第13話 ぶっそうだよな

翌日、学校が終わったら警察署に寄らなきゃならない。友達の猿橋に「お前、行ってくんない、マックおごるから」と、バカになって、フッたら、


「おお、行く行く」と乗り気になった。

バカは天井を突き抜けていくのだ。


学校の前にはテレビの取材クルーのワゴン車が何台も停まってる。女子校生がトラックにはねられて行方不明になった次は、いじめられっ子が刺されて死んだ。


なんて学校だ。ワイドショーのトップニュースを取りに行ってるとしか思えない。


未だにキララは見つからないし、その上、カメまで殺されて、しばらくは巷にはこの学校のニュースが続くだろう。


学校が終わり警察署に行くと、

おっさんの担当官に事件当日の流れを聞かれた。どういう経緯でカメは殺されたのか。


俺は数日前から、いじめられてるカメと知り合って、カメを助けたら、そいつらが仲間を連れてきて、俺が主犯格をボコったら、脇役がナイフを持って刺してきたから、それをかばってカメが刺された。


そんな流れを説明した。


「なんで亀井さんがいじめられるようになったかは知ってますか?」


「知りません。すぐそこにいじめがあったから、なんか助けようとしただけで、いじめられてる理由には興味がなかったです。


川で溺れてる人に、なんで溺れてるのか聞いてから助ける人はいないと思うし」


「そういう事例はありますよ。川のほとりから溺れてる人に向かって、なんで溺れてるんですか、なんで溺れてるんですか、って聞きながら、川に流されていく人と、同じ速度で走って、救助しないで、亡くなってしまった事例が。


その人は溺れてる理由が聞けたら、助けたのだと思われます」


怖い。そんな人は、怖い人だ。そんな怖い人を事例に入れてはいけない。


「あの亀井さんを刺した宮前って男は、まあおしゃべりな男で、取り調べ中もずっとしゃべっていて、殺人事件の本筋と違うことまで、ドバドバしゃべってて、取り調べ官もあきれてましたね」


ドバドバって言った。

聞くと確かに恥ずかしい。

でも俺は母みたいに指摘はしない。


でもカメも殺されるなら寡黙な奴に殺された方が引き締まったと思う。おしゃべりな奴に殺されると、ゆるむ。Tシャツの首がデロデロにゆるむ。



一応、聴取も終わって、俺は警察署を出た。

友人の猿橋に電話して、腹減ったから、マックでも行かねえか、と誘った。


「行く行く」と言った。


見事な、二つ返事だ。

二つ返事のお手本として、声に出して読みたい日本語だ。行く行く。


駅前のマックで、ビッグマックセットの載ったトレイを前に席についてると、

同じようにビッグマックセットをトレイに載せた猿橋が俺の前に座った。


「また災難だったな。今度は友達か」

まだ友達の途中だったけどな、と言いかけてやめた。

「ああ」

「最近、ぶっそうだよな。ナイフとかで武っ装してる奴とかいて」


「なんで今、小さい『っ』を入れた?」

「なんだよ、なんで酢豚にパイナップル入れた? みたいな責めるような言い方して」


「いや、ゼッタイその例えは違う」

「ちっちゃい『っ』を入れたのは韻を踏んだんだ」


「いや、ダジャレだ。いいように言うな」

「まあいい。お前も色んなことがあって混乱してるんだ。韻を踏んだのをダジャレと思うくらい許す」


「話進まねえから、それじゃ」

俺はビッグマックにかぶりついた。腹が減っていた。ポテトも野菜生活も全部平らげた。


猿橋も負けずに、俺より5秒早く平らげた。

そして『待たせやがって、この野郎』という顔をした。ガン無視した。


その時、LINEの音がした。

スマホをポケットから出した。キララからだ。


「誰からだよ、女子か? 毛の生えた女子か?」

「どんな表現だよ、キメえな。また母親からだよ」


その時、奴の右手が見えない速度で動いた。タネを見せないために必死な、ダサいマジシャンの動きだ。でも俺のスマホは、もうマジシャンの手の中にあった。


スマホの画面を見て、猿橋は初めて火を見た時のサルのように驚いていた。


「これ、キララからのLINEか?」

俺は猿橋にすべて話すことにした。猿橋は一応は友達だ。カメとは違う。


「うん、キララは生きてる。トラックにはねられて、異世界まで飛ばされたけど、まだ生きてる。それでLINEのやり取りを続けてる」


「異世界からLINEが来るのか? どうやって」

「わからない。通信会社が頑張ってる」


「異世界にauはねえ! つか、このことキララの親は知ってんのか?」

「キララに口止めされてるから言ってない」


「そうか、キララはなんて言ってきたんだ?」

「待ってろ、開いてみる」


俺はLINEを開いて、キララからのメッセージを見た。


『やばい、魔王たちに囲まれた』


それを読んだ猿橋が「何これ、どう言う意味だよ?」

「キララと仲間のドラゴンと魔法使いで、魔王を狩りに行ったんだ。でも逆にやられそうになってる」


「マジか。異世界って、本当にそんなんなんだ」

「そんなんなんだよ」


その時、マックの前の通りに一台のベンツと黒いワゴン車が二台止まった。


降りて来たのはいかにも半グレっぽい格好の集団で、まっすぐにマックに近づいて来た。

やばい、俺たちも囲まれる。


俺はすぐに『全員で魔王を倒すことに集中するんだ、ザコは見るな』それだけを送ると、


「猿橋、裏口から逃げろ。半グレにやられっぞ」

猿橋は窓の向こうに見える奴らに目をやった。


そして一つため息をついた。

「お前を置いて逃げたら、一生言われそうだからな。ぶっそうだよな、ナイフで武っ装してって、

ダジャレ言ったって」

「言うかよ、バカ」


俺たちは身構えながら、奴らが店に入って来るのを待った。









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