第7話 最低の悪口
『魔法使いみたいな格好をした女の子と出逢ったけど、どうすればいい?』
キララからのLINEのメッセージが届いたのは、
また体育館裏で、昼寝をしようとした時だった。
この前いた、いじめられてる生徒がまたいて、今日は目の辺りに青くアザが出来ていた。
俺らは会釈した。
もしいじめられてるところに出くわしたら、今度こそ相手をぶっ飛ばしてやろう。
そう思った時に来たのが、さっきのメッセージだ。
魔法使いみたいな格好をした女の子と出逢ったけど、どうすればいい?
キララは異世界で誰かと出逢ったのだ。
それも魔法使いだ。これは良い方に導いてあげないと。
『話しかけてみた?』
すぐに返事が来た。
『言葉が通じない』
『ボディランゲージとかしてみたら? 身振り手振りで言いたいことを伝えないと。あ、そうだ。魔法使いだったら、言葉が通じるようになる魔法をかけてもらったら?』
『わかった。やってみる』
しばらく待った。あのいじめられっ子も、いじめられに戻った。あともう少しで昼休みが終わるチャイムが鳴る。
その時、LINE通話の呼び出し音がした。
開いてみると、ライブ通話になっていた。
見ると、荒い画像の中な映ってる魔法使いみたいな女の子は、紫色のマントに中は白いブラウスと紫色のミニスカを履いて、ツバの大きい紫色の帽子を被って、手には先っぽに鉄で作られたらしい魔法陣がついた杖を持っていた。
歳は俺らと同じくらいか。
キララはうちの高校の女子の制服、紺のブレザーに首の下に下に赤いリボン、そしてチェク柄のスカートを履いている。
2人は言葉を伝え合おうというよりも、
相手のMPを奪う不思議な踊りを踊ってるように見えた。
手をインドの路上芸人みたいにクネクネと動かして、首を左右に振り、脚は閉じたり開いたりして、
時々「ハァッ!」と、無意味な気合を入れた。
だめだ、だめだ。
あの踊りのどこが、言葉が通じるような魔法をかけて欲しいという思いを表しているのか。
が、魔法使いの女の子も、キララと同じ踊りをしだした。
手をクネクネと動かして、首を左右に、それも首が胴体からズレるような、怖い動きをして、アドリブで親指と人差し指で丸を作り、他の三本の指を立てたポーズをした。
我が国では、『銭(ゼニ)』を表す形だ。
なんかちょっと、こっそりとやるポーズだ。
「今ちょっと、これがないから」とか言いながら。
その銭になった手を、前後左右に動かして、脚を上下に出してステップを踏み出した。
負けずにキララも手を銭の形にして、インドの舞踊のように、その銭になった手を交差させたり、目を左右にキョロキョロさせたり、銭を胸に当てて、ドックンドックンと動かしたり。
やりたい放題か。
そしてキララが「ハァッ!」と気合を入れると、
その魔法使いも「ルララバァッ!」と気合を入れた。
「ハァッ!」
「ルララバァッ!」
このやり取りが100回続いた。
動画だったら絶対早送りする。マジで。
そして魔法使いの女の子は、キララが言う「ハァッ!」という言葉に興味を持ったのか、
持っていた杖を振った。「ハァッ!」の意味を知りたくなったのだろう。
杖の魔法陣の所が光り、ビームみたいなのがキララに放たれた。魔法をかけられたようだ。
「ハァッ!って、なんですかぁ?」
魔法使いが日本語で聞いてきた。でも外国人みたいなイントネーションだ。
あの変な踊りから、最初の目的だった言葉が通じるようになる魔法をかけてもらうというミッションに成功した。
遠ざかれば遠ざかるほど、実は近づいていくという理論を実証したのだ。
「ハァッ!は、ハァッ!だよ、意味なんてない。ただ気合を入れる言葉だよ。そっちのルララバァッ!って何?」
「ルララバァッ!は、死ねこの皮かぶりのチンカス野郎って意味」
「なにそれ、言葉の短さに意味の長さがおさまりきれてないじゃん! 最低の悪口だし」
「ねえ、あなたは名前はなんていうの?」
「キララ。あなたは?」
「シコネチンコユングチンココナチンコ•ユリナ」
名前長え。それに名前にチンコって3つも入ってるし、奇跡的に最後の部分がユリナで呼びやすいし。
「チンコはこの辺りでは、青い空に向けて翼を広げるように大志を持って大地に立て、という意味」
チンコの意味長っ。よくこの3文字にそんなに意味を込められるな。
俺のも、青い空に向けて翼を広げるように、大志を持って大地に立つかな。
大志を持たなくても勃つし、フツーに。
「じゃあ長いから、ユリナって呼ぶね」
「うん」
そこでライブは唐突に終わった。
ちょうど良く昼休みが終わるチャイムが鳴った。
キララに仲間が出来て良かった。
たとえ名前にチンコが3つもつく魔法使いでも。
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