第33話 汚れっちまった悲しみに

死体消しのバイト……普通に言っちゃってるけど、これやばいヤツだからな。死体洗いのバイトだって、神聖な仕事なのに、おおっぴらには募集してない。その上、死体消しだからな。


まるで黒板消しのように、死体消しと言ってる。

消しゴムの砂消しのように、死体消しと言ってる。

まるでケシの花のように、死体ケシと言ってる。

言ってない。やばいやばい。


恩田さんはこれを人助けって言ってる。幾ら異世界の湖に沈めてるといっても、これは死体遺棄だし、犯罪だし。捕まるし。捕まるよ、マジで。違法動画をアップしてる奴のように。でもあいつら本当に捕まってるのか? 違法動画あふれかえってるぞ。


あの警告するCMもなんか、父ちゃんが見てた古いアニメのど根性ガエルに絵柄が似てるぞ。あれはいいのか? 著作権とかに抵触しないのか?


違法動画のことなんてどうだっていいんだよ、今は死体ケシ、じゃなくて、死体消しについてだ。

  

実際に家族にお金は渡ってると思うけど、殺されて臓器を全部抜かれて、死体にされてって、本人たまらないな。


まあいつまでもやっていられる仕事ではない。


学校が終わって俺は家に帰り、死体消しまで時間があったので、キララにLINEしてみた。


『キララどうしてる? 死の魔人に会えた?』

しばらく時間が空き、退屈さで思わず握ろうとしたところで、返事が来た。


『まだ。ダンジョンで迷ってしまってる。一度通った所はマジックで壁に印をつけてたのに、落書きはいけないって、ユリナが消しちゃったから、もうどこにいるかもわからない。


ルララバァッ! って言ってやったら、チンカスシコシコカァッ! って言い返された』


ルララバァッって、死ね、皮かぶりのクソ野郎って意味だっけ。


チンカスシコシコカアって、もう意味も聞きたくないな。


『あっ、チンカスシコシコカアッて、怒らないでもっと建設的な話合いをしようって、意味だって』


チンカスシコシコカアッ! に建設的な話合いなんていう意味を込める、その地方の人たちはどうかしてると思う。


『そうなんだ。あ、キララに聞きたいことがあってさ、どうしてキララが異世界で生きてることを両親に教えちゃいけないの?』


既読がついた。が、しばらく返事がこない。

また俺が自分のアオハルを握ろうとすると、メッセージが来た。


『あの人たちは敵だから。出来れば2人とも死んで欲しい』


えっ、真中名さんの話とはえらく違う。


『どうしてそんな風に思うのさ?』

『あの人たちは裏でひどいことをしてるから』

『ひどいことって何を?』

『それは教えたくない。

だから絶対に両親には話さないで』

『わかった』


そう答えるしかない。

『あっ、なんか抜け道が見つかったみたいだから行くね』

『うん、気をつけてね』


キララの両親は何をしてるんだ。裏で汚いことでもしてるのか。


俺は俺のアオハルを握って引っ張り、アオハルについた睾丸の裏側を見てみた。汚れていた。俺の睾丸の裏は汚れっちまった悲しみになっていた。


睾丸の裏さえ汚いのだから、

人だって裏で汚いことをしててもおかしくない。

論理的に間違ったことは一つも言ってない。


バイトの前に風呂に入ろう。そして汚れっちまった悲しみを洗い流そう。



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