第26話 エルフ
なんでカバンに食いかけの照り焼きバーガーなんか入れたんだよ。タレが垂れて教科書やら何やらにべっとりついてるじゃないか。危険なんだよ、あの甘辛いタレは。誰が入れたんだよ、カバンになんか。25話の俺か。あいつぶっ飛ばしてやる。
マジックリンやら布巾やらでカバンの中を拭いていると、電話がかかってきた。見ると恩田さんからだった。
出ようか出まいか迷った。正直、良い話とは思えなかった。
迷った末に出た。
「あ、入来くん、恩田だけど。猿橋くん残念だったね。ちゃんと丁寧に埋葬しておいたからね。鳥葬だけど。
あ、ウソウソ。鳥葬だとガケの上まで引きずっていかなきゃだからね。大変だし。ちゃんと朝日が上って夕日が沈むのが見える美しい山に埋めたからさ。
あと月のしずくのメンバーは全員ケジメつけさせたから」
「ケジメってなにしたんです?」
「今、指詰めとか思ったでしょ。そんなことしないよ、気持ち悪い。ああ気持ち悪い。あんな鼻の穴だかケツの穴だかほじったような小指なんか、何本ももらったら死にたくなるよ。
まだお歳暮に洗濯洗剤のセットもらった方がいいよ、使わないけど。
彼らは一人一つずつ、臓器を売ってもらって、その金を回収した。そっちの方がまだクールじゃない?」
エグいな。やっぱり恩田さんには逆らわないでいよう。
「それでさ、猿橋くんがあんなことになったから、入来くん1人じゃ大変だと思って、バディを用意したんだけど、キミは人見知りする方?
初めて会った人と会話の間が出来るのが怖くて、強い向かい風に向かって立ちションしたら、顔から体からすべてがションベンまみれになったとかいう話で、間をつなごうとする方?
それで思いっきり引かれて、言ったことを死ぬほど後悔する方?」
なんで強い向かい風に向かってションベンするんだよ。
風に向かうライオンか。さだまさしか。さださんにションベンかけんなよ。
「いえ、愛想は良くない方かもしれないけど、それほど人見知りする方じゃなくて、普通に話せると思います」
「だよね」
だよね。
わかってるなら、ションベンの例えはいらないだろう。
「そのバディを紹介したいんだけど、いつ空いてる?」
「明日でも大丈夫ですか?」
「うん、奥寺にはきちんと伝えておくから、入来くん少し借りるって。あの子変わってるから。ロッカーに浣腸いくつも入れてるし。なんに使うんだよ、あれ」
見たんだ。
人のロッカーの中のいくつもの浣腸を。
俺、ロッカーに鍵かけてねえな。浣腸入ってないからいいか。
「じゃあ駅前のお洒落なカフェで」
「ずいぶんざっくりしてますね、あの辺お洒落なカフェいくつかなかったでしたっけ」
「でも名前忘れちゃったんだよね。たしか頭にLeって付くんだよね。フランス語風に。行ったらわかるよ。時間は学校終わってからだから、5時くらいで大丈夫?」
「はい、その時間なら大丈夫です」
「じゃあ待ってるから、エルフと」
「エルフ?」
「うん、その子の名前」
「外人ですか?」
「見ればわかると思うよ」
どういうことだろう。でも疑問を挟むとまたションベンの例えを聞かされるかもしれない。
「わかりました。その時間にうかがいます」
そう答えた。
エルフ。
なんか嫌な予感するな。
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