第24話 ビチビチさん
『猿橋くん、もうLv 50になっていて、すぐにでも政伸魔王の所に行ける仕上がりなの』
政伸魔王。そんなのいたな。政宏政伸地獄の兄弟。
『魔法使いと武器商人は見つかったの?』
『魔法使いは面接中。2人候補がいて、1人がバリバリ魔法が使えるけどお婆さんで動きが鈍いの。もう1人は20歳で動きは俊敏だけど、魔法の方がイマイチで』
『魔法がイマイチな魔法使いってよくわかんないな』
『彼女、マチルダっていうんだけど、本当は魔法使いじゃなく、象使いになりたかったんだって。でも、使いには変わりないでしょって、親に言われて魔法使いになったから、魔法を覚えることにあまり積極的じゃないの』
使いには変わりないって、乱暴な発想の親だな。
『リズムだったらどっちを選ぶ?』
『20歳の方』
『それ好みで選んでない?』
『だってお婆さんって大変じゃない。いたわらなきゃいけないし、席だってゆずらなきゃいけないし、背中が痛くならない低反発マットレスも必要だし、硬いモノは食べづらいから、家族と別メニューにしなきゃいけないし』
『それ一般のお婆さんでしょ。魔法使いのお婆さんは違うの。低反発マットレスとか要らないの。料理だって大きな鍋で紫色の液体を煮込んでるし。時々、手首とか浮き沈みしてるけど』
『魔法使いというか魔女だね』
『言い方。魔法使いも魔女も一緒』
『でもキララはどっちにしようと思ってるの?』
『私はエリザベート•ビチビチビッチオブビッチさんにしようと思ってるの』
『それ本当に人の名前? ビチビチとか、ビッチオブビッチって、なんだよ?』
『彼女の地方ではビチが崇高で、ビッチが徳の高い、人を導く力のある人という意味があるそうよ。そのビチビチのビッチオブビッチだから、ものすごいビッチなんじゃないかな』
ビチビチのビッチオブビッチ。
もうわけがわからない。
『じゃあそのビチビチさんに決めるんだね?』
『でもリズムとLINEしてるうちに、ビチビチさんよりもマチルダの方が良いような気がしてきた。決して名前のせいじゃないよ、決して』
絶対、名前のせいだ。
『じゃあ早めにマチルダにしとけば。あまり引っ張るとビチビチさん、ビチビチ文句言い出すと思うし』
『ビチビチさんはビチビチ言うような人じゃないよ』
ビチビチうるさいな。
『そっか。じゃあ決まったらまた連絡して。あと猿橋によろしくね』
『それが猿橋くん、前世の記憶がないの。だからリズムのことも覚えてないって』
『マジで?』
『前世で死んで異世界に転生する時に、魔法使いの偉い人に前世の記憶を選ぶか、前歯を抜くか選べと言われて、前歯を選んだんだって』
なに、その選択。
つか、前世での俺との記憶選べよ。前歯も差し歯なんだしよ。でもそうすると前歯のない勇者になってしまうのか。前歯のない勇者はどうもな。
『そうか。まあ仕方ない。Lv 50もある勇者になったんだし。じゃあ、もし政伸魔王制圧に行く前にLINEして』
『うん、わかった』
キララとのやり取りが終わった。
猿橋、やっぱ前歯、選ぶなよ。
差し歯だし。
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