第43話 みんなが異世界で、元気に飛び跳ねてることを。

「どうしてキララからじゃないって、断言出来るの?」

「姫来は入来くんと友達になったからって、ヤキモチ妬くタイプじゃないよ。じゃなかったら、私に入来くんの家なんて教えないし。


それに私を近寄らせないでって、そこまで私を嫌う理由もないし。ホントに姫来とは、彼女が消えるまでケンカもしなかったし、仲違いもなかったの。


それに細かいことなんだけど」


「何?」

「入来くんのお父さんお母さんって、書いてるのが気になるの。私もだけど、入来くんの両親のことを、おじさん、おばさんって呼ぶでしょ。幼なじみだったら特に」


たしかにそうだ。キララは内臓をすべて摘出され、眼球をくり抜かれて死んだ父のことを、おじさん、人肌が恋しくてアソコに電球を入れて驚愕の顔をして死んだ母のことを、おばさんと呼んでいた。


そう考えると違和感がある。

言われるまでまったく気付かなかった。


「誰かがなりすましているんじゃない? 姫来を名乗って」

「でもキララの写真とかも載せられてるし」

「こんなの今、いくらでも合成も加工も出来るよ」

「えっ、このドラゴンとかカメとか猿橋とかユリナとかも?」

「うん。元の顔写真があれば」


これは合成なのか?


「それに下ネタが多すぎるよ。姫来がウンコチンコとか言う? 今までにウンコチンコとか、シコシコとか言ったことある?」


真中名さんは言うんだ。

ウンコチンコとかシコシコって。


「たしかにないよ。どちらかと言うと、俺が下ネタ言うと怒るくらいだから」


「そうだよ。死ね皮かぶりのクソ野郎とか、エキノホームのゲロとかゼッタイ言わないよ」


真中名さん、結構言うんだね。


「でもそうだとしたら、誰がこんな手の込んだことをするの?」

「多分、入来くんを好きな子だと思う。入来くん、モテるから」

「うそ、全然モテないよ」

「モテるってば。背も高いし、顔もわりとイケメンでしょ。それにいじめられてる人をかばったり、正義感も強いし」


そうなのか。俺って意外とモテるな。

モデルナじゃねえよ、ワクチンじゃん。いまワクチンチンとか言わせんなよ、モテてるんだから。

でも言いたいよな。言ってはいけないその大事な時に、チンチンって。


「でも誰だろう。そんなことする女子なんて思い浮かばないけど」

「きっとすごく下品な子だと思う。なに、シコネチンコユングチンココナチンコ•ユリナって。そんなチンコを3回も使う名前を考えるなんて、絶対下品な子よ。きっとアソコに電球とか入れてる子よ」

 

母さんのことは言わないで欲しい。


「本当に姫来かどうか聞きだそうよ。許せないよ、こんなことして。姫来になりすまして、傷ついた入来くんの心につけ込んで仲良くしようとして」


俺はふと思った。これがなりすましだとしたら、あの異世界は空想なのか?


「じゃあ、もしその子がなりすましだったとしたら、キララとかカメとか猿橋とか、うちの両親とかは異世界にいないってこと?」

「猿橋くんは行方不明じゃなかった?」


「反社の奴らに刺されて死んだんだ。今頃は日の出と日没が見える山の上に、丁寧に埋められてる」

「猿橋くん、亡くなってたんだ」


俺は最後に送られてきた、俺の両親がセンターになって写ってる写真を、もう一度真中名さんに見せた。


「この真ん中に写ってるのが俺の両親なんだ」

「えっ、そうなの? これ、入来くんのおじさんとおばさん? びっくりした。武器商人と占い師のコスプレした人だと思ってた。つか、おじさんも亡くなってたの?」


「うん、いろいろあってね。もし、真中名さんが言ってることが正しかったら、ここに写ってる人たちは?」


「亡くなってるの。異世界なんてないの。こんな風に別の世界で元気にやってるなんて、ありえないの。ごめんね、悲しいこと言って」


俺の心の中に、からっ風が吹いた。

キララロス、カメロス、猿橋ロス、武郎ロス、正恵ロス、それが俺の胸に一気に押し寄せて来た。


そうだよ、俺の周りの死んだ人がみんな同じ異世界に集まるなんて、そもそもおかしかったんだよ。


「入来くん、大丈夫? 落ち込んでるって顔に書いてあるよ」


また顔に書いてあるんだ。

⤵️

落ち込んでる。こんな角度に落ち込んでるのか。

書くなよ、顔に。こんな矢印。消さなきゃ、なんか油性のマジックも落とせるシャワーのノズルあったよな。あれ取り寄せるか、あれなら⤵️も俺の顔から消えるだろう。


「だって、だってさ、急に俺の周りの人間が5人も死んで、普通だったら落ち込むのに、みんな異世界に行って元気に死の魔人とかと戦ってるから、今までテンション保ててたんだよ。なんとかしのげてたんだよ。


それが全部嘘で、みんな本当は死んでいて、もう二度と会うことなんて出来ないって思ったら、俺つらいよ、つら過ぎるよ」


真中名さんは声を殺して泣いてる俺を抱きしめてくれた。そして頭を撫でながら、


「じゃあ、これが本当に姫来からのLINEだって確かめるんだって思えばいいんじゃない? 疑うんじゃなくて、確認するの。姫来は生きていて、みんなも異世界にいる。それが本当か確認するの。それならいいんじゃない?」


「うん。うん。それならいい」俺は鼻水を垂らしながらそう答えていた。鼻水は本当にちょうちんの形をしていた。夏祭りの屋台にぶら下げそうな。ぶら下げるか、そんなもん! 鼻水だぞ。鼻ちょうちんだぞ。汚ねえな。


ダメだ。俺の情緒も無茶苦茶だ。


俺は、祈った。心から祈った。

みんなが異世界で、元気に飛び跳ねてることを。

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