第10話 王様の頼みごと

『どんな頼まれごと?』


『王子様が病気で、森の奥にある特別な薬草を取りに行って欲しいって。そしたら100万ゴールドくれるらしいよ。でも森の奥には強力なモンスターがうようよいるから、お気をつけてって』


なんか、お気をつけてって、軽いな。旅館の女将さんが言う言葉だな。


メッセージを読んだカメが、


「これ絶対、城の軍隊が一度行って、全滅させられてますよ。じゃなかったら、キララさんたちに頼りませんよ。それくらい強いモンスターがいるんでしょうね」


「でもキララは行くんだろうな。ユリナとドラゴン連れて」


「武器と防具はお城で揃えてくれたんですかね」

「あ、それ聞いてみよ」


『キララ、武器と防具は用意してくれたの?』

すぐに返事が来た。

『勇者の剣と、ヨロイをもらった。装備は出来たよ。でも重いから、途中で捨てるかも』


捨てるなよっ! 俺とカメは同時にツッコんだ。

俺はすぐにメッセージを送った。


『絶対捨てるなよ、それ大事なモノだから、一度脱いで、ドラゴンの背中にくくりつけてでも持ってけ』


うんうんと、カメもうなづいていた。


『それでスマホの充電ってどれくらい残ってるの?』


『この前、全部なくなって、充電器で満タンにして、それも半分くらいになった。あの時のLINEのテレビ電話でかなり減った』


あのユリナと初めて出逢った時に、言葉が通じなくてお互いがインド人の踊りみたいなボディランゲージを繰り出した、あの時のLINE通話が、こんな命取りなことになるなんて。


俺が呪いの踊りを踊りたくなった。


「もう充電、半分しかないんですか?」

「みたいだな」

「それなくなっちゃったら、キララさんと連絡つかなくなるじゃないですか」


「なったらなったで仕方ねえよ。異世界と現実世界の遠距離恋愛なんて、所詮、続かねえ運命なんだよ」


「なに、Sapporo とTokyoで遠距離恋愛してるチープなドラマっぽいこと言ってんすか。痛いっすよ。浜崎あゆみのロゴをでっかくボディに描いてる車より痛いっすよ」


「そんなに痛かったのか」

あんな痛車よりも痛いこと言うなんて、死にたいわ、マジで。


「ええ、マジ痛かったっす」

「マジ言うな。これからマジ禁止。マジ言ったら、一回百円徴収な。徴収した金は赤い羽根募金に送るから。つか、お前は恋愛とかしたことあるの?」


「このなりで、恋愛なんて出来ないでしょう。クラスのグループLINEからもはじかれてるんっすよ!」


まあメガネかけて小太りで、ちょっとしたことで汗かいて、脇汗がゲリラ豪雨みたいに滴っていたら、恋愛とは縁遠いだろう。


「でも、僕はこのユリナって子、好きです。推しです」

「まあたしかにかわいいけど」

「もし僕が転移ではなく転生して、イケメンになったら、ユリナさんと付き合えるかもしれないですね」

「その確率、低すぎないか?」

「0.000001%でも、0ではないんですよ。まったくの0でなければ、やる価値はあります」

「ないと思うが」

「やる価値は、ありまーす…ありまーす…ありまーす……」

「少しずつ声が小さくなってるじゃん! 自信ないんだろ?」


「まあ、キララからの連絡を待とうぜ。進展があるかもしれないし」


「そうですね。じゃあ何かあったらLINEを送って欲しいから交換して下さい」

「クラスのLINEグループからはずされた奴と交換するの?」

「ひどいこと言いますね。うんこしますよ、ここで」

「わかった」

カメと赤外線でLINEの交換をした後に、

すぐにLINEが来た。


「カメ、きめえよ。そんなすぐLINEするなんて、そんなに俺に飢えてるのか? 飢饉か? 天保の大飢饉か?」


「なんすか、それ。本当にあった飢饉すか? LINE僕じゃないですよ」


そう言われて俺はスマホを見た。

キララからだった。


『なんかラスボスみたいな魔王が出て来た。頭に手みたいな黒いツノが左右についてて、背中に扇風機みたいな赤い翼がついてて、身長がタワマンくらいデカくて、なんかイナズマみたいな形の杖持ってる』


なんか怖い。怖すぎる。


『逃げろ、キララ! そんな奴に勝てるわけないよ!』


でもその後、キララからのLINEは届かなかった……


        










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