第22話 死を賭したゲーム
「勝負って何すんだよ」
「これだけパチスロ台があるんだから、あっち向いてホイだよ」
「はぁ、文脈がおかしいだろ」
「俺らはパチスロ出来る歳じゃねえから、わかんねえんだよ、勝ち方が。でも、あっち向いてホイは出来る歳だから、それなら平等だろ」
「なんでだよ、そもそも勝負なんかしてやる義理ねえだろうが。そもそも義理とか嫌いなんだよ。義理人情とか義理チョコとかB'zの義理義理チョップとか
」
「最後の無理矢理だな」
「うるせえ。俺の好きな言葉は『不義理』なんだよ、不義理って言葉を想像するだけで、勃つぞ」
「お前は人としてどうかしてるな。でもお前はやるんだよ、俺とあっち向いてホイをな」
「なんでだよ」
「やらなかったらお前をぶっちめて、この金持って逃げるからだよ」
「ぶっちめてって、どう言う意味だよ?」
「ぶっ飛ばして、とっちめるってことだよ」
「とっちめるって言葉、使って恥ずかしくねえか? お前は日本昔話か? キツネどんが悪いタヌキをとっちめるのか?」
「うっせえな、サソリ。そこ突くんじゃねえよ。お前にはもう一択しかねえんだよ。俺とあっち向いてホイをやる、それだけだ」
俺とサソリは睨み合った。
キツネどんと悪いタヌキのように。
「わかった、やってやるよ」
そう言ってサソリはスーツの上着を脱いだ。
「別に上着は脱がなくて大丈夫だろ。あっち向いてホイ知ってるよな。そんなフィジカル使わねえぞ」
「バカ野郎、俺が上着を脱いだってことは、人が死ぬってことなんだよ」
「あっち向いてホイで死ぬのか?」
「死のあっち向いてホイだ」
サソリの舎弟がチャカを出した。
「負けた方が撃たれて死ぬ。それが嫌なら、そのまま金を渡せ」
「てか、俺を撃ってそのまま金を持ってけばいいんじゃね?」
「ここまで来たら、勝負しねえとな。お風呂に入った後にウンコしたみたいに、残念な気分になる」
「汚ねえ例えだな。わかった。やろうぜ、その死のあっち向いてホイを」
「ああ、うらみっこなしだぞ」
俺たちは命をかけたのだ。こんなのんきなゲームに。
「じゃあ最初はグー、ジャンケンポン」
俺がパーで勝った。
俺は「あっち向いて……ホイっ!」と俊速で右に指さした。
サソリは左を向いた。俺の動きを見抜いたのか、右を指すと決め打ちしてきたのか。
と、思いながら俺はサソリの目の動きを見ようとしたが、サソリはいつの間にか濃い色のサングラスをかけていた。いつかけたんだ、そんな暇あったか?
「サソリ汚ねえぞ、サングラスなんかかけて」
「別に反則じゃないだろ。あっち向いてホイのルールブックに、サングラスかけるの無し、ありえない、死ねばいいのにって書いてあるのか?」
「書いて……ない」
「なら構わないよな」
「必死だな。なんだか哀れな気がするな」
「なんとでも言え。必死になることは悪いことじゃねえ。必死をばかにするその風潮が俺は嫌いだ。
必死だぞ。必ず死ぬだぞ。死にたくなきゃ、ビッとしなきゃしょうがねえだろ」
「ビッとってどういう意味だよ」
「言葉のすべてに意味があると思うなよ。馬鹿やろ、コノヤロ」
「なんで怒られてるのかわかんねえよ、次行くぞ」
「おう」
「最初はグー、ジャンケンポン」
とても死を賭したとは思えない牧歌的な言葉を放つ。俺はチョキ、サソリはパーだ。
俺はありったけの力を右手に込めることないのに、
思いきり込めて、
「あっち向いてホイ」
俺は上を指した。
サソリも上を向いた。
勝った。勝ったのだ。この瞬間、俺は勝者であり、生きることを許される存在になったのだ。
でもその時だ。
サソリの舎弟は俺に銃口を向けた。
そして引き金を引いた……
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