第19話 電力

モニターの右下の端に写ってる、

『危険 障るな』の文字が目障りだ。神経に障る。

あの文字の呪いが今頃効いてきた感じだ。


そんな時、LINEが届いた。

キララからだった。


『政伸魔王、TUEEEEEE! 兄貴よりつええって、どういうこと? 今ボロボロになって城に逃げ帰ったとこ』


『いや兄弟じゃないんじゃない? 異世界では』

『どんな世界に行っても政宏と政伸は兄弟なの。地獄の果てまで兄弟なの』


ひどいこと言ってるな。


『どのくらい強いの?』

『死のビームがハンパない』


なんか死のビームみたいなの、の、なんかとみたいなのが消えた。あやふやさを消すくらいすごいのだろう。


『またカメで避けようとしたら、カメ真っ二つになって死んだ』


カメが死んだ。

ちょっとショックだ。俺を助けようとして死んで、異世界に行ったのにまた死んで。死ぬのが仕事みたいで、悲しい。


『でも、ユリナちゃんが持ってた珍しい葉っぱを食べさせたら生き返った』


カメ生き返ったんだ。カメ無職になったな。死ぬのが仕事だったから。


『もうドラゴンも翼が折れちゃったし、翼の折れたエンジェルだし、みんな飛べないエンジェルだし』


『ドラゴンってさ、飛べなかったら歩くの?』

『走るの速いよ、私らより速く逃げたから』

ドラゴン逃げ足速いのか。


『まあユリナちゃんが即効性のない魔法をかけてくれたから、じきに治ると思うけど』


なんで即効性のないのを?


『即効性のある魔法をかけてもらったら?』

『ドラゴンくらいデカいやつだと、効くまで時間かかるんだって。ジワジワジワジワ、蛇の生殺しみたいに効いてくるんだって』


いやな例えだな。


『じゃあドラゴンが治ったらまた戦いに行くの?』

『私たちでは勝てないね。だから街に出て張り紙して回った。勇者と魔法使いと武器商人募集って』


なんかレンタルスタジオの、ギター募集の張り紙みたいだな。当方ボーカル担当みたいな。


『そうだね、まず勇者が欲しいね』

『そう。それで何人か来たけど、前歯がなかったり、首がよれたスエット着てたり、逆にまっぱだったり、ろくな勇者が来ない』


まっぱは論外として、前歯がないと入れてくれないのは、うちの賭場と一緒だ。


『本当、頼れる勇者と、ユリナちゃんにヒットポイントを補給する魔法使いと、ちゃんとした武器を提供してくれる商人が最低限必要なの』


『それで集まりそうなの?』

『前歯のない勇者希望の人の友達も前歯がないんだけど、その友達の友達が武器商人してるみたいで、紹介してくれるって。その人も前歯ないけど、武器商人ならいいかって』


前歯のない奴多いな。

地方の競馬場みたいだな。子供の頃に父親に連れて行かれた時、前歯のないオヤジに囲まれたっけ。中には裸足で歩いてるオヤジがいて衝撃だった。どこから裸足で来たんだよって。


『それでビラを貼らせてもらったBARでスカウトされて、働くことになったんだ。衣装見てみる?』


『見る』


写真が貼られた。

そこに写っていたのは、妖精のような白い、腕の所が透けてメッシュ入りが入っている、フィギュアスケートの選手みたいな衣装で、頭に金色のティアラを乗せていた。


『可愛いじゃん、これが異世界の流行りなんだ』

『うん、こういう店いっぱいあるみたい。嘔吐バーっていうの。吐くまで客に飲ませるから』


嘔吐バー。

オートバイみたいな。


『それでこのティアラがゆるくて、いらっしゃいませって、頭を下げると落ちるし、ボルシチお待たせしましたって、テーブルに置いてお辞儀したら、ボルシチに落ちるし。


なんかボルシチまみれになったティアラって、華麗なものが逆ブレしちゃってものすごい醜悪なモノに思えて。


あとボルシチは買い取りなの。もう何杯ボルシチ買ったか』


『そのゆるいティアラ、サイズが合ったのにしてもらえば?』

『替えがないの。それにこっちではお辞儀する習慣ないから、フツーは落とさないんだって。お辞儀をするなんて、股を開いてアソコを叩くくらい、やらないことなんだって』


例えがよくわからない。


『そつちも大変なんだな。こっちも半グレたちをぶっ倒したら、上の人に気に入られてカジノ任されてるんだ。まだ高校生なのに』

『すごいね、カジノかぁ。お互いなんか世界が変わって来ちゃったね』


『でもこのLINEが通じてる間は、キララとつながっていられるから』

『まだ充電器一台分残ってるしね』

『それが終わったら?』

『もう無理だね。本当に別々の世界で生きることになるよ』


『そっち電気通ってないんだもんね』

『通ってるよ』

『えっ、マジで。それなら充電出来るじゃん』

『だめなの。電気が違うの。ここらは60ヘルツなんだ。私のは50ヘルツのだから。関東の電化製品が関西で使えないように』 


『そんな異世界とこの世界が、関東と関西の違いでしかないの? そんなのなくない?』

『でも現実だから。私は関西にいるの。関西なの。関西すぎるほど関西なの。汚れっちまった悲しみくらい関西なの。だからもう関西なの、いや無理なの』


『電力で俺たちは別れなければならないの?』

『そう、電力で私たちは別れるの。電の力で』

『わかった。またLINEする』


俺はスマホを閉じた。

電力が理由で別れるカップルなんて、世界で俺たちだけだろう。


俺は生まれて初めて電力を憎んだ。

いや関西の電力を憎んだ。







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