第9話 やばい橋
カメと帰りにファミレスに寄る。
ドリンクバーだけで、粘ることにする。
カメは背負ってたアディダスのリュックを横に置いて、
「どんな気持ちなんですか? 彼女さんが異世界に行くって」
「わかんないな。女子トイレみたいなもんかな。俺たち入れねえし」
「女子トイレみたいな異世界って斬新っすね」
「斬新かぁ? クソみてえな例えだけど」
「あ、彼女さんのスマホって充電どのくらい残ってるんですか?」
「3日前で90%残ってたな。後、充電器で一回は満タンに出来る」
「充電器一個だったんですね。俺、常に満タンにできるやつ二個入れてます」
「友達もいなさそうなのに?」
「いないからですよ。いじめられてたし、もしどこかの山にでも埋められたら、ケータイないと助けも呼べないじゃないですか。だから1週間くらいは埋められてても大丈夫なくらいの充電器は持ち歩いてます」
「山に埋められるの前提って怖いな」
「そんな生活でしたから、ずっと。あ、もし、その充電がなくなって連絡がつかなくなったら、異世界に行こうと思います?」
「わかんねえ。キララと同じようにトラックに轢かれても、同じ異世界に行くとは限んねえしさ。
キララはマンガのコマ五つも突き破って異世界に行ったって言ってたけど、四つめで止まっちゃったらやべえし。寸止めだぜ、どこ行かされるかわかんねえよ」
「正直、僕は行きたいです。異世界に。トラックに轢かれてでも」
「どうして?」
「なんかこの世界にいても、この先いいことない気がして」
「もういじめられないだろ?」
「そのことだけじゃなくて、異世界に行って、一からやり直したい的な」
「キララもそうなのかな」
「えっ?」
「親には絶対言うなって言われたんだ、異世界で生きてること。あいつんとこ両親とも医者だから、いろいろプレッシャーとかあったのかな」
「そのことリズムさんには言ってました?」
「言わないよ、あいつは。そういう奴だよ」
俺はアイスコーヒーを飲み干して、ドリンクバーに飲み物を取りに行こうとした時に、LINEが届く音がした。
「彼女さんからですか?」
「キララでいいよ」
俺がスマホを見るとキララからのLINEが届いていた。
開くとこんなメッセージがあった。
『私、村の長になったよ。そしたらお城から侍従が来て、王様が呼んでるって。行った方がいいかな』
俺はカメにそのメッセージを見せた。
「キララさんが城に呼ばれたってことは、何かありますね。王様に頼まれごとをされるとか。モンスターを倒してきてくれとか」
「やべえ橋じゃん」
「やべえ橋しかないんですよ、異世界には」
「もし、キララが本当にやべえことになったら、俺行くわ、異世界」
「その前に、僕に行かせて下さい。本当に行けるのか、試す意味で。リズムさんはキララさんとやり取りしないといけないし」
「カメ、いい奴だな」
「トラックに轢かれなくても、ビルの5階から飛び降りれば、そのくらいの衝撃にはなると思うし」
「それ、自殺じゃん、ただの」
「もし地面でぐちゃってなってたら、異世界に行けなかったと思って下さい」
「カメの、ぐちゃは見たくないな。生理的に」
「言い草ひどいな。でも、そこに死体がなかったら」
「なかったら」
「僕が異世界に行ったと思って下さい」
「ぐちゃ、なしだからな。ぐちゃ、したらもう口きかねえから」
「ぐちゃ、したら、ぐちゃぐちゃになって、しゃべれませんから!」
「ぐちゃぐちゃ、うるさいわ!」
その時、LINEがまた届いた。
『お城に着いた。頼まれごとをされた』
キララはやばい橋の上にいた。
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