第44話 どぶへど色
つか、キララから来たLINEのこと忘れてるじゃん。
『今、真中名さん来てるでしょ。あんなに近づかないでって言ったのに』
俺はそのメッセージを真中名さんに見せて、
「まずこの返事を返さないと。既読からずいぶん時間が経ったし」
「でも、このメッセージこそが姫来からじゃないと思わない? だって私が来てることなんて、異世界にいたらわからないでしょ。
入来くんのおばさんが持ってる水晶玉に、今の私たちが映ってるとでもいうの?」
母がアソコに水晶玉を入れて死んだんじゃなくて良かった。もしそうなら、この写真は真中名さんに見せられない。こんな大きなモノがアソコに入る母親の息子とは思われたくない。
いや、あんな大きくて硬いモノが入って、お腹がふくらんで、胎児の俺になって、鼻の穴からスイカを出すような陣痛の中、俺を出産したのかもしれない。母は偉大だ。
いや、違うわ。全然違うわ。
「多分、入来くんを尾行してた子がいるのよ。そのストーカーみたいな子が、このLINEを送ってるの。だからその子が本当にキララかどうか確認して」
「どうやって?」
「まずは、なんでそんなこと言うの? とか言ってみて。返事が来たらまた考えるから」
俺はその通りに送った。
『なんでそんなこと言うの?』
既読になって、すぐに、
『ユリナの魔法で、そっちの様子が見えるの』
真中名さんは、
「じゃあ、入来くんと私はどんな服装してるか聞いてみて」
『じゃあ俺と彼女はどんな服着てる?』
既読からしばらく間が空いて、
『リズムは制服のズボンにワイシャツと紺のネクタイ。真中名さんは紺のブレザーにチェックのスカート、胸元に赤いリボンをしてる』
俺たちの着てる服をピタリと当てた。
「見えてるんだよ。ゼッタイ。俺たちが制服でいるなんて、見えなかったらわからないよ」
「バカね。学校帰りに寄ったんだから、制服着てるの当たり前じゃない。多分、そう予想して言ったんだと思う。何か他の質問してみようよ」
「わかった」
俺は少し考えて、
『ごめん、たしかに俺と真中名さんは一緒にいる。母が亡くなったから、晩ご飯を作って持って来てくれたんだ。ただそれだけだよ。
で、真中名さんもキララが本物か疑ってる。異世界からLINEが届くなんてあり得ないって。だから、聞くんだけど、キララ、生年月日と血液型と星座を言ってみて』
キララのなりすましだとしたら、このくらい調べてるかもしれないが、これすらも知らなかったりごまかしたら、その時点でキララじゃない。
真中名さんもナイスという感じで、親指を立てた。
🤙。
🤙だ。
えっ、
なんかおかしな親指の立て方じゃね?
普通は👍だ。ゼッタイに👍だ。
でも彼女のはなんか小指を伸ばして、手の甲をこちらに向けて🤙してる。まるで昭和のおじさんが、後で電話してって、親指と小指を立てて口元に当ててるジェスチャーみたいに。
真中名さんはもの心ついてから、ずっとナイスとかイイね! を🤙で表現してたのか? なんかすごく、腑に落ちないというか、嫌だ。そんな、小指を伸ばして、イイね!をする人は。
そんなのはイイね! じゃなくて、後で電話くれ、だ。
うわー、すげー指摘してぇー、鬼の首取りてえーと思いながらキララからのメッセージを待った。すると返事が来た。
『なんでそんなこと聞くの? リズムまで私を疑ってるの?』
『そうじゃないけど』
『なら私だって信じてよ。真中名さんの言うことなんか信じないで。てか、私の生年月日も星座も、リズム知ってるよね』
『今、キララから教えて欲しいんだ。頼むから』
既読になってから、しばらく間があった。
そしてメッセージが届いた。
『2007年12月3日、いて座でAB型。これでいい?』
俺は真中名さんに、「キララのメッセージの通り、生年月日と星座と血液型は合ってるよ。キララなんじゃないかな」
「まだわからないわ、もっと姫来しかわからない質問とかない?」
「うん、初めて鼻くそをほじった指はどれ? とかは?」
「とかは? じゃないわよ。そんなの知ってるの?
姫来はそんなこと覚えてるの?」
「左手の小指だって。こんなの本人しかわからないよ」
「たしかにそうね」
でも、と思う。真中名さんも初めて鼻くそをほじったのは、小指じゃないかと。だから、イイね! のポーズの時に小指を伸ばしているのだ。その小指で、鼻くそをほじりたくてほじりたくてたまらないのだ。
もうヒクヒクするほど、ほじりたいのだ。
それを必死に隠して、🤙って、したのだ。
後で電話くれ、とか思ってごめん。
人生って切ないよね。
なんだよその帰結。
その時、キララからLINEが届いた。
メッセージではなく、写真だった。
その写真にはメガネをはずした真中名さんと、俺のオヤジの武郎が手をつないで、繁華街らしき所を歩いているのが写っていた。
なんで、真中名さんと武郎が?
俺は頭の中が、どぶへど色になった。
なんだよ、とぶへど色って。頭の中まっ白になれよ。
俺はその写真を真中名さんに見せた。
その瞬間、真中名さんの顔も、どぶへど色になった。
だから、どぶへど色ってなんだよ。何色なんだよ。
どぶに、へどって臭そうな色だな。
俺は真中名さんが話しだすのを、頭の中がどぶへど色になった状態で待っていた。
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