第15話 チャカカーン

スキンヘッドの背後には3人の半グレがいた。 

他の奴らは、さっきの事故と、マックの前での乱闘で役に立たなくなったのだろう。


スキンヘッドが首のサソリのタトゥーをポリポリと掻いた。

かゆいのか、そのサソリの部分が。

どれだけかゆいのか気になる。


たまらないくらいかゆいのか。犬が地面に背中をこすりつけるくらいかゆいのか。昔、目の裏がかゆいから、掻こうとした奴がいたな。指を目の中に入れようとして。気持ち悪っ。


「何、見てんだコラッ!」

スキンヘッドがすごんだ。


「お前がサソリのタトゥーを指で掻くから、いろいろ想像しちまっただろうが。気持ち悪っ。責任取れや」

「気持ち悪ってなんだよ。これはサソリじゃねえ。スコーピオンだ」

「スコーピオンはサソリだ」

「サソリじゃねえ。スコーピオンだ。ギリシャ語では、Σκορπιόςだ」


「なんだよ、読めねえこと言うなよ。頼むよ、ギリシャ語で言うなよ」


<Σκορπιός>


猿橋、おめえまで読めないことを、頭に直接話しかけてくんなよ!


<俺、超能力が……>


「うるせえよ、おいっ!」

「なんだこらっ!」


俺は猿橋に言ったのに、スキンヘッドが激昂して、殴りかかってきた。パンチがすげー速い。ギリで避けた。


スキンヘッドの背後にいた奴らが金属バットを振り上げた。俺はその腕にハイキックして金属バットを落とさせた。


路上に転がったそれを拾った。

俺は金属バットを手に入れた。

勇者がコンボウを手に入れた、みたいに。


<俺、超能力が……>


「だから猿橋うるせえよっ!」


そう言って金属バットを元の持ち主の頭に振り下ろした。コンボウよりも効いたようだ。そのまま倒れ込んでそのまま動かなくなった。


ただのしかばねのようだ。


俺は手錠をしたままの猿橋に金属バットを放り投げた。猿橋は両手でつかんで、もう1人の半グレの舎弟を殴り倒した。


これで魔王に集中できる。そう思った時、銃声が鳴り響き、弾がボコボコになった車にめり込んだ。


「遊びは終わりだ。1人ずつ殺るぞ」


スキンヘッドがそう言うと、また首のスコーピオンをポリポリと掻いた。あ、スコーピオンって言ってしまった。サソリだ、サソリ、あんなものは。でもまだかゆいのか。どんだけかゆいんだ。どうすればいい。キンカンでも塗るか?


「なんだビビっちまったか。チャカを見て」


そうじゃない。お前がサソリを掻くから、見入ってしまったんだろうが。それにチャカって言うな。


うちのオヤジが、♫チャカカーン、チャカカーン♫って、昔の曲を聴いてノリノリで踊るのを思い出してしまう。ハゲてデブったオヤジが。


でも、今はそんなのんきな状況ではない。


「まずはお前からだ」

スキンヘッドは俺にチャカカーンを向けた。 

しまった。チャカカーンじゃなかった。

思わず吹き出しそうになったじゃないか。


スキンヘッドが引き金を引いた。

俺に当たらないことはわかっていた。さっき撃った弾が全然違う方向の車に当たった時、こいつには射撃の腕がないと。


弾は俺からそれて、俺は瞬時にそいつの腕を取ってねじり上げ、チャカカーンを落とさせた。それを蹴ると、猿橋が足でハゲて太ったチャカカーンを踏みつけた。


違う。


ハゲて太ったチャカカーンはオレのオヤジだ。

猿橋が踏んだのはチャカだ。


「これで勝負あったな」

俺はねじり上げた腕に力をMAXに入れた。

ゴキッと腕が脱臼する音と、スキンヘッドの悲鳴が同時に響いた。


路上で痛みのせいでネズミ花火みたいに、もがき苦しみながらくるくる回っているスキンヘッドを見ながら、


猿橋の手にかけられてる手錠を、いくつかの関節をはずして、取ってやった。


そして俺はGoogleマップで現在地を調べて、警察に電話をした。


俺たちは魔王を倒したぞ。

キララたちはどうなっただろう。


その時、俺のスマホにLINEが来た。見るとキララからだった。


『魔王を倒したよ。カメ大活躍だった』

そっか。キララも倒したんだ。


パトカーのサイレンが近づいてきた。

ハゲて太ったチャカカーンは、まだ猿橋に踏みにじられていた。


いや、ただのチャカだ。






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