第49話 旦那のコブラに太鼓の乱れ打ち
あの恩田さんの舎弟が、キララの叔父さんだって?
そうだ。今気づいたが、名字が同じ浅月だ。
「浅月なんて言うんですか?」
「浅月……なんて言ったかな。下の名前で呼んでなかったしな。反社の組織で下の名前で呼び合うってキモくねえ? だからあいつの名前が浅月脱糞だったとしても、全然アリだと思う」
ないと思います。
浅月がキララの叔父さんだとしたら、キララのおじさんかおばさんのどちらかの兄弟だ。さっきLINE交換した浅月のおばさんに聞き出せばいいか。
「そうかな。浅月糞尿でもいいし。
♫糞尿、努力のかいもなく、今日も涙の、今日も涙の日が落ちる、日がぁおぉちぃるぅ♫
糞尿努力ってすげえな、どんな努力だよ」
「なんすか、その歌は?」
「寅さんの歌だよ、男はつらいよの」
「世代じゃないからわからないです」
「俺は今夜、日本を経つから、すぐに動いて欲しい。姫来ちゃんのことも何かわかるかもしれないし」
でもキララは異世界にいるから。
「じゃあね、頼んだよ」
「あっ、ちょっと待って下さいよ」
電話は切れた。
まったく。俺はキララのスマホの充電のこともなんとかしなきゃならないのに。
俺はとりあえず学校に行き、昼休みにキララのおばさんにLINEしてみた。もう休診時間だろう。
『あっ、浅月さん、今朝はすみません』
すぐに既読になって、返事が来た。
『浅月さんなんて他人行儀ね。ユリって呼んで』
なんだ、いきなりだな。妙にエロいし。
『ではユリさん、ちょっと聞きたいことがあるのですが?』
『それはユリの性感帯? 昼間っからそんなこと聞く? やあね、耳の裏よ』
聞いてねえし。今度、耳の裏に息を吹きかけてやる。
『あっ、そうなんですね』
『なんかこの診察室、室温が高くて汗かいてもう、ビショビショ。もう、体中、どこもかしこもビショビショ。もうこんなに濡れちゃった』
なんだこれは、エロチャットか。
『実は聞きたいことがあるんです。キララさんのことで』
『姫来がどうかした? 何か知ってるの?』
エロチャット突然終わったな。もう少し続いたら握ってたな。今度、夜にでもやってもらおう。
『キララさん、叔父さんがいますよね。その人のことを聞きたいんですけど』
『今度、キスしてくれる?』
『えっ、』
『キスしてくれるなら、教えてあげる。今日、抱きしめられて、なんか疼いちやったし』
『わかりました。キスぐらいなら』
『ゼッタイだよ。約束だからね。嘘ついたら、キミのお腹に的を描いて、メス投げるからね』
怖えな。
『はい、約束します』
『姫来の叔父さんって、旦那の弟の清人(きよと)くんだと思う。一つ違いで同じ大学病院で医師をしてたの。でも清人くんが医療ミスを起こして、それが週刊誌に載って大スキャンダルになって、医者をやめたの。
今は全然交流ないから、何をしてるかもわからないし、なんかうちの旦那も清人くんは我が一族の恥だとか言うし。
旦那の家系は代々医者だから、身内から医療ミスする医者が出るなんて、許せなかったんじゃないかな。マスコミが旦那の実家まで押し寄せて、病院の信用もガタ落ちになったから、親戚中からツマハジキにされて、清人くんは姿を消したの。
それで先代が亡くなったから、今の病院を旦那は継いだの。ねえ、うちの旦那のアレってすごいのよ、まるでコブラみたいで』
『あっ、あの清人さんとキララさんは会ったりとかしてました?』
『全然。だってうちの旦那がそんなこと許すわけないわよ。あんな恥さらしの尾骶骨ケツ毛野郎には絶対に会わせないって。あっ、それでうちの旦那のコブラがさぁ』
『わかりました。ありがとうございます』
もうキララのおばさんから聞き出せることは何もない。どうしても旦那のコブラについて聞かせたかったんだな。
俺は旦那のコブラがコブラツイストされてる絵を想像した。アレを都市伝説の小さいおじさんにコブラツイストされて、その後にサソリ固めと、太鼓の乱れ打ちをされ、そしてラリアットで旦那のコブラに、小さいおじさんは勝つのだ。キメエ話だな。
それからキララのおばさんから何回もLINEが来たけど無視した。でも、その中に、もう本当に大事なことしかLINEしないって言ってたキララからのメッセージがあったので、あわてて開いた。
『ユリナが王子様と結婚した。みんなで、チンコと叫んで祝福した』
チンコにはおめでとうという意味もあるのか。
つか、これそんなに大事なこと? 充電減らしてまで送ることか?
俺はすぐにメッセージを返した。
『それはおめでとう。あと、キララに聞きたいことがある。キララの叔父さんに清人さんっているよね。家の人に内緒で会ったりしてた?』
すぐに既読になった。
でも電源を落としたのか返事はなかった。
今日の放課後、あの死体消しのバイトをした、寂れた倉庫に行ってみよう。倉庫の写真を一枚撮ってあるから、その位置情報でたどり着けると思う。
あそこに行けば消えた浅月さんの何か手がかりがあるかもしれない。
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