第27話 全然、真っ当じゃねえし
俺は駅前にあるお洒落なカフェを探した。
名前がLeで始まる店はLe Cafe de amorがあった。
多分、ここだろう。
でも隣にはLuで始まるLucha Libreという、ショーウィンドウにプロレスのマスクが飾ってある店があった。
メキシコのプロレスラーがかぶってる金ラメの入った派手なマスクや、メキシコの国旗の緑、白、赤をあしらったマスクなどがマネキンの顔に被せられ、
レスラーのポスターや写真などが貼られた壁の前に飾られている。
ここはマスクを売ってる店なのか?
扉の中を覗くと、中もやはりレスラーの写真やポスターが貼られていて、サインの書かれた色紙も飾られていた。
でもテーブルと椅子があるから、飲食店なのだろうか。メキシコ料理の店とか。
まあいつまでもLuchaに構ってられないので、Leの方に行こうとしたら、Luの店の奥のテーブルに見知った背中を見つけた。
あの黒いスーツは恩田さんだ。
って、こっちの店かよ。
お洒落なカフェは隣だろう。こっちはルチャ・リブレの店だ。プロレスの店だ。熱量の高い店だ。
それにLeではなくLuだ。
あの背中に気づかなければ、隣のカフェで待ちぼうけを食うところだった。
俺は扉を開けた。なんか聴いたことのある古い歌が流れていた。♫スカイハーイ!♫と歌ってる。そういう店だ。
僕が背後から「恩田さん」と声を掛けると、恩田さんは振り返って「よお、良くわかったな。わからないように、こっちの店にしたんだけど」
するなよ。
ふと見ると恩田さんの向かいの席に座ってる女の子がいた。金髪で髪は長く、細面でかわいい顔をしていた。歳は俺と同じくらいで、胸の所で留まった緑色のワンピースに緑色のブーツを履いていて、髪に緑色のカチューチャを付けていた。
でもその子は、普通の人とは明らかに違っていた。
いや体の部位で違う部分があった。
耳がとがっているのだ。両耳が大きくとがっている。でもそれは変に目立ってなく、キュートに思えた。コスプレなのか?
俺は恩田さんの隣に座った。
「あ、彼女が昨日話したエルフのミカエルさん」
「ミカエ•ルです。あなたは?」
「入来、奏でる夢と書いてリズムです」
「奏でる夢くんね」
「それだと長いんで、リズムでいいですよ」
「奏でる夢くんね」
「みんなリズムって呼んでるんで」
「奏でる夢くんね」
やり取り長いわ!
本人がリズムでいいって言ってるんだから、それでいいじゃないか。何が不満だ。金か、金なのか?
っていうか、エルフのミカエルって言ってたな。
「恩田さん、エルフって?」
「妖精だな。きれいな顔してるだろ、死んでるんだぜ、それで」
「死んでるんですか!」
「死んでないですよ、恩田さん。妖精なだけです。不老不死だから、まあ生きてるのか死んでるのかわかりませんが」ミカエルが笑って言った。
「よくわからないです。恩田さんと妖精がどこで出逢ったんですか?」
「風俗だよ、風俗。俺がやってるファッションヘルスの店の面接に来た。ファッションでヘルスだから、お洒落で健康的な店だと思ったんだって。
その真逆なことをするんだけどな。
で、ミカエルに、うちの店のお客にしてあげる、エロい手管を身振り手振りで教えてあげたら、中出しちゃって。いや、泣き出しちゃって。で、なんかかわいそうだから、うちで使おうと思って。
ほら、うちにもまだ真っ当な仕事もあるだろ。
だからそっちの方で、お前と組んでもらおうと思ってさ。
あのお前のいた賭場も閉めたから。サツに目を付けられる前に。なんか警察をサツって呼ぶのも無粋だな。刑事ドラマのヤクザか。今度からは、クを付けてクサツって呼ぼ。温泉みたいでいいよな、って温泉行きたくなったじゃねえかよ、おいっ」
最後、誰にキレてんだろ。
「あの賭場閉めたんですか。奥寺さんはどうなったんですか?」
「奥寺は今、デリヘルやってる」
「マジっすか」
「あ、嬢じゃないよ。送迎車を運転してもらってる」
ロッカーにあったっていう浣腸は、そういうプレイの要望があった時に、デリヘル嬢に渡すつまりで買っておいたのか。いや違う。これは謎のままにしておこう。あの浣腸の意味は。
「それでお前たちにしてもらいたい、真っ当な仕事は」
「仕事は?」
「死体の運搬だ」
全然、真っ当じゃねえし。
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