第20話 西日本は異世界

猿橋はまたテーブルに突っ伏して寝ていた。足で蹴って起こす。


「なんだよ、痛えな」

「寝てんなよ、一応業務中だし。あと俺は電力を憎むようになったんだよ、お前が寝てる間に」


「電力? それが憎む対象になるって、変わってるな」


俺はなぜ電力を憎むようになったのか、詳しく話した。


「そんなことがあったのか。俺が筆おろしをする夢を見てる間に」

「お前そんな夢見てたのか?」

「いいだろ。筆おろしは何度しても緊張する。この筆の動かし方が思ったようにいかなくて、寝汗をかいた」

「お前の筆の動かし方は今は聞きたくないな」

「今じゃなければ、聞きたいんだな、俺の筆の動きを。その動かし方を」


「だからそうじゃなくてさ、俺の電力を憎んでることを本題にしてくれよ」

「お前は関西の電力を憎んでるって言ったな」

「そうだよ」


「その電力の恨み方は限定的だ。敵はもっと広範囲だ。九州沖縄まで含んだ西日本の電力がお前の恨むべき相手だ」


「関西だけじゃないんだ」

「そうだよ、お前と西日本の電力の戦いなんだよ」

「異世界の電力が西日本と同じっておかしくね?

異世界って西日本なのか?」

「西日本は異世界だ。俺は中学の修学旅行で行った時に思った」


「どんなとこが?」

「シカがせんべいを食う」

「それがなんだよ?」

「シカがせんべいを食うとこなんて、関東で見たことあるか? ないだろ。あいつらせんべい持ってると、つるんで襲ってくるんだぜ。暴徒だよ、あいつら」


「それが異世界の理由か?」

「60ヘルツってとこも引っかかる。もしかしてその異世界は西日本のなれの果てかもしれないぞ」

「なれの果てって、言い方ひどいな」

「なら、末路だ。この日本に将来何かが起きて、何百年後に西日本が異世界のようになったとしたって、おかしくはないだろ。おかしくないなら笑うなよ、てめえ」

「笑ってねえだろ。情緒おかしいな。じゃあ、キララがいるのはもしかしたら、何百年後の荒廃した西日本かもしれないってことか?」


「今度、聞いてみな。西日本特有の何かがその世界にあるかもしれないから」

「なんだよ、西日本特有の何かって」

「いろいろあるんじゃないか。大阪のおばちゃんとか、福岡のおばちゃんとか」


「おばちゃんだけだな。福岡のは親戚の叔母さん的なニュアンスだし。それにおばちゃんの遺伝子がそんなに長い間、残ってるとは思えない」


「お前、何かおばちゃん的な下品なこと言われなかったか?」

「おばちゃん的ではないけど、キララのいる異世界のユリナちゃんって魔法使いの地方では、チンコがとても崇高な意味で、名前とかにもつけるらしい。


それと、ウンコチンコっていうのが、常識ある人の挨拶らしい」


「異世界の人間は脳が小学生なのか?」

「わかんね。まあ日本だって、沖縄には漫湖ってあるし」

「ちょっと待てよ、それは言っちゃいけないやつだろ」

「だって湖の名前だぜ。地元の人も言ってるはずだよ、漫湖、漫湖って」

「連呼すんなよ。だから、ガキは嫌なんだよ、鬼の首取ったような下品なツラで、漫湖、漫湖って。漫湖づくしか、漫湖三昧か、漫湖の踊り食いか」


「だから、どの地方にもあるんだよ。そういうのって」

「そういうので、まとめんなよ」

「まあ話を戻せば、キララの居る異世界に西日本っぽいモノがあるか訊けばいいんだな」

「そうそう。そうすれば、その異世界のことが少しはわかるかもしれない」


その時、イカレた奥寺さんの悲鳴がモニターから聞こえてきた。見ると、この前ボコった銘菓、月のしずくのメンバーが悪そうな顔で入って来た。


そして扉のガラスを布で拭いていた、イカレた奥寺さんにつかみかかる勢いで何か叫んでる。


「行くぞ」

「おお」

俺たちは事務所の扉を蹴って、銘菓の奴らのとこに向かった。

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