第28話 こっちが異世界のノリ

「なんすかその仕事」

「まあいろいろと訳ありの死体があるわけさ。生命保険にも入れないほど困窮してる父親が、家族にお金を残すために自分の臓器を全部売り払った。その後、残った死体はどうする? わかったら手を挙げて」


「警察にその、」

「わかったら手を挙げて!」


俺は恥ずかしいが手を挙げた。

半裸で脇毛が見られないように左手で右脇を隠して手を挙げてる人みたいな辱めだ。


「警察にその死体が見つかったら、臓器が全部引き抜かれてるから、殺人として捜査される。そして臓器売買のシンジケートまでたどりついたら、その父親の家族にお金を残すことも出来なくなる」


「まあ、そういうことだね。他にも警察に見つかりたくない死体っていっぱいあるのよ。でも俺は真っ当だから、ただの人殺しが殺した死体を金をもらって処分したりしない。倫理観がかなりしっかりしてるからな。


本当に訳ありの死体、俺の好きな悲しい物語が背景にある死体、だけを処分したい。な、真っ当な仕事だろ。ほぼ人助けと言ってもいい。多分、人助けと言ってもいい。ちょっと人には言えないけど、人助けと呼べる仕事だ」


倫理観がかなりしっかりしている。

すごいな。本気で思ってるんだろうな。


「で、それをキミとアンミカでやって欲しいんだ」

「ミカエ•ルです」満面の不満顔だ。

「俺に出来そうですか?」

「大丈夫。キミは力仕事を担当してもらうだけから」

「よろしくお願いします」ミカエルは俺にお辞儀した。とがった耳の先がよく見えた。わずかながら毛が生えていた。耳の毛は剃らないのだ。


「ミカエルさんはやる気なんですか?」

「ええ、私の能力が活かせるので」

「能力?」

「ええ、人を消せるんです。魔法で」

「マジで。そんな人がなんでファッションヘルスの面接に?」

「世間知らずなもんで。私がいた世界にはファッションヘルスもデリヘリもSMもスカトロも、」


「アンミカさん、もういいですよ」

「ミカエ•ルです。奏でる夢くん、次に間違えたら命があるかないかわかりませんよ」


どっちだよ。

自分は人を変な呼び方するくせに。エルフって、偏狭なんだな。


「それで明日の0時に早速仕事にかかってもらうけど、大丈夫? 指示はミカエルがしてくれるから」


「ええ。それで報酬って」

「報酬は遺体一体につき、税抜き13万5千円だな」「所得税引かれるんですか?」

「当然だよ、軽作業ってことで雇うんだから。ハローワーク通そうと思ったくらいだし。死体運搬業で。まあ死体の重さで重作業に変わるかもだけど。それより労働基準法とか脱税とか、別件で捕まるのが1番怖いからね」


「じゃあもし月に百体くらい処分したら、1350万円もらえるんですか?」

「キミはそんなに毎月、悲しい背景を抱えて死ぬ人がいて欲しいの? キミは悪魔なの? 銭ゲバなの? ズビズバなの? パパパヤなの?」


「最後の方、まったくわからないです」

「まあいい。ぶっちゃけそんなに仕事は来ない。月に1人くれば良い方じゃないか。だから明日やれば1ヶ月働かなくて済むかもしれないぞ。


手取りで13万5千円もらえるなら、いいよな。家に金入れるわけじゃないし、親から小遣いももらってるし。


「あ、ちなみにミカエルさんは幾らもらうんですか?」

ミカエルさんは人差し指と親指で円を作って、

「これの話を人前でするなんて、いやらしいですよ」

「でも気になって」

「ミカエルにはお金じゃなくて別の報酬をあげるんだ」

「なんですか?」

「森だ。エルフが住めるような空気な綺麗な森をあげることになってる」

「へー、すごいですね」

「そのためには2500人消さないとな」

「私、頑張ります。全国のエルフたちとそこで暮らします。だから毎日、人、消します。消して消して消しまくります」


やべえな。こっちが異世界のノリになってきた。










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