第16話 肛門

その半グレ集団の『月のしずく』って名前、銘菓かっ!それを2人で壊滅させた俺と猿橋は、学校が終わって肛門を出た所で、ビクッとした。


肛門の前にベンツが乗り付けてあったのだ。

なんだあいつら復讐に来たのか?


するとベンツから出てきたのは執事みたいな黒服のお兄さんで、肛門から出てきた俺たちは、丁寧に話しかけられて、ベンツに誘(いざなわ)れた。


俺と猿橋は肛門の前で……って、ずっと間違えてるじゃん。校門な。校門。


肛門から出てきた俺たちってなんだよ。


ベンツに乗り込むと、助手席に誰かが座っていた。

その30代半ばくらいで、髪の裾を刈り上げて、少し長めの前髪をまだらにグレーに染めた男がこっちを振り向いて、


「『虹のかけはし』の代表をしてる恩田です」

そう名乗って俺たちに名刺をくれた。


月のしずくとか虹のかけはしとか、銘菓ばっかだな。


「あの月のしずくを2人だけで潰したって、すごいね。あそこは俺の配下なのに、俺の意向を無視して勝手なことばかりしてくれてたから、良かったよ」


目の上にえぐられたような傷があり、落ち着いた話し方と笑顔に、尋常じゃない圧があった。かなりやばい人なのだろう。そうだ、俺たちはこの人の犬になろう。


「それでキミらにあいつらが仕切ってた賭場を任せようと思う。システムはあそこのマネージャーがすべて把握してるから、キミらは用心棒みたいなことをして欲しい。報酬ははずむ。どうだい、やってみるか?」


「わん!」

「わん、わん!」

俺も猿橋も二つ返事でその話に乗った。

やばそうな橋は戻れないように崩されていくのだ。前に進むしかない。


「じゃあこれから賭場に連れて行くけど構わないか?」


「わん!」

「わん、わん!」


「よし。片倉、車を出してくれ」

「わん!」


そして恩田さんと犬たちを乗せたベンツは、この街一番の繁華街で、その中でも治安が最もやばい一角にある雑居ビルの前で止まった。


俺たちはそのエレベーターで、ビルの5階にある賭場に行った。扉を開けるといろんな機械音が混ざったような爆音がした。


賭場というから、カジノみたいなのを想像していたが、パチスロ台しかなかった。


「ここは1枚千円のコインで遊んでもらってる。まあ熱くなると破産する奴も出るな」

と恩田さんは言った。


<カイジだ。カイジの世界だ>


この爆音の中で、猿橋が俺の頭に直接話してきた。


うるせえな。誰でも思うような感想言うなよ。


<俺は超能力が使えるから……>


しつけえよ。


「お前たちは奥の事務所でモニターを見てるだけでいい。後はマネージャーの奥寺がすべてやるから」


いつの間にか恩田さんの隣にカジノのディラーが着てるようなスーツを着た、僕らより少しお姉さんな女の人が立っていた。


「奥寺です。よろしくお願いします」

一礼をすると、彼女は長い黒髪を指でかき上げた。


<いえいえ、こちらこそよろしくお願いします>


猿橋、なんで俺の頭の中にそれを直接言うんだよ。

バカなんだ。バカボンよりバカなんだ。

バカバカボンだ。


「はい、俺が入来奏夢(いりきりずむ)で、こいつが猿橋糞之助です。何もわからないので色々と教えて下さい」

「わかりました」

奥寺さんが笑った。


かわいい。


俺の心の声ではない。猿橋の心の声だ。

なぜ俺の頭の中に直接言う、それを。


「じゃあ、俺は別の賭場を見て来るから」

恩田さんはそう言って賭場から出て行った。


俺たちは奥寺さんの案内で奥の事務所に入った。

そこには机がいくつか置かれていて、画面が8分割されたモニターが3台置かれていた。


「モニターで店の隅々まで見張れるようにしてありますから。あ、私はちょっとトイレの掃除して来ちゃいます」

 

<はい、わかりました>


猿橋うるせえよ。テレパシーで言うなや。


「はい、わかりました」


俺は分割されたモニターを眺めた。

意外とスーツ姿のまともな人が多い。

ある程度信用のある人しか入れないのか。

前歯がない人とかは、入り口で止められてしまうのかもしれない。


でも負ければ破産することもあるって言ってたな。

まじめな人がギャンブルで破産するって、怒りながら笑う人と同じ類いな気がする。どこかおかしいのだ。


その時、LINEが届いた音がした。

見るとキララからだった。


『王様から100万ゴールドもらったんだけど、お城のカジノで全部負けちゃったんだよね。破産だよ』


異世界にもあるんだ。

その城のカジノって、運営は城の人だろうから、キララたちにあげたゴールドを最初から吸い上げるつもりだったのだろう。


『何をやってそんなに負けたの?』

『パチスロ』

異世界とこの世界は地続きだ。















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