第23話 前歯がある勇者

サソリの舎弟が引き金を引く瞬間、猿橋が腕に飛びついて、銃弾がそれて天井の灯りを撃ち抜いた。


2人がもみ合ううちに、もう一発銃声がした。

すると猿橋の動きが急に止まり、舎弟が猿橋の体を押しのけると、床に転がって血まみれの猿橋はもう動かなかった。


俺はまだ銃を手にしてる舎弟の顔面を蹴り上げ、腕を踏みつけて拳銃を手放させ、それを俺は拾い上げた。


「てめえ、俺のマブダチをよくもやってくれたな」

俺はサソリに銃を向けて言った。


「俺は何もしてねえだろ。あっち向いてホイをしただけだ。撃ったのはそいつだ」


「汚ねえ野郎だな。お前がやらしたんだろうが」

俺は舎弟の顔をまた蹴った。鼻の骨が折れた感触がした。


「おい、どうするよ。警察を呼べない賭場だって、わかってんだろ。さっさとそいつ連れてけよ。でも金は置いてけよ。こいつを弔う金だ」


「わかった。お前ら行くぞ」

サソリは舎弟たちに声をかけ、床に倒れてる舎弟のエリをつかんでズルズルと引きずって、賭場の床を掃除しながら出て行った。舎弟の尻から特別な液が出てるのか、床がツルツルになった。


俺は猿橋のそばに寄った。

もう呼吸もしてなかった。

「おい、猿橋さんよぉ、俺をかばおうとしたんだろ。ありがとうよ、こんな俺をさ」


<助けたわけじゃねえよ、体が急に動き出したんだ。だから気にすんな>


猿橋が俺の頭に直接語りかけてる。

もう意識もないはずなのに。


「わかった。ありがとうな、猿橋」


<俺、超能力が使えるから>

それはもういいよ。俺は泣きながら笑う人になった。


<俺、超能力が……>

いいよ、猿橋もう無理しないで。


<使え、、、る、、か、、ら、、>

言葉が途切れた。


「猿橋っ!」俺は叫んだ。


俺はイカレた奥寺さんに、

「猿橋の死体はどうなる?」

「恩田さんがどうにかすると思う。丁寧に弔うと思う。山に埋めて」


「それ丁寧じゃないよな。でも賭場で半グレに撃たれて死んだなんて聞いたら親も泣くだろうしな。じゃあ、この金は猿橋の親にこっそり渡してくれるか?」


「わかりました、そうします。うちのグループ会社『煮るなり焼くなり恩田やすなり商会』名義で送金させていただきます」


「パクったな社名。急あつらえだな」

「まあ新会社ですので」


その時、LINEが届く音がした。

スマホを見るとキララからだった。


『猿橋くんが来たよ。勇者の格好で』


えっ。

一緒に来た写真を見ると、猿橋が鎧を着て、手には剣と盾を持って写っている。


猿橋、勇者に転生したのか!


キララ、ちゃんと前歯がある勇者が来て良かったな。あ、猿橋の前歯は差し歯だけどな。












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