第38話 地球の消滅
死体消しのバイトを辞めたら、暇になった。
ああ、すげえ、消してえよぉっ、死体がよぉっ。って、サイコパスみたいなことは思わない。が、何もしてないと武郎の死に顔を思い出してしまう。
学校が終わってまっすぐ帰宅して、自分の部屋でクソだと思いながら、迷惑系ユーチューバーの動画を見てたら、自分が今までしてたことの方がもっとひどいな、と思った。
だって、こっちは死体をお姫様抱っこしてたんだから。お姫様抱っこの筆下ろしをしたんだから。
筆下ろしの後に、自分の父親の死体までお姫様抱っこしたのだ。筆下ろしの相手が父親じゃなくて良かったと心から思う。こんなことって、そうそうない。
そうそう。
そういえばミカエ•ルが言ってた歌、なんだったんだ。♫粗相、そうそう♫って。
ゼッタイ粗相じゃないな。今度調べてみよ。
あっ、そうだ。キララはどうしてるんだろう。死の魔人と戦ってるんじゃなかったっけ?
『キララ、死の魔人は倒せたのか?』
とメッセージを送った。
しばらく既読にならなかったが、既読になった後、返事が来た。
『Tueeeeeeよ。死の魔人。猿橋くんが聖者の剣で真っ二つに切ったら、片方ずつが魔人の姿になって、死の魔人が2人になったの。
1人が2人、2人が4人、4人が8人、8人が16、32、64、128、256、512……千…千…ってもう数えられられないよ。どんだけ増えてくんだよ、死の魔人。今に東京の人口より多くなるよ。死の魔人で渋谷のスクランブル交差点も、軽トラひっくり返して大騒ぎするね。DJポリスも大わらわだよ』
キララも情緒がおかしくなってるな。
『じゃあ苦戦してるのか?』
『なんとか真っ二つにしないように、猿橋くんが聖者の剣で刺し殺した。あと1人』
さっきはスルーしたけど、猿橋が持ってたのって勇者の剣じゃなかったっけ。聖者の剣に持ち替えたのか? 聖者でもなんでもないのに装備出来るのか?
あらゆる煩悩の粉を水でまぶして手でこねて、団子状になったのが猿橋だぜ。
煩悩団子だぜ。
甘辛なタレがかかってよぉ。
まあ、それはいいや。
『じゃあ倒せそうかな』
『頑張ればね。ユリナもゲロッパゲロゲロ、エキノホームニゲロゲロって魔法を覚えたし』
響きが汚ねえ魔法だな。駅のホームにゲロって、忘年会シーズンか。ユリナの地方ではこれも崇高な意味があるのだろうか。ウンコチンコだって、とても高尚な聖なる言葉だったのだ。
『それどんな魔法?』
『地球が消滅するの』
そんな汚ねえ言葉の魔法で?
『それダメじゃね?』
『どうしてやる前からダメとか言うの? みんな。担任とか、塾の先生とか。やってみなきゃわからないじゃない。やることに意味があるんじゃない』
やることに意味があるか?
やったら地球が消滅するんだろ?
『そうよ、いつだって戦う私たちを、戦わない奴らが笑うのよ。ファイト!』
いや、だからやったら地球が消滅するんだってば。
『ほら、もうユリナがゲロゲロ言い出したよ』
もうゲロゲロ言うなよ。早えな。酒の飲めない新入社員か?
『でも地球が消滅したら、キララたちもみんな死ぬじゃん』
『死なないよ、ここは異世界だし。消滅するのは地球だけ。私たちも死の魔人も死なない。なんで自分らが死ぬ魔法なんかかけるのよ。ちょっと考えればわかるじゃん。バカなの?』
ちょっと待てや。
なんで自分たちにまるで影響のない魔法をかけるんだよ。地球が消滅して、死ぬのは俺たちじゃん。
『ユリナを止めてよ。地球を消滅させても死の魔人が生きてるなら意味ないじゃん』
しばらくして、
『ユリナに伝えたら、それもそうだねって、エキノホームデゲロでギリ止まった。もう少しで吐くとこだった』
吐くんじゃねえかよ、やっぱり。そんな汚ねえ魔法覚えんなよ。
『こんな切羽詰まった時に悪い。キララの友達で真中名さんっていたよな。俺、友達になったんだ。LINEも交換したし』
しばらく間が空いた。
死の魔人との戦いが緊迫してるのか?
5分ほど一人で汚らわしいことをしようとしてたら、返事が来た。
『真中名さんは友達じゃないし、リズムも近づかない方がいいよ』
ん、どうしたんだ。友達だって、よだれだよさん、じゃなくて回文さんも言ってたし。
もしかしてまた嫉妬してるのか。異世界に行って、キララはやきもち焼き屋さんになったのか? やきもち焼き屋さんって、焼き餅焼いてるのか? 屋台で。一ついくらで売れるんだ、それ?
『ただの友達だし、俺にはキララしかいないから、安心して』
『ただの友達でもダメ。あの子は敵(かたき)だから』
敵って言葉、強いな。2人の間に何があったのだろうか。ケンカでもしたのか?
『もう、近づかないって約束してくれる?』
死の魔人との戦いの前で、気が立ってるのかもしれない。ここは逆らわない方がいい。
『うん、わかった。もう近づかないよ。だから安心して、死の魔人と戦って』
『ありがとう。頑張ってみる』
それでキララとのやり取りは終わった。
キララと回文さんの間で何があったのか、回文さんに聞いたら教えてくれるかな。
でも女の友情って壊れるとゲロゲロするって、マンガかなんかで読んだしな。
やべ、ユリナに引っ張られた。
ドロドロな、ドロドロ。
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