第6話 今夜は握ろう

家に帰ると母に「お風呂沸いてるよ」と言われる。

俺は言われるままに風呂に入ろうと、部屋で制服だけ脱いで、脱衣所で下着を脱ごうとする。


が、なんか臭い。

きれい好きな母がいつも掃除してる風呂だ。

汚れてる物や臭そうな物などない。


己だ。己から臭いにおいがするのだ。


ちょっと体をかがめる。自分で自分のを咥えようとする体勢だ。そんなこと出来るわけがない。首が折れる。


履いてたボクサーパンツの股間の部分が臭い。なんだろう、においを例えるのは苦手だ。


良く言えば男としてのフェロモンのにおい。

悪く言えば、皮をかぶった先っぽのカスが腐ったにおい。


俺は迷わず洗面台の水を出して、股間の部分を濡らす。

母には死んでも嗅がせたくないにおいだからだ。


風呂に浸かると、キララのことを思い浮かべた。

キララもお風呂に入りたいのではないだろうか?


異世界にお風呂はあるのだろうか。

しまった。いつの間にか、風呂を『お風呂』と言っていた。気持ち悪い。


風呂から出てタオルで頭を拭いてると、

脱衣所に置いといたスマホが鳴った。


キララからだった。

マッパのままスマホを開く。マッパでスマホをいじると、股間のモノがぶるんぶるん動く。タッチパネルに触れて指でなぞるだけで、こんなに振動が起こるのか?

ぶるんぶるん。


『今、温泉つかってるよ』

すぐに写真も届いた。


池くらいの大きさの温泉に、自撮り棒を伸ばして、

裸の両肩を湯から出して、髪をアップにして写っていた。


顔が湯気で赤らんでいる。幸せそうだ。

俺とキララは同じ時にお風呂に入ってたんだ。

しまった。ちょっと気ぃ抜くとまた風呂を『お風呂』って言っちまうな、クソが。


キララの写真の背景には、ドラゴンの後ろ姿が小さく写ってる。

指で拡大するとしっぽを上げて、肛門を広げている。


あと数秒遅れたら悲惨な写真になっていただろう。

キララは持っている。


トラックにはねられてもこうして異世界で生きてるし、今は幸せそうに温泉に浸かってる。


でも逢いたいよ、キララ。やっぱり、寂しいよ、LINEのやり取りだけじゃ。


俺はその寂しさを右手にこめて、今夜は握ろう。

キララの温泉の写真を眺めながら。


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