第12話 人生はロープレだよ

人が死ぬってめんどい。


警察官に状況を説明したり、救急車に乗って病院へ行ったり、カメが顔に布を掛けられてるのを見たり、カメの両親が駆けつけて泣いたり、父親が俺を犯人だと思って殴りかかって警察官に止められたり、


翌日、警察に行って目撃者として捜査に協力しなきゃならなくなったり。


そんなこんなで夜中になってしまった。

もう帰っていいってことになって、未成年なので警察官にパトカーで送ってもらって、母親を叩き起こして家に入った。警官が母親に事情を説明した。


警官が帰ると、母が「あんたの周りで人がよく亡くなるね。もしかしてあれ? ジッちゃんの名にかけて?」

「違えわ。金田一の孫じゃねえわ」

「なら殺人鬼? 殺人鬼なの? 美しいことだけが取り柄の平凡な主婦の子供が殺人鬼って、ドラマね、深夜枠ね」

「なんかツッコむとこ、いっぱいでめんどいわ」


「お友達だったの?」

母が急にマジな顔を作って言った。情緒不安定は母譲りだ。


「うん、あ、いや違うか」

俺をかばって、刺されて死んだのに、カメに対して友達感がない。悲しいけど、涙が出そうだけど、友達ではなかったという現実感。


いいではないか、もう友達で。亡くなったんだから、二階級特進だ。知り合い→仲間→友達。


でも友達だったら一緒に旅に行きたかったと死ぬ間際に言われても、微妙な気持ちにはならなかったはずだ。


人との距離感は難しい。

カメ、俺との距離感を間違えたまま死ぬなんて、哀しい奴だな。俺も哀しい奴だが。


「メシある?」

「ああ、チンして食べな。肉だよ、ステーキだよ、血のしたたったレアだよ。今夜は肉祭りだよ!」

また情緒がおかしくなってる。


「そんなもん食えるかよ! 人が刺されて血がドバドバ出てるの見たっていうのに」


「ドバドバって、イマドキ使うの恥ずかしい擬音だね」


「人が亡くなった夜に、擬音にケチつけるなんて、ケダモノの所業だな」


「ああ、ケダモノだよ。これから交尾してやるからな。すげえ声出して。じゃあお前は、カップ麺でも食べて寝な。そして朝まで意識を失くしてろ」


「言い方、おかしいだろ! あっ、オヤジは?」

「寝てるよ、頭を強く打った人みたいに大いびきかいて」

「比喩が縁起でもねえな」

「じゃあ母さん寝るから」


母は夫婦の部屋に入って行った。今夜あの部屋から交尾してる声が聞こえたら、ベッドの下からチェーンソーで真っ二つにしてやろうと思う。

夫婦で重なったままで、真っ二つに。


重なったままってエロな。親のそういうのって考えたくもねえわ。


俺はキッチンでお湯を沸かしてカップ麺を食べた。


今日は疲れた。さて寝ようかと思った時、LINEが届いた。

キララからだった。


『なんか陸ガメみたいなデカいのが来たよ。なついてきたから仲間にした』


写真が一緒に届いた。俺はそれを見て驚いた。

その大きな海ガメは、アディダスのリュックを背負って、ユリナに甘えるように頭をなでられていた。


カメだ。カメがベタに亀に転生したのだ。


すげー、異世界にいるよ、カメ。死んでねえじゃん。良かったな、サンドウィッチマンみたいなセリフが最期の言葉じゃなくて。


『そいつ俺の知り合いだった奴だよ。たしかリュックに充電器が2つ入ってるはずだけど』


『うん、調べたら入ってた。あとなんだかすごく懐かしい教科書も入ってたから、すぐ焚き火にくべて焼いた』


懐かしいと書くなら、すぐ焚き火にくべずに、ページでも開いて懐かしめよと思う。


『スマホはなかった?』

『なんか転生する時に服が消失して、ズボンのポケットに入れてたからなくなったって。あ、しゃべれるようにしてもらったんだ。ユリナに魔法かけてもらって』


『そうか、じゃあ、「ちょっと何言ってるかわかんない」って伝えて』


ちょっと間があった後、

『伝えたけど、ちょっと何言ってるかわかんないって、さ』


覚えてないんか、自分の末期の言葉を。ちょっと恥ずかしい思いをさせようと思ったのに、ガッカリだ。


『あと、なんで俺と旅したかったって言ったの? って聞いてみて』

『異世界を一緒に旅したかったんだって』


そうか、別に俺と一緒に北海道をヒッチハイクの旅したかったわけじゃなかったんだ。引いちゃってごめんな。


『あ、俺そいつのことカメって呼んでたけど、なんて呼ぶの?』


『ユリナがチンコって名付けようとしたから、止めた。とても神聖な名前なのにって、舌打ちされたけど。じゃあ私もカメって呼ぶわ』


『うん、そうして。あ、魔王はどうなった?』

『うん、やば過ぎる奴だから、一度城に帰って来た、ドラゴンに乗って。そしたらカメが現れた』


『また戦いに行くの?』

『うん、あいつを倒さないと次に進めないしね』

『ロープレみたいだな』

『人生はロープレだよ』

『名言みたいに言うな』


キララとのやりとりはそれで終わった。

カメは異世界に行ったんだな。ごめんな、カメ。一緒に異世界の旅に行けなくて。

北海道ヒッチハイクの旅だったら断ってたけどな。



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