どうして異世界に消えたキミからLINEが届くわけ？

第21話 それじゃねえよ

「あのさ、ボコられた銘菓さんが何の用だ？」

俺はサソリの入れ墨を首に入れた、スキンヘッドの男に言った。

俺と猿橋は臨戦態勢だ。

スキンヘッドは俺たちを見て、薄ら笑いを浮かべ、

「お前らとやり合うつもりはねーよ。うちらの兵隊全部やられたしな。俺らはこの賭場に、今月分の取り分をもらいに来たんだよ」

俺はイカレた奥寺さんに、

「こいつらにはいくら渡してたの？」

「売上の30%。先月は約3000万だったから、900万円になりますね」

「そんなに渡すの？」

「そういう契約でしたので」

「じゃあさ、じゃあさ、俺たちもそれくらいもらえるの？」

「リズさんとお猿さんは時給1250円です。今日はまだ出来てないんですが、明日からタイムカード打ってもらいますので」

「それおかしくね？　あの銘菓、月のしずくは900万で俺たち時給1250円って？」　

「賭場といっても、最近は会員も減って、収入減なんですよ。だから、月のしずくの人たちはていよくリストラして、非正規雇用でリズさんとお猿さんが入るって感じです」

「なんか納得出来ないな。もらう金額が違い過ぎる」

「でもうちのような零細企業は、銀行の融資も受けられないし、大変なんですよ」

「だって、反社会勢力ですよね。賭場なんか開いてるし。そんな反社が銀行融資受けられる訳ないじゃないですか。タイムカード導入って、なに零細企業ぶってるんですか、反社が」

「私は、刑務所にある卓球台くらい、タイムカードはあってしかるべきモノだと思いますよ」

「俺らは囚人ですか？　刑務所の卓球台の順番待ちしてる人ですか？　順番はいつ回って来るんですか？　もう昨日から待ってるんですよ！」

「もういいよ、早く金出せや」　

サソリの入れ墨野郎がしびれを切らした。

「一応、恩田さんに連絡しないと」

「恩田に言ったら、出さないとか、経費を引いて出すとか、中に出すとか外に出すとか、出す出すうるせえんだよ」

俺は半笑いで、

「だすだすって、方言か。そうだす、私がサソリだす」

「だからスコーピオンだ」

「なんでお前らが900万で、俺らが時給1250円なんだよ。まだタイムカードも出来てないしよ。雑な扱いだな、名前書くだけだろ、あれ」

「知らねえよ。俺たちは正規の社員で、お前らは非正規なんだよ。だから退職金をもらって、後は非正規社員に引き継いでもらうんだよ。

俺は会社の歯車だったからな、汗水たらして、くる日もくる日も働きづめに働いてるのに、なぜこんなに貧しいのかじっと手を見つめて、泥水をすすり、辛酸をなめまわし、

それでも会社にこの身を尽くして、やっともらえる退職金なんだよ。こんな感動的な物語に水を差すな、ボケ」

「じっと手を見るほど貧しい奴がベンツなんか乗ってるか、コラ。それは戦後ニッポンのサラリーマン像じゃねえか。首にサソリ彫ってる戦後サラリーマンなんていねえぞ。サンタさんくらいいねえぞ」

「サンタがいねえとか、あんなのお父さんがやってるとか2度と言うな。子供の夢を壊してお前は楽しいのか、お前はいつ童心というものを失ったんだ？

初体験か？　射精と一緒に童心まで中に出しちまったのか？　童心まで出す奴がいるか？　お前は人間のクズだ。心から軽蔑する。サンタクロースはいる。トナカイのソリでやって来る」

「なんか俺がすげえ悪者になってんだけど」

<俺もサンタはいると思う>

猿橋、また俺の頭に直接話しかけんなよ！

「わかった、俺が悪かったよ。サンタクロースはいる。この世のどこかに」

「中に出した童心を取り戻せよ」

「ああ……ああじゃねえわ、全然ねえわ、今までの会話、1行も必要な文字ないわ。無駄だわ。飢えた子供がたくさんいるのに、こんなに無駄を出して、一日に何トンも無駄を出して、それで先進国気取ってんなよ、おいっ！」

「何を怒られてるのか皆目わからんが、まあ俺たちは退職金をもらえればいいだけだ。泥水をすすり、辛酸をなめまわしたんだから」

奥寺さんが事務所から、紙袋を持ってやって来た。銘菓、ひよこの紙袋だ。もう銘菓ばっかりだ。

「これに900万入ってます」

「おお、悪いな」

スキンヘッドがその紙袋を受け取ろうとした時、俺はそれを奪い取った。

「この金はこのままじゃ渡せねえ。俺らと勝負して勝ったら持ってけや」

俺は猿橋にウィンクして合図した。

猿橋は両目をパチパチさせて、ウィンクをしようとしたが、出来ない。片目をつぶることが出来ない。

猿橋、こう言う時に俺の頭に直接話しかけろよ。

<俺、超能力が使えるから……>

それじゃねえよ。