第36話 新鮮な断末魔
『キララ、うちのオヤジがそっちに行かなかった?』
俺はそうLINEした。
しばらく待ったが既読にならなかったので浅月さんに言ってタクシーを呼んでもらった。タクシーが来るまでに、振り返って倉庫の写真をスマホで撮った。ここで武郎の遺体は消されたのだ。そして俺はやって来たタクシーに乗って家に帰った。
母の正恵がキッチンから顔を出して、
「今日はアジの活き造りだよ! 皿の上で尾ビレをバチバチ振ってるよ! 断末魔だよ! 」
「そっか」
「食べるんだろ? バチバチの断末魔のアジ」
「ああ」
母もキツいだろうな、この情緒でいるの。
「どうした、元気がないねえ。踊ろうか? な、母さんサンバでも半裸で踊ろうか?」
「いいわ、それは。あ、オヤジはどうしてる?」
「頭を鈍器で殴られた人みたいに眠ってるよ」
「そっか」
オヤジのことは隠すつもりなんだな。それなら、それに付き合わないと。
その時、ポケットでバイブが震えた。
スマホを見るとキララからLINEが来ていた。
俺はすぐに自分の部屋に入り、そのメッセージを見た。
『リズムのお父さん? 来てないよ。なんで?』
『死んだんだ』
『えっ、どうして?』
『色々あって、借金を精算するために死んだんだ』
少し間が空いた。
『それはかなり、ご愁傷様だしょう』
だしょう。
この場合、だしょうは言葉遣いとしてないよね。
でもそんなおバカな感じが、なんか胸に来て、ちょっとうれしかった。
『ユリナも、おチンコだって』
これはどういう意味だろう。お、がついてるから、やはり丁寧な言い方をしたのだ。葬祭に相応しい、とても常識的な言葉なのだろう。
でも、おチンコって。
『結構、落ち込んでる?』
『まあね、ちょっと泣いたし』
『そうだよね、泣くよね』
『キララはいいのか? 両親に言わなくて。キララが行方不明になって、生きてるのか死んでるのかわからなくて、今の俺のような気持ちになってるかもしれないんだぜ』
その言葉が効いたのか、また間が空いた。
すると急に、
『カワカブリシコシコシコッテチンコ。オチンコ。オーマイオチンコ。リズムニチカラアタエテ』
なんだこれ。ちょっと感情的になってる。最後は日本語だし。
『あ、ごめん。ユリナが一言伝えたかったから貸してって言われて』
『うん、ありがとう。チンコって伝えといて』
『私もいつか伝えるから。両親に。ちゃんと。だから待ってて』
『うん、わかった』
母さんがリビングから、
「バチバチのアジの断末魔の声が聞こえなくなるよ! 新鮮な断末魔だよ、断末魔」
断末魔うるさいな。
俺はスマホをポケットに入れて、キッチンに行った。
アジって声を出すのだろうか?
出すわきゃないな。
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