第55話 世界が闇になった
俺は心のどこかで、死んだら異世界に行って、キララやカメや猿橋や武郎や正恵たちと、冒険が出来ると思ってたんだ。
周りの人が次々に亡くなっていく中で、それだけが心の支えだったんだ。
それがすべて作り物だったなんて。
スタジオにハリボテのセットを組んだような、まがい物の異世界だったなんて。
もっと早く気づくべきだったよな。なんで異世界からLINEが届くのか。ちょっと考えたらわかるよ。
ネットも繋がらない、電話も他にはかけられない、でも俺へのLINEだけは出来るなんて、おかしいって。
「浅月さん」
「何ですか?」
「浅月さんは俺を救おうとして、こんな大げさなことをしてくれたんだと思うよ。悪気なんて一つもなくさ。
でも、でもね、大事な人が一人死んで、心でお別れして、少し立ち直って、また誰か死んで、悲しいけどなんとかまた心を持ち直して、
そんな風に少しずつ悲しみを受け入れるなら、耐えられたかもしれない。でも、でもさ、5人だよ。
ちゃんとみんな生きていて、異世界で貴重な薬草食って怒られたり、
王子様とユリナの結婚式に参加したり、ドラゴンに乗って新しい魔王と戦ったりして、
キララたちは元気で異世界で飛び跳ねてると思ってたんだよ。そしていつか、俺もそこに加われると思ってたんだよ。
でも、ダメじゃん。もう希望なんてかけらもないじゃん。俺はひとりぼっちで生きていくしかないじゃん。この世界で。あいつらのいないこの世界で。
そんなのつらいよ、つらすぎるよ」
俺はそう言って、学生服の胸ポケットから、拳銃を出した。
「その拳銃、どうしたんですか?」
「これは猿橋が撃たれた時に使われた拳銃だよ。どさくさにまぎれて俺がもらっといたんだ。いつかこの銃で自分の頭を撃ち抜いて、
キララみたいにマンガのコマを5つぐらいぶち破って、異世界に行こうと思ってたんだ」
「ちょっと待って、リズムさん。異世界なんてないんですよ。姫来ちゃんはここにいるんですよ」
俺はこめかみに銃口を当てた。
杏さんが悲鳴をあげた。
「いや異世界はある。俺は最後までそう信じて死ぬから。キララたちの所に行くから。ゼッテエ、ゼッテエ行くから」
「やめて下さいっ!」
浅月さんが叫んだ。
俺の瞳に最後に映ったのは、悲しみと驚愕が入り混じった浅月さんの表情と、杏美華さんの泣き顔だった。
俺はゆっくりと銃爪(ひきがね)を引いた。
世界が闇になった。
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