第54話 心の吊り橋
「嘘だろ? あれ全部、浅月さんが送ってたのかよ? だってドラゴンとか、色々と異世界の写真とかあったじゃん。それにキララからのライブ通話とか、出来ないよね」
「リズムさん、今の時代、写真の加工なんていくらでも出来ます。ドラゴンなんてすぐに質感の伴う写真が作れます。それと姫来ちゃんとユリナのボディランゲージは実際に虹のかけはしの人たちにやってもらって、顔だけ合成しました。
異世界からという設定なので画像が荒くてもリズムさん疑わなかったでしょう」
「うん。荒い方が信憑性あった」
「だから私はこのやり取りを、リズムさんが人の死を受け入れ、心が落ち着くまでの限定にしようと思って、期限を設けました。それがスマホの充電切れです。
それは私のさじ加減なのですが、充電が無くなったとリズムさんに思わせた時点でLINEのやり取りは終わろうとおもったのです。
でもその後に、運命が悪い方に悪い方に転びました。リズムさんがいじられっ子のカメさんを助けたら、偶然うちの傘下の月のしずくの奴らが絡んで来て、
カメさんはうちの子飼いの奴に刺されて亡くなりました。それは晴天の霹靂でした。なんでリズムさんの周りでこんなにも人が死ぬのか。
私はシナリオを書き換えました。カメさんが充電器を異世界に持って行ったので、もう少しやり取りが出来るようになったと」
「カメはいじめられていて、もしも山に埋められることになったら1週間くらい連絡出来なくなると困るから、いつも充電器2つ持ってると言ってた。それも知ってたってこと?」
「それは知りません。でも今の子なら充電器くらい持っていてもおかしくないと」
「猿橋は? 猿橋の件は?」
「猿橋さんも月のしずくの奴に撃たれて亡くなりましたね。後で映像を見たのですが、私はあっち向いてホイに生死を賭けた人を初めて見ました。
あなたをかばった猿橋さんは、恩田さんの指示で朝日と夕陽が一番に見える丘に埋められています。そして異世界の合成写真に猿橋さんも加えました」
「母が死んだのは?」
「リズムさんのお母様があのような亡くなり方をするなんて思いもしてなかったです。アソコに電球を……」
「それ以上、言わなくていいから」
「そうですね。ですのでご夫婦で異世界に行っていただくことにしました。コスプレも一応考えて合成して写真をLINEで送りました」
「真中名さんの件は?」
「武郎さんが臓器売買の申し込みをされてる頃、身辺調査のためにうちの構成員に、武郎さんを張らせました。すると真中名さんとの付き合いがわかり、調べると相当なお金を渡していると。
キャバクラに潜入して写真を撮ったのも、うちの構成員です。武郎さん、下着の匂い嗅いでましたね」
「あれは汚点だわ。きっついわ。でもなんで真中名の秘密を教えてくれたの?」
「あの女がリズムさんのお父様を死に追いやったにも関わらず、なんの良心の呵責もなく、リズムさん近づくのが許せなかったんです。お前のせいで、武郎さんは亡くなったんだぞ。お前の下着を嗅ぎながら亡くなったんだぞと、思い知らせてやりたかったんです」
「オヤジは真中名のブラなんて持ってなかったはずだぜ」
「いや、あの匂いを嗅いだブラは買い取りになって、武郎さんは死ぬまであのブラを離しませんでした。いや死ぬ時も、顔にあのブラを巻いて、匂いを嗅ぎながら亡くなりましたよ。
真の変態を見た気になりました」
武郎……
「じゃあ、キララとのLINEのやり取りのすべてが浅月さんとだったんだな」
「はい。姫来ちゃんのカバンにあったスマホから、他のデータをすべて消して、GPSで居場所を特定されないようにしてから、やり取りを始めました。
ここの書棚の一角にラノベが数冊置かれていたでしょう。異世界の姫来ちゃんからLINEをリズムさんへ送る前に、少し勉強したんです。
でも設定とかゆるゆるだったでしょ。付け焼き刃でしたから。転生とか転移とか召喚とか、よくわからずにドラクエ的な世界観を作ってました。下ネタが多かったでしょ。姫来ちゃんは下ネタをゼッタイに言わない子でした。
でも私は下ネタが大好きでした。特に、ユリナが言うウンコとかチンコとかシコシコとか、大好きでした。書きながら一人で笑っていました」
たしかに下ネタ多かったし、汚ねえのもあったな。
俺は大きく息を吸った。
これから俺が言うことは悲しいことだ。
息を大きく吸い、大きく吐く勢いがないと、言えないことだ。そうしないと俺の心が折れるからだ。
俺の根底を支えてくれてたものが崩れ去るからだ。
俺は言った。
「じゃあ、
キララは、
カメは、
猿橋は、
武郎は、
正恵は、
もうみんな死んでいて、異世界にはいないのか?」
浅月さんの息を飲む音が聞こえた。
「姫来ちゃんも、
カメさんも、
猿橋さんも、
武郎さんも、
正恵さんも、
異世界にはいません。
みんな亡くなってしまってます」
俺の心を支えていた吊り橋が落ちた。
心は谷底まで落ちて行った。落ちて沈んだきり、浮かび上がっては来なかった。
涙がこぼれた。
もうどうしようもなくこぼれた。
もう、みんな、いないんだ……
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