第11話 ちょっと何言ってんのかわかんない

「てめえ、学年下のくせに、よくやってくれたよな」

こっちの世界もラスボスが出てきた。


俺たちのいるファミレスに、昼間カメを助けた時に、ボコった奴が仲間を連れて入って来て、駐車場まで連れて行かれた。

奴らの仲間は10人ほどいた。


俺はカメをかばうように、背後に隠した。


「リズムくん、やばいよ、やばいよ。相手の人数多過ぎだよ」

「いま、ちょっとだけ出川のマネしたろ。あのなぁ、人数じゃねえんだよな、こういうの。このラスボスみてえのがどれだけ強いかなんだよ」


「なんか半グレの下っ端みたいなことしてるらしいよ」

「下っ端か。なら大丈夫かもな」


「てめえら、何ごちゃごちゃ言ってんだよ!」

そいつはいきなり殴りかかってきたので、それを避けて、一発股間に蹴りを入れてから、鼻っ柱に正面から拳を打ち込んでやった。鼻折れたんじゃね? これマジ痛いのよ、やられたら。


そいつは一発で心が折れたように見えた。俺は腹にパンチを入れ、うずくまりそうになったところを、その天パかどうかわからない、もじゃな髪をつかんで、ひざで顔面を打った。そいつは白目を向いて倒れた。


「よお、まだやるか? 昼間言ったこと覚えてねえか? 俺は彼女が死んで、もういつ死んでもいいんだよ。だからここにいる全員ぶっ殺して、家族も全員ぶっ殺して、妹犯して、母ちゃんも犯して、婆ちゃんは勘弁してもらって、家に火ぃつけてやるって言ったよな。言ったことは必ずやるからな。それでもやるなら来いや」


全員が顔を見合わせて押し黙っている時、少し引いた所にいた奴が、無言でナイフを出して俺に向かって来た。腹の辺りで持ち、体ごと俺にぶつかる気だ。殺ることに慣れたやり方だった。


油断していた。

もう誰も俺にかかって来れないと思っていた。


でもやべえ奴は、静かにひっそりといる。


なんだかそいつの動きと俺の動きがコマ落としのように、パラパラマンガのように、ゆっくりとなった。


死ぬのだ。

俺は、ここで。


その時だ。俺の背後にいたカメが俺の前に出て来て、その体でナイフを受け止めた。


ぐはっ、カメが口から血を吐いた。


カメ……カメ……カメっ!

俺は倒れそうになったカメの体を受け止めた。ナイフが刺さったままだ。そっとカメを路上に寝かせて、逃げようとしたその男のえり首をつかまえて、


顔面を殴った。俺は殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って、

そいつが気を失うまで殴った。


いや、こんなことよりやることがあった。

俺は警察と救急に電話をかけた。


俺はカメの体を抱き寄せて、

「カメ、ごめんよ。俺をかばって」

「いいんですよ、僕こそあいつらから助けてくれてありがとう」


「いいからもうしゃべるな。すぐに救急車が来るから」

「一緒に旅したかったです」

「旅? 旅って言ったよな。足袋でも荼毘(だび)でもねえよな」 

「ちょっと何言ってんのかわかんない」


そう言うとカメの首がガクッと垂れた。体中の力が抜けていく感じだ。おい、死ぬのか、カメ。最後の言葉がサンドウィッチマンみたいなのってなんだよ。


そんな死に方あるかよ。

サンドウィッチマンみたいなこと言って死ぬなよ。

なあ、カメ。かめよぉっ!


パトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。

俺はカメを抱えたまま、カメの最後の言葉を思い浮かべていた。


「ちょっと何言ってんのかわかんない」




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