第14話 俺、超能力が……

俺たちは黒いワゴン車の後部座席に乗せられた。

俺たちの両端には屈強な半グレが座っている。

俺も猿橋も後ろ手に手錠をされていた。


でも俺はゴムゴムの実を食べているから、こんな手錠すぐはずれる。うそだ、関節が異様に柔らかいのだ。


でも猿橋はダメダメの実を食べているからダメダメだ。一発顔面を蹴られただけで、目の周りに青タンを作ってうなだれている。


一発入れられる前に、百発くらいあいつらを殴ったくせに。


「あの埠頭の倉庫に向かってるよな」

運転してる金髪の奴が言った。ベンツの後を追って走っている。


俺の左隣の奴が、

「どうだろう、山に埋めるかもしれないな。俺たちも結構やられたし」


確かに俺たちは多人数相手に、2人で結構奴らを殴った。

マックの前の道路は一瞬でニューヨークのやばい通りみたいになった。


俺と猿橋で半分の奴らはぶっ倒したと思う。

だがやはり、多人数にはかなわない。


ダメダメの実を食べた猿橋が、半グレのリーダー格のスキンヘッドで首にタトゥーを入れてる奴に、顔面に蹴りを食らった時点で、勝負が決してしまった。


俺たちは捕まえられて後ろ手に手錠をはめられて、ワゴン車に押し込まれたのだ。


「でもあの山はやばいんじゃねえか。霊が出るって有名だし」


すると猿橋の隣の奴が、

「あ、俺のダチのダチも見たって。オムツを履いたおじいさんの霊だったってよ」

「それ徘徊老人じゃねえのか」

「たしかに、うんこの匂いがしてたってさ」

「マジ徘徊老人じゃん! 幽霊はそんな匂いしねえよ。きれい好きだし」

「そうなのか? 風呂とか入るのか?」

「知らねえよ、幽霊見たことねえし」


「そうだ、ダチのダチのダチも見たって。ニワトリの着ぐるみ着たおばあさんの霊だってよ」

「幽霊が着ぐるみ着るか? それも徘徊老人じゃねえのか?」

「お前、幽霊に対しては懐疑派だな」

「お前のダチのダチのダチが見た幽霊に対してだけだよ」


「じゃあ俺のダチのダチのダチのダチが見た……」

「どんだけ、『ダチ』増やすんだよ。余計信憑性なくなるだろうが」


「聞けや、そいつはその山に大きなタマネギみたいなのが埋まってて、それを引っこ抜いたら派手な服着たババアだったんだって」


「徹子だろうが、それ。黒柳徹子。まだ死んでねえし。死ななきゃ霊にならないっていう、前提さえ覆してるだろ」


俺の左隣の奴が、

「じゃあ、俺のダチのダチのダチのダチのダチの」

「どこまで言うんだよ、ダチを。そんなの他人だろうが」


「聞けよ。そいつが見たのは、『母さんや』って、しわ枯れ声で言う霊で」

「大泉成な」

「平泉成だよっ!」

そいつが運転席のシートの背を思いきり殴りつけた。


「お前、キレんなよ、平泉成なんかのことでよ」

「俺がキレるのは平泉成のことだけなんだよ!」

「他でキレろや」


<ほんと聞いてらんねえな>


えっ、俺の頭に誰かが直接話しかけてくる声がする。


<おい、俺の声聞こえてるだろ>


猿橋だ、猿橋の声だ。


<俺、超能力使えるから。しゃべらなくても、思ってることを伝えられるんだよ>


マジか。じゃあ、俺が思ってることはわかるのか?

この金髪の運転手つぶして、車乗っ取ろうぜ。


<俺、超能力が使えるから。しゃべらなくても、思ってることを伝えられるんだよ>


なんで同じことを2回言うんだ。

だからこの金髪の運転手つぶして、車乗っ取ろうぜ。


<俺、超能力が使えるから、しゃべらなくても、思ってることを伝えられるんだよ>


意思の疎通が出来ねえじゃねえかよ! 思ってることを伝えるだけじゃ、なんにもならねえんだよ、世の中。女子に一方的に告っただけで相手の返事が来なかったら、蛇の生殺しなんだよ! 俺の例えもどうかと思うが。


<俺、超能力が使えるから、しゃべらなくても、思ってることが伝えられるんだよ>


4回だ。もう4回もだ。やめてくれ、もうやめてくれ。頭の中に直接、同じことを4回も言うのは拷問だ。


<俺、超能力が使えるから、しゃべらなくても、思ってることが伝えられるんだよ>


5回だよ、ねえ、もう5回だよ。

もう限界だ。


<俺、超能力が……>


俺は頭の中に直接話しかけられたくない一心で、

後ろ手にかけられた手錠を、背中からぐるっと前に回して、運転席の金髪の首に巻きつけた。


「もう猿橋勘弁してくれ。もう頭に直接じゃなくて俺に話しかけてくれ。それと運転してるお前っ! そのままアクセルを目一杯踏め。ベタ踏みしろ。


ちょっとでも緩めたら、絞め殺すぞ。他の奴もちょっとでも動いたらこいつ絞め殺すからな。

そしたらこの車、前のベンツに突っ込むからな。みんな死ぬぞ」


<俺、超能力が……>


「だから直接しゃべれや、猿橋さんよぉっ!」


俺は思わず手錠で金髪の首を思い切り絞めてしまった。そいつは失神したのか、手錠を首からはずすと、うなだれてハンドルに倒れ込んだ。アクセルを踏んだままっぽい。やばい。


車は猛スピードで、前のベンツに急接近し、

豪快に追突した。その衝撃で両サイドの窓ガラスが割れ、窓際にいた半グレ2人は、窓の外に投げ出された。


俺と猿橋は横倒しになったワゴン車から這い出して、前のベンツに向かった。ベンツの後部はぐしゃぐしゃに潰れていた。


キララ、全員で魔王を倒せば、ザコは逃げる。

俺も魔王を狩らなきゃ。


そう考えながら、頭から血を流してベンツから出てきたスキンヘッドと対峙した。








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