第32話 全身吹き出物

高校も行かなきゃだ。

このクラスでの俺は、誰もが腫れ物に触るような、腰の引けた対応をされる存在だ。


俺は腫れ物だ。いや、もう吹き出物だ。俺は全身吹き出物だ。見るからに吹き出物だ。粉も吹いてる。キモいな。


彼女がトラックに轢かれて行方不明になり、助けたいじめられっ子は刺されて死に、友達は行方不明だ。まあみんな異世界で元気にしてるのだが。


俺はクラスで浮いてる。川釣りの浮きのように浮いてる。なんだか、風流な例えをしてしまった。


まあ異世界のこととか、半グレ集団との関わりとか、知られていないので良しとしよう。良しとしようって、おじいさんみたいだな。言語的に。


今日の授業が終わり、教科書を全部ロッカーにしまっていると、クラスの女子が声を掛けてきた。

真中名さんだ。まなかな。双子みたいな名字だ。双子みたいな名字ってなんだよ。


「色んなことがあったけど、入来くん大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

俺がそう言うと、真中名さんは長い髪を照れたようにしきりに触り、

「姫来(キララ)もどこに行ったんだろうね」

メガネのずれを直した。


あ、真中名さんはキララの友達だった。

でもLINEの連絡は届いてなさそうだ。


「元気にしてると思うよ。俺はそう思うようにしてる。元気にどこかで飛び跳ねてるよ」


俺がそう言うと、真中名さんが不意に涙をこぼした。


「うん、そうだね。姫来きっと元気に飛び跳ねてるね」

しまった。キララは本当に飛び跳ねて、死の魔人と戦ってるのに、なんだか切ない思いをさせてしまった。


真中名さんはメガネを取って、涙を拭った。


その瞬間、世界が変わった。メガネをかけていた時の平凡な世界が一変して、キラキラとしたダイヤモンドダストが散らばってるような、彼女の周囲が輝きに満ちた。


メガネ女子がメガネを外すと実は美少女という、ありがちな話ではなく、時空ごとひっくり返すほどの衝撃だった。俺は眩しくて彼女のことが見られなかった。太陽だ、まともに見たら目がおかしくなってしまう。


彼女が涙を拭き終わり、またメガネをかけると、世界は輝きを失い、ダイヤモンドダストも消え、吐瀉物みたいな日常に戻った。


すごいな。このパワー。


「ねえ、真中名さんメガネはずせば。コンタクトとかにすれば良いのに」


「コンタクトも試したんだ。でもあれを入れると目がグチョグチョになって、鼻水もダラダラになって、よだれまでヌルヌル垂らして、収集がつかなくなったから、やめたの。


グチョグチョとダラダラとヌルヌルって擬音、誰が作ったんだろうね。すごくキモい。そんな擬音さえなければ、私だってコンタクトにしてたのに」


擬音が彼女の輝きを、美しさ、を潰したのだ。


「あのさ、キララの家族のことって詳しい?」

「そんなには。あまり家の話しない子だったし」

「両親とモメてたりする?」

「そんなことないよ。よく進路の相談とかしてるって言ってたし、姫来も医大を目指してたんだ」

 

えっ、キララは両親に異世界に行ったことは絶対に言うなと、LINEで伝えてきた。


俺はキララが両親とは不仲で、2人に知られないように、人生を異世界でやり直したいんだと思ってた。


でも違うみたいだ。


「そっか、ありがとう」

「入来くん、これから時間ある?」

「ごめん、これからバイトなんだ」

これから死体を消すバイトが入っている。


「じゃあ、また今度誘っていい?」

「うん、いいよ」


俺は真中名さんに手を振って、教室を出た。

後でキララに尋ねてみよう。なぜ親に秘密にしてるのかを。











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