第45話 奇跡の電球

それからもキララからは写真が届き続けた。


どれも武郎と真中名さんが腕を組んだり、キャバクラらしき店で酒のグラスを前に談笑してたり、

真中名さんのブラを取って武郎がそれに顔を埋めて匂いを嗅いでいたり、それを笑いながら見てる真中名さんがいたり、


どういうことだ? これは?


キララからメッセージが来た。


『わかったでしょ。真中名さんはあなたのお父さんをカモにしたの。いくらかわからないけど、多額のお金を貢がせたの。私は真中名さんの本性を知ってたから、リズムに近寄らせたくなかったの。だってお父さんはその女のせいで死んだんだよ。リズムは許せるの? そんな女を』


俺はそのすべての写真をスクロールして、真中名さんに見せた。


「なんで俺のオヤジとキミが一緒に写ってるわけ?」

「それは……」

彼女はうつむいた。

もうすっかり彼女の輝きも、ダイニングキッチンに、あんなにきらめいたダイヤモンドダストも消えていた。


その時、気づいた。

DNAだ。


俺がメガネをはずした彼女がまぶしくて下敷きやタッパーのフタ見られなかったように、武郎も彼女にきらめきを見たのだ。トキメキを感じたのだ。ダイヤモンドダストを見たのだ。


DNAのDはダイヤモンドダストのDだ。

Nはなんだ? 

今の俺に思いつくのは、なんだって? のNだ。

それじゃあ、Aは?


俺に思いつくのは、あんだって? のAだ。


なんだって? と、あんだって? だ。

どちらも、ふざけんなよってことだ。


「どうしてうちのオヤジに貢がせたんだよ、3000万も。うちのオヤジの最後、知ってるか? 知らねえよな。臓器を全部売り飛ばされて、


両目もくり抜かれて、竿も睾丸も取られて、その死体が入った袋を、俺は何も知らずにお姫様抱っこしながら運んだんだぜ。その気持ちがお前にわかるかよ」


誰にもわからないよな、竿と睾丸取られた父親をお姫様抱っこするなんて、マニアックな気持ちなんて。わかる奴いるかな、どこかにいるかな、そう思うとそいつに会いたくて心が早る。なんで早るんだよ。


「ごめんね」

そう言って、彼女は涙をこぼした。

もう、与田れだよ、とか、猿に似てるさ、なんて回文では、彼女のことは呼べないな。


敵(かたき)来たか?

そうだもうこの女は、敵来たか、だ。

来たかって、意外と名前っぽいな。


「最初は中学の時の友達にキャバクラのバイトを誘われたの。その子は中学2年の時に、半グレの高校生集団に輪姦(ま)わされて、最後には電球までアソコに入れられて、それでグレたの。そりゃグレるよね、アソコに電球なんか入れられたら」


こんな所で電球がリンクした。

奇跡だ。


「それでその子は高校も行かずに、見た目も大人びてたから、キャバ嬢になったの。その子とはなぜかずっとLINEしてて、私んちって私を大学にやるお金もないから、学費を稼ぎたかったの。それでキャバやりだして、その時に初めてついたお客が入来武郎さんだったの。


名刺もらって、顔をよく見たら目が入来くんに似てて、さりげなく聞いたら高校生の子供がいるって言うから、私、確信したの。入来くんのお父さんだと。


私はその頃も今もずっと入来くんのことが好きだったけど、ずっと姫来がいるから、割り込めないし、

だからお父さんと仲良くなったら、そのうち私の正体を明かして、入来くんともっと近づけるかなって。


お父さんも私がメガネを取ると、まぶしくて見れないからって、書類ケースで遮りながら私を見てた。


私が初めて入来くんの前でメガネをはずした時、お父さんと同じように下敷きにかざして私を見てたから、やっぱり親子なんだなって思った。


武郎さんは私の学費のこととかの悩みを親身に聞いてくれた。医学部に行きたいって話も。私はずっと姫来がうらやましかった。学費の心配もなく、親の援助で医学部に行って、医者になれる姫来を。


私も同じ境遇になりたかった。

武郎さんはそんな私の夢を聞いて、俺が叶えると言ってくれたの。武郎さんが私にくれたのは2000万だった。

その2000万をどうやって工面したかはわからない。


でも闇金とかからも借りて、借金が2000万から3000万にふくらんだとしたら、みんな私のせい。


私は武郎さんにどうやってお礼をしていいかわからなくて、一度だけ抱かれた。私は初めてだった。

本当は入来くんが良かったけど、こんなにも良くしてくれた武郎さんが初めてで良かったんだと思う」


俺はそこまで聞いて、敵(かたき)が来た、の言うことは嘘じゃないと思った。ハゲタカみたいにたかるほど、いや、この例えは嫌だ。オヤジはハゲかけてたから、ハゲたか? に聞こえるし。


でもめんどいから、ハゲたか? みたいにたかるほど、悪い奴には思えなかったし、にしておこう。


武郎はキャバクラに通う費用や、カードローンや闇金の金利が膨らんで、3000万になったのだろう。


「それでその晩、武郎さんに一度抱かれて、まだ足りなかったのか、すぐ勃起したからもう一回して、なんだかまだ物足りなかったのか、武郎さんが持参して来たバイブやら何やらを私の中に入れたの。


大根やら人参やらなすびやら、そして電球まで」


電球がまたリンクした。

奇跡ではなく、必然だったのだ。

母は知っていたのだ。武郎が浮気相手のアソコに電球を入れたことを。それで自分も入れてみたのだ。そしてそれが破裂して、そのショックで死んだのだ。


これですべてがつながった。

つながるなよ、こんなクソみたいな話。


「私はこれ以上、武郎さんが私に貢いだら、ダメになると思ってお店も辞めた。そしたら噂で武郎さんが行方不明になったって聞いたの。気になって、何かわかるかも思って、勇気を出して入来くんに近づいたら、お父さん亡くなったって言ってたから、そこで知ったの」


それで俺に突然話しかけたり、カフェに誘ったりしたんだ。それなのにルチャ・リブレの店なんかに行くなんて。この女にぐちゃぐちゃなマスクマンのカフェラテ1800円をおごるなんて。

なんか怒りがわいてきた。


オヤジの3000万円より、俺の1800円の怒り。 


あ、なんか格言みたい、これ。


「言い訳とかできないね。全部、私のせい。

お金はまだあるから、入来くんに返そうと思う」


1800円はゼッタイ返してもらおうと思う。







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