第17話 常識をわきまえない人の言う言葉

『王子様を助けるヤクソウは?』

『魔王を倒して疲れたから、一度城に戻ったの。それでちょっと遊びたくなってカジノに手を出しちゃった』


『そっか。またヤクソウ取りに行くの?』

『うん、取って来たらまた100万ゴールドくれるって言うし』


またむしり取られるでしょ!

ケツの毛まで。

キララのケツに毛があるのか? ボーボーか? ボーボーなのか?


『でもどうやって魔王を倒したの? すげー強かったんじゃない?』


『魔王がなんか死のビームみたいのを出して来たから、それをカメの甲羅で跳ね返して、それが魔王を直撃して死んだ。カメのお陰だよ』


なんか死のビームみたいのって、あやふや感。死のビームって書かれた光線が照射されたのか? 

大昔の戦隊モノか? 異世界というより、戦隊モノの世界に行ってしまったのか?


あとその、なんか死のビームみたいの、を避けようとして、カメの甲羅を盾に使ったのだ。


キララはそばにあるモノをなんでも使う。

そばに悪いおじいさんがいたら、迷わず盾に使っただろう。悪いおじいさんだから仕方ない。


でも、ギリ良いおじいさんでも使っただろう。

もうおじいさんに、良いも悪いもないのだ。


それで助かろうとして、たまたまカメの甲羅を盾にしたら、なんか死のビームみたいの、を弾き飛ばしてくれた、


カメを犠牲にしようとした、とは書かない。角が立つから。

俺は角のない丸い世界で生きてるのだ。


『良かったじゃん。カメも役に立てて喜んでんじゃない?』

『カメ、甲羅が割れて泣いてる』


カメ泣いてんだ。あんなにいじめられてても泣かなかったのに。現世よりつらいのか、異世界、異世界さんよおっ!


『ユリナちゃんの魔法で直せないの?』

『なんか、しょせん下等で下劣な動物には、かけても効かないみたい』


しょせん下等で下劣な動物には。


エグいな、ユリナちゃんの差別感。


『そっか。でもこれでヤクソウ取りに行く時も、魔王がいなくなって取りやすいんじゃない?』


『政伸魔王と政宏魔王がいて、倒したのは政宏魔王だから』


高島兄弟が君臨しているのか、魔王として。

政宏お兄さんの趣味はどうかしてると思うが。


『そういえばキララの今のLvって、どのくらい?』

『Lv39かな。政宏をビームで倒してから、馬乗りになってボコボコにしたら、殴るごとに経験値が爆上がりした。


あ、政宏倒したら、アイテムもらえた。

私の体にピッタリのコスチュームで、武器ももらえて、防御力と攻撃力が格段に上がったんた。写真送るね』


写真がLINEに貼られた。


キララは黒革の体の線がモロに出るキャットスーツを着て、手にはムチを持ち、顔には仮面舞踏会みたいな赤くビラビラした、隠微なマスクをしていた。

あのマスクは防具なのか。


政宏からのアイテムだから、よもやと思ったが、よもやよもやだった。


『その姿で戦うの?』

『うん、なんだか自分が解放された感じ』


キララは扉を開いたのだ。禁断の扉を。


『あっ、ユリナちゃんが、チンコって伝えといてって』


チンコはユリナちゃんの地方ではとても美しく壮大で志の高い言葉だが、こちらでは違う。全然違う。

人に伝えといてという、言葉ではない。


『ねえ、チンコって伝えられたら、一般的にはなんて返すのか聞いてみて?』


少し間が空いて返事が来た。


『ウンコチンコって返すのが常識をわきまえた人の挨拶なんだって。


ウンコもユリナの地方では、母なる大地を渡る爽やかな風のような、人々の笑顔を誘う言葉で、ウンコチンコは挨拶の定番だそうだよ』


ウンコチンコが常識をわきまえた人の挨拶。

こちらでは常識をわきまえない人が言う言葉だ。


『じゃあ、ウンコチンコって、伝えといて』

ウンコチンコって伝えといてってなんだよ。


『うん、わかった。伝えとく。じゃあ、充電もったいないから電源落とすね。じゃあ、ユリナちゃんの真似して、ウンコチンコ』


真似しなくていいよ。


するとモニターからガシャンと音が響いた。


机に突っ伏して寝ていた猿橋も起きた。

どこだ、モニターの画面のどこで、あの音がしたのだ?


8分割されたモニターの1番下、トイレの前の辺りのパチスロ機のガラスが割られていた。

その男は手にレンガを持っていた。それで何度もパチスロ機を叩いていた。


その時、奥寺さんが掃除道具の入ったバケツを手に、トイレから出てきた。


奥寺さんはレンガを持ったスーツ姿の男と対峙した。


「やべえ!」

俺と猿橋は事務所を飛び出した。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る