第5話 汚ねえな

学校の帰りにマックで友人の猿橋翔太とビッグマックを食べる。猿橋と俺は身長が180超えで、鍛えてもないのに、わりとガタイが良いから、ヤバそうな奴らも俺たちには一目置いている。


まあ2人ともケンカで負けたことはない。町内では負け知らずだ。範囲狭いな。


マックをくちゃくちゃと咀嚼してると、

キララもマック食べたいだろうな、と思った。


そんなことに思いを馳せていると、

「そんなに落ち込むなよ。まだ亡くなったってわけじゃないだろ」


猿橋が心配そうに言った。

俺は猿橋の唇の端にへばりついたレタスが落ちてこないことの方が心配だった。重力が働いてないのか?


まあ猿橋が心配するのはわかる。自分の彼女がトラックに轢かれた上に、その姿が行方不明になったのだ。


もういっそ井戸にでも飛び込んで、井戸の底で後悔して、蜘蛛の巣だらけになって、はい上がって来てもおかしくないような心境だろうと、


猿橋は思っているはずだ。


でもキララは生きている。生きて、俺とLINEでつながっている。


現実世界と異世界の、究極の遠距離恋愛だけれど。

南極と北極で遠距離恋愛してる人よりも、いばれるくらい遠い。


でも地上と宇宙ステーションで働いてる人よりは近いのか、どうなのか。


でも北極でも、宇宙ステーションでも、行こうと思えばなんとか行ける。


でも異世界は、どうすれば行けるのかわからない。

俺もトラックに轢かれて、マンガのコマ五コくらいぶち破ったら、行けるのだろうか。


そんなことを考えていた時に、スマホが鳴った。LINEのメッセージが届いた音だ。


「誰だよ、まさか新しい女子か?」

俺は無視してスマホの画面を見る。キララからだ。


「違うよ、母さんからだよ」

LINEを、開くとメッセージがあった。


『風邪に効く薬草ってあるのかな?』


「お母さんなんだって?」

「帰りに牛乳買って来てって」


俺はちょっとトイレ行って来ると言って、

マックのトイレの個室に入った。


キララ風邪ひいたのかよ。

熱でも出たら大変だ。栄養のあるものもなさそうだし。生のミミズ食ってるんぜよ。吐いたぜよ。


俺はネットで風邪に効きそうな薬草について調べた。


一番わかりやすいのは、ほおづきだった。ほおづきの花ならキララも見たことあるだろう。


鎮咳、解熱などに効くらしいが、

水洗いして天日干ししなければならない。


『ほおづきが良いみたい。写真貼っとくね。咳と解熱に良いらしいけど、乾燥させないとダメみたいだね』

そうLINEして、ほおづきの写真も送った。


俺はトイレを出て席に戻った。

猿橋が、「お前、長かったな。うんこしてただろう」


半分もまだビッグマックが残っているのに、

うんこの話をするなよ、このクソが。死ねクソ野郎。クソの中の消化されないコーンになれ、猿橋。


「ちげえよ」

「じゃあ、なんでそんな長かったんだよ? ビッグマックの半分の分、出して来たのか?」

マジ汚ねえ。ほんと、なんでこいつと友人なんだ?周りの人もなんか引いてるし。


この席だけ公園の汚い公衆便所みたいに思われてる気がする。


「もう帰るよ、食う気なくなったし」

「じゃあ、俺食っていいか」

「いいぞ、食え」

俺のクソの半分を。


マックを出た時に、またスマホが鳴った。

キララからだ。


『ドラゴンに火を吹いてもらって、焚き火して体を温めて、生えてたマンゴー食べたら、ソッコーで治った』


マンゴーあるんかよ。

異世界って南国の楽園だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る