのある広々した空間を持っており、高度200㎞の高高度を飛んで、ヨーロッパ、アメリカ東岸に1時間で到達する。


 鳳(おおとり)と名付けられたF型旅客機の特徴は、垂直離着陸ができることであり、長さ200m×100m四方のスペースで離着陸の運用ができる。その幅は大型ジェット機の翼の幅より狭いため、無論既存の飛行場でも運用可能である。


 その後、四菱重工は400席、200席、100席の小型化した機体を計画して、近距離用も含めて8種類の機体をシリーズとして準備した。これらは鋼製の機体であることもあって、機体の値段は概ね既存の機の半分以下である。


 さらに、A型のバッテリー交換費用は、莫大なジェット燃料費に比べ実に1/10に収まっている。大気圏内を飛ぶ近距離の場合の速度は、ジェット機とそれほど差はないが、高高度に上昇する長距離では大きな差になる。


 そして、環境上では大きな差がある。これはジェットの場合の燃料の燃焼による大気汚染であり、二酸化炭素の発生であり、激しい騒音である。これらが、F型機では全くないのだ。その運用を実感した飛行場管理者、飛行場周辺の自治体は国に陳情して、出来るだけ早急に全ての飛行機をF型にするように法を策定するように求めた。


 さらに四菱重工は、船舶に代わるものとして貨物機を提案し設計した。最大のものは、全長が200m、最大幅が50m、最大高さ18mの3階構造であり、貨物室の最大容量5万㎡で最大10万トンの重量を運べる。


 これは、天馬(てんま)と名付けられ、5種類の大きさのものがシリーズとして準備された。この天馬の最大型の、内装を変えたものが国連軍に納められた、これがスワンである。


 また、このシリーズは気密性を持たせた1型と、そうでない2型に別れており、気密性を持たせた機は高高度を飛ぶことを想定している。さらに1型は、その標準タイプは操縦システムが対応していなものの、その気になれば月にだって行ける。


 これらは、大気圏内では速度500㎞/時、高高度を飛行すれば鳳の半分の速度で飛ぶ。またこれらの船体は全て鋼製溶接構造であり、この程度の機体は造船所では船舶建造でお手のもので、極めて安価である。もっとも気密性を持たせている場合は5割ほど割高になる、


 まず、これらの非気密性のF型輸送機は、貨物船に対して同積載量で5割増し程度の価格である。燃料は使わずA型バッテリー内のセルの交換経費が掛かるが、コストとしては半分程度である。


 船の費用として大きいのは、船体の償却費と乗組員の人件費である。F型の場合には、速度が船の10倍以上であり、運航ルートは海に限らないので、1回の運搬毎のコストは1/3~1/10になる。


 さらに有利な点は、スペースさえあれば好きなところに着陸できる点である。現状では街中を飛んで着陸する場合の規制については、各国で検討中であるが、広大で人口希薄なシベリア共和国などは、無制限でF型機の着陸を許している。この場合、港や空港からの荷物の運搬が不要になるのだ。


 これらは、F型旅客機、F型貨物機と呼ばれ、爆発的に売れたので、日本国内では需要に対応できなくなった。このため、貿易摩擦軽減を考えた政府の介入もあって、四菱重工は世界各国の航空機メーカーに生産ノウハウを開示した。


 しかし、かつて旅客機開発に失敗した四菱重工は、F型シリーズをもって世界最大の旅客機・貨物機のメーカーに成り上がったことになる。

 そして、F型旅客機の実用により従来のジェット機からF型に代わり、安く、より早く移動できるようになった。さらに、空港という広大な、騒音発生源としての迷惑施設の騒音の発生が無くなり、半分以下の面積で済むようになった。


 従来は、長距離の貨物の輸送は、すでに飛行機による高速化を実現していた旅客輸送に比べ、コストの面から船舶輸送によっていた。それが、船舶より大幅に低いコストで、遥かに速い輸送ができ、到着場所を自由に選択できるF型輸送機は様々な概念を変えた。


 この最たるものは、不便な場所という概念が変わったことである。従来は例えばシベリアは不便な場所だった。仮に資源があっても、輸送路を作って鉄道駅まで輸送し、次に鉄道に載せ、更に船に乗せて日本に着け、その上に国内輸送が必要である。


 余程価値が高くないと引き合わない。しかし、F型輸送機は、直接採取地から工場まで非常に早く安く運べる。このことは大陸の中央部などで、海から遠く輸送に不便な場所の産物の価値が上がり、結果として土地の価値まで上がることになる。

 今後、鉱業や農業、林業などについて今まで不適と言われていた場所が変わって適地になって来るだろう。


 ところで、国連軍の本部は、シベリア共和国の首都ハバロフスク郊外に作られることに決まり、現在幹部が乗り込んで準備中である。ロシア軍の師団駐屯地のあった場所であり、当面は1万人以上の兵士が住むのに一通り必要なものは揃っている。


 このような辺境に本部が作られるのは、一つには部隊の移動が力場エンジン機によって行われるために、世界のどこに基地を作っても良いということがある。もう一つは、シベリア共和国独立を認めた各国の思惑である。


 ロシアがシベリア、つまり彼らの言う極東地区を取り返そうとするのは明らかである。それに対して、人口が650万の新生共和国が1億5千万のロシアから自国を守るのは困難である。そのため、現在アメリカとEUの部隊が駐留している。


 しかし、F型機とレールガンで武装した国連軍の部隊が、そこにいれば守りとしては十分である。これで、アメリカとEUの部隊は引き上げることが出来るという訳である。更に、国連軍の本部がその国に出来るということは、国連がその新しい国にお墨付きを与えたということで、共和国側は大歓迎で全面協力をしている。


 ちなみに、各国がシベリア共和国に約束した開発はすでに始まっている。基本的には先ずはアメリカの調べた資源マップによって、10か所の鉄、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、金・銀の鉱山がノミネートされて、現在採掘場が作られている。これらは、精錬までして輸出する予定であり、精錬場も準備されているところだ。


 加えて農業生産の強化として、ハバロフスクの南西部の大平原1000㎢を伐開して農園を整備している。ここでは、寒さに強い小麦を栽培する予定で、灌漑設備を整えると共に農業基地を建設している。


 加えて、ハバロフスク、ウラジオストックには、日本から100万㎾のNFRGが設置された。だから、国連軍基地には電力に不足はない。

 NFRGの建設は、現在では極めて早くなっているが、これは工場でパッケージ化された大パーツを組み立てることで実現された。


 半年で100万㎾の設備が建設可能であるが、これはF型超大型吊貨機が開発されたことが大きな理由である。この吊貨機は、W 10mxH10mxL20mの大きさで重量無制限に吊って好きなところまで移動できる。


 だから、10万㎾のNFRGは工場で組んで一体で据え付け可能であり、100万㎾機にしても5分割で移送して据え付けができる。100万㎾機でも工場で設備が出来れば、組み立て調整は3ヶ月で十分である。その代わりに製造工場の規模は巨大になっている。


 ちなみに、当初シベリアには日本規格の新幹線を整備する予定であったが、現在ではF形貨物機を前提とした輸送体系を前提とした計画になっている。

 国連軍には、政府が立法措置をして自衛自軍の派遣を可能としたので、隊員を派遣している。ハバロフソク国連軍本部基地(UN-Power Force Head Base)に着いた、第3機動軍千人の部隊を率いるのは屋島誠司陸将補である。


 彼らは、日本の朝霞駐屯地から『そら2号』と『そら3号』に500人ずつ乗ってきた。『そら』型宙航艦は、1時間たらずの飛行であるので、床にクッション材を敷いて座ることで500人程度は問題なく運べる。


 屋島は陸上自衛隊所属であるが、部隊は陸上が7百人、航空が100人、海上が200人加わっている。航空と海上の人員には尖閣事変で『そら』と『流星』を実際に操縦した者も加わっており、全員が宙航艦による作戦の研修を受けてきた人員である。


 ちなみに、国連軍に引き渡された『そら』と『流星』は、日本で操縦と取り扱いの訓練を受けたアメリカ軍の兵と将校が国連軍に移籍して操縦している。

 基地に、日本から自衛隊の部隊が着いた時には、すでに2千のアメリカとイギリスからの将兵が着任していた。シベリアの広大な基地の中には、そら型1艦とコメット15機が着陸しているのが上空から見えた。


 中背中肉だが引き締まった体の屋島陸将補に続き、1000人余の隊列が着陸した2隻の『そら』型から降りて整列した。彼らをアベル・バドウェル司令官、国連軍大将と50人ほどの幹部将校が拍手で迎えた。


 屋島はウェブ会議で面識のあるバドウェル大将の前まで、きびきび歩き敬礼して着任の報告をする。

「日本国自衛隊より屋島陸将補、国連軍少将以下1000人、着任しました」


「ご苦労。わが軍での諸氏の奮闘を期待する」

 長身、半白髪の司令官は答礼して応える。


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